追放、お金、無理難題
あなたは「マッチ売りの少女」という童話を知っているだろうか?
一応知らない人に説明すると「マッチを売る少女が誰からも相手にされないどころか酷い目に遭い、最終的に幻覚を見て死ぬ」という内容だ。
では、もしその「マッチ売りの少女」が最近のネット小説のように「追放」されていたとしたら?
それはそんな物語。
◇
「アリッサ、お前は今からこの家に入ってくるな!」
私の名前はアリッサと言います。
苗字はありません。なぜかと言うと、この世界で苗字を名乗れるのは貴族か王族ぐらいだからです。
そして今、父親から追放を言い渡されました。
私は母親であるマリーと、目の前にいる父親……いや、アルコール中毒者であるケインの間に生まれました。
アル中の父親なんて私は絶対に嫌ですが、まあ仕方がないでしょう。
ちなみにお母様はどうなったかと言いますと、私がまだ赤ちゃんだった頃に持病の悪化により死んだようです。
その後ケインは私の育児に疲れたのか、酒に溺れてしまいました。
そしていつの間にかケインは仕事をやめ、私に「マッチを売ってお金を稼げ」と命令するようになりました。
ていうかマッチ以外にも高く売れるものあるだと思いますが、こんな人間のクズみたいなものにそんなアドバイスいらないですよね。
そして今日も、父親からマッチをもらって外に出る……はずでした。
そうしてさっきの「家に入ってくるな宣言」……つまり「追放宣言」につながるのです。
今からどうすればいいのかわからないので、とりあえずどうして私を追放するのか聞いてみることにします。
「あの、どうして私を家から追い出すのですか? 私はちゃんとお父様を助けてましたよ?」
お父様というのは、無理やりそういわされているだけです。
実際はお父様どころか「クズ」と言いたいぐらいですが、殴られるだけなのでやめておいているだけなのです。
「それはな、お前を養うお金がないからだ! お前がいなくなれば、もっと酒が飲める!」
「それなら娼館とか奴隷商人に売り飛ばせばいいだろ」と思いましたが、そんなことを言ったら酒のことしか考えないケインは「お、そうだな」ということで容赦無く私をそういうのに売り飛ばしてしまうでしょう。
なので言わないでおきます。
「それとせめてもの情けとして、このマッチをやる! これさえあれば寒さはしのげるだろ?」
「いや今の寒さだと凍え死ぬ未来しか見えないですよお父様」
「うるさい! お金を稼いできたらいいのだお前は!」
今は魔法歴500年1月20日。
はるか東に存在する王国では、「大寒」とも言われている時期です。
つまり、それぐらい寒いというわけです。
そんな時期の夜に半袖とまでは言いませんがろくに防寒着など持っていない私が放り出されたら、死ぬのは目に見えています。
「……しかし私がいくらお金を稼いでも、帰ってこなければ意味ないですよ?」
「わかった! それなら、帰ってもいい条件を出す! そのマッチで100万ゴルド稼げ!」
100万ゴルドというのは、途方もない額です。
1万ゴルドほどあれば一ヶ月働かなくても暮らせるので、単純計算で100ヶ月遊んで暮らせることになります。
そんなお金をこのマッチ一箱で稼ぐなんて、不可能です。
「もう話す時間がない! もうでてけ!」
そういってケインは私を部屋の外に放り出しました。
〜〜〜プチコラム(ここにちょっとした設定を書いておきます)〜〜〜
はるか東に存在する王国
日本みたいな文化を持つ王国。国号は「和」。
他のラノベとかにもよくある「東の果てには日本みたいな国があって〜」みたいな感じ。
実際に登場する予定はない。
この世界での物価
1ゴルド=10円ぐらいだが、作者のさじ加減で変わるかもしれない。
物価は今の日本よりは安い。
マッチ
現実世界でマッチが生まれたのは1827年なので「現実世界で言う」中世にはマッチは存在しない。
しかしこの世界では「|紅炎石《ファイアニウム》」という架空の鉱石によりマッチが作られているため存在する。
そして|紅炎石《ファイアニウム》はありふれた鉱石なのでマッチは安価で大量生産されている。