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ある男side秘密の夜会

今夜は最近流行りの『秘密の夜会』だ。勿論いかがわしい訳ではない。公にしない分、思いがけない人物が呼ばれたりするので驚きがあったり、人数も多過ぎずに話もし易いのでより親密になれるので人気なのだ。男同士のコネ作りやら、女同士の秘密の会話、男と女の大人の関係…。

私はホールの端に立って、ワインを片手に全体を見回していた。私に気づいてる人間はあまりいない様で、この付け髭が功を奏してる様だった。主催の公爵は私にウインクするとニヤリと笑った。そして心からの満面の笑みで、今新しく訪れた新客を出迎えた。あの人がそんな顔をするのは珍しいと、私は興味が湧いてその客を見た。


そこには王都の青い宝石と謳われたジュリランド伯爵夫人が立っていた。夫人が騒がれていたのは私が子供時代だったが、今でもその美貌は衰えていない。側でエスコートしているジュリランド伯爵も相変わらずの美丈夫で、鋭い眼差しで未だに夫人に熱い眼差しを送る貴族を牽制している。

相変わらず、あのお二人は見つめ合う眼差しが暑苦しくて、私は呆れる様な、羨ましい様な、何とも言えない気持ちにさせられた。その時、夫人の後ろから現れた、スラリとした若い令嬢に、夜会に来ていた人間は思わず一緒に息を呑んだのは間違い無いだろう。


母親が青い宝石なら、父親の艶めく黒髪と母親の美しい青い瞳を受け継いで、真っ赤な唇を持つこの御令嬢は、さしずめ月の照らす夜に舞い降りた神秘的な妖精の様で、月夜姫とでも名付けるのが正解だろうか。その赤い唇が弧を描いて微笑むと、皆がうっとりとため息をつくのだから。

そう言えば公爵が、今日はピレデビュタントを呼んでいるとこっそり耳打ちしたのは、彼女の事だったに違いない。そうは言っても、私にデビュタントの16歳の女の子は相手にならない。あまりにも幼く、幼稚だ。

私は彼女が5年後ならば遊び相手になっても良かったがと思いつつも、その時には彼女の隣には父親と同じ様に、熱い眼差しで見つめる男が居るに違いないと諦めに似た、虚しい気持ちで月夜姫を見つめた。


それから私は夜会に来ていた遊び慣れた淑女達と揶揄いの会話を楽しみながら、今夜はなぜか思いの外、甘い誘いにも気が乗らなかった。そんな時だった。月夜姫のきらめく黒髪が私の視界に入ったのは。

月夜姫は夜会の空気に酔ったのか、若い貴族にエスコートされてバルコニーへと出て行った。私は眉を顰めた。これではまるっきり狼に食われるばかりではないか。私は側の扉からそっとバルコニーへ出ると、二人に気づかれない様に様子を見守った。

そして、その時それは起こった。

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