2話 密命
俺……ジーク・スノーフィールドは魔法が好きだ。
魔力を糧に色々な奇跡を起こすことが可能だ。
炎や水を生み出すことができる。
風や土を生み出すことができる。
光や闇を生み出すことができる。
他にも……
転移魔法、収納魔法、結界魔法、治癒魔法、防御魔法……などなど。
使い道は多種多様で、数え切れないほどの魔法が世の中にあふれている。
俺はそれに魅了された。
たくさんの魔法を習得したい。
それだけではなくて、オリジナルの魔法を開発したい。
そうやって魔法を極めたい。
幼い頃から魔法について学び、研鑽を積んだ。
遊んでいるヒマなんてない。
そんな時間があれば、全て魔法を学ぶことに費やした。
結果……
俺は、15歳で、最強の魔法使いに送られる『賢者』の称号を得た。
それくらい成長することができた。
ただ、まだまだ終わらない。
魔法の道は果てしなく、どこまでも終わりがない。
これからも魔法の勉強をしよう。
残りの人生、全てを魔法に捧げよう。
そう思っていたのだけど……
――――――――――
「ジーク・スノーフィールドよ。そなたにとても重要な任務を与える」
謁見の間。
玉座に座る王は、俺を呼び出して、そんなことを口にした。
「はぁ……」
周囲の兵士や大臣達は凛とした表情をしているが、俺は、たぶんめんどくさそうな顔をしているだろう。
だって、そうだろう?
こうして話をしている時間が惜しい。
数分だとしても、その時間を魔法の研究に捧げたいのだ。
とはいえ、魔法の研究は金がかかる。
魔法書はどれも高く、オリジナル魔法の開発の素材も高い。
仕方ないので給料の良い王国に雇われたものの……
ちょくちょく任務を与えられてしまうので、なかなか魔法の研究がはかどらない。
大きな仕事をしてたくさん稼いで、そのまま辞めてしまいたいところだ。
「魔法学院に通ってもらいたい」
もう少し続けてもいいかもしれない。
「お主も知っているだろうが、儂には三人の息子と六人の娘がいる」
ごめん。
今、初めて知った。
「娘達は魔法学院に通っているのだが……三女のネコネの護衛をしてほしいのだ」
「護衛?」
「娘が狙われているかもしれない、という情報を得たのだ」
「なぜ俺に? 狙われているというのなら城に戻すか、あるいは、他の者に護衛をさせてもいいのでは?」
「どうしようもなくなったのなら、そうしたいところだが……あまり大きく動きたくないのだよ」
王曰く……
敵は謀反を企んでいる貴族の可能性があるらしい。
それに利用するため、第三王女の身柄が狙われているのだとか。
彼女を守るだけなら簡単だ。
しかし、大きく動いてしまうと、危険を察知した敵は逃げてしまうだろう。
末端を捕まえても意味がない。
大本を叩くため、ある程度のところまで引きずり出したい。
故に、大きく動くことはしたくない。
「娘を囮にするのは心苦しいが……敵を放置すれば、娘だけではなく、国全体に被害が出るかもしれぬ。それだけはダメだ」
そのために、あえて非情な策を取る、ということか。
でも、本当に娘を見捨てるなんてことはしたくないから、俺を護衛に回すことを思いついたのだろう。
良策だろう。
俺は15歳なので、魔法学院に通うにはちょうどいい歳だ。
やや時期が遅れているものの、病気の療養をしていたため遅れた、とか言い訳は自由にできる。
それに、俺は一般に顔を知られていない。
王国の切り札と言われているため、知られていては困るのだが。
「敵の調査は他の者が担当する。お主は、娘の安全だけを考えてくれればいい」
「……他の姫殿下は狙われる可能性はないんですか?」
「ある。ただ、すでに別の護衛を派遣している。ネコネの護衛だけ、良い者が見つからず困っていたのだよ」
なるほど。
事情は理解した。
護衛は面倒だけど……
でも、魔法学院に通うというのは魅力的な話だ。
一般的な魔法理論などは全て学んだつもりだけど……
それとは別に、学院で得られることもあると思う。
ただ……
面倒だな。
魔法学院に通えるのは魅力的だけど、メインは護衛。
魔法の勉強に使える時間は少なそうだ。
それよりは自分で研究を詰めていく方が、時間をより有効的に使えるような……
「見事、任務を成し遂げた際は褒美を与えよう。そうだな……以前から城の禁書を閲覧したいと言っていたが、その許可を出そうではないか」
「おまかせください」
二つ返事でオーケーした。
仕事は大事だよな、うん。
そんなこんなで……
俺は正体を隠して魔法学院に入学して、密かに第三王女の護衛をすることになった。