もう一度、中学生
30分間もトイレの外で待たせてしまったので……。
アンナはすごく心配していた。
「タッくん。大丈夫? すごく長いトイレだったけど?」
「あ、ああ……ちょっと、腹を痛めてな」
本当は、君のパンストをクンカクンカしていたから、遅くなったとは言えないからな。
「そうなの? お腹痛いなら、アンナが手でさすろうか?」
「いや……大丈夫だ。さ、取材へ行こう」
どうせなら、その可愛い手で股間を解放して欲しいものだ……。
※
博多駅の筑紫口から、バスに乗り、20分ほど経つと。
巨大なロボット……いや、モビルスーツが見えてきた。
窓に顔を張り付けて、思わず叫び声を上げる。
「あれは、おニューなモビルスーツ!」
ようやく、今回の取材地が判明した。
最近、福岡市に建設された大型の商業施設『れれぽーと 福岡』だ。
男の子が憧れるモビルスーツが、実物大で展示されているため、インパクト大だ。
そして、「こいつ、動くぞぉ!」という名セリフを皆で叫べる。
噂では一時間ごとに、ショーが開催されるのだとか。
バスを降りて、すぐにモビルスーツの足もとまで向かおうとした瞬間。
アンナが俺の肩に触れて、こう言った。
「タッくん☆ どこへ行くの?」
「え? そりゃ、れれぽーとに来たからには、ちゃんとあの顔を見ておかないとだな……」
しかし、アンナは笑顔のまま、首を左右に振る。
「ダ~メ☆ 今日の取材は、アンナとタッくんの大事な大事な、赤ちゃんだよ☆ ロボットなんていつでも見られるでしょ?」
「そ、そんな……マジで見ちゃダメなの? ほんのちょっと。写真ぐらいなら……」
「こぉら☆ パパは赤ちゃんを一番にしないとダメだよ☆」
「はい……」
結局、俺はこの後もモビルスーツに近づくことは許されなかった。
クソがっ!
1回ぐらい、「ファンネル!」って言いたかった……。
※
アンナのお目当ては、れれぽーとではなかった。
れれぽーと本館に隣接している『ラッザニア』という子供向けの職業体験テーマパーク。
早い話が、幼稚園児から小学生ぐらいまでのお子ちゃまを、対象とした遊園地みたいなものだ。
入口には既にたくさんの親子連れで、行列が出来ていた。
主に未就学児が多く感じる。
俺たち、カップルが入って良い施設なのか?
「なあ、アンナ。このラッザニアってのは、小学生までが対象じゃないのか?」
「ううん。違うよ☆」
その答えに俺は、ホッとする。
「つまり大人でも遊べるってことだな? それなら、安心……」
と言いかけたところで、アンナが即座に否定する。
「大人はダメだよ☆」
「え……?」
「ラッザニアには、中学生までだよ☆」
「は? じゃ、俺たちは無理じゃないか」
しかし、アンナは特に悪びれることもなく、ニコニコ笑って、チケットを二枚取り出す。
「大丈夫だよ☆ ちゃんとネットで予約しておいたから。タッくんは中学3年生の15才。アンナは2歳下の13才で、1年生って登録したんだ☆」
「ま、マジ……?」
思い切り、犯罪だろ。
一気に血の気が引いたわ。
ていうか、俺が中学生の設定とか、無理があるだろ。
もう18才で、成人だぜ。
「だから、タッくんは今日、一日。地元の|真島《まじま》中学の3年生って言ってね☆」
ファッ!?
とっくの昔に卒業したのに。
「りょ、了解……」
「アンナは|席内《むしろうち》中学校の1年生なの☆」
学生手帳を出せって言われたら、どうする気なんだ。この人。
入口はなんでか、大きなジェット機が飾られていて、空港みたいなゲートになっていた。
そこで、アンナがスチュワーデス姿のお姉さんにチケットを渡す。
特に何も言われなかったが、チケットと引き換えにフリーパスを渡してくれた時。
名前と年齢を見たお姉さんが、俺の顔をじっと見つめる。
「えっと、新宮くんでいいのかな? 中学生……なんか大人びてるね」
「あ、よく言われます……」
どうにか、疑われずに済んだ。
騙して、ごめんなさい……。