お父様の提案
最近のわたくし宛の熱心な贈り物攻撃に、お父様は少し心配顔、でも本心はとても誇らしげですわ。
「可愛いマリー。お前の美しさ、愛しさはデビュー前だというのに、王都で評判と見える。我が妻を愛する私もそうだったが、お前に恋慕する紳士達にとってみれば、大変な苦労をするに違いないな。ハハハ。」
お父様はそこまでお話になって、満足気にひと口お茶を嗜むと、わたくしに微笑んでこうおっしゃいました。
「実は、アンナマリーの噂を聞きつけて、私の友人が秘密の夜会を開くので、デビュー前だが是非マリーに来て欲しいとごねてしまったのだ。マリーは本来はまだ夜会へは出られないが、秘密の夜会なら大丈夫だ。最近はそうやって事前に軽めのお披露目をしている家がほとんどだからな。私はずっと断っていたのだが、さすがに公爵家の要請で断れなくてな。」
黙って聞いていたお母様が、急に顔を綻ばせてお父様にお聞きになりました。
「まぁ、もしかしてシェリルの?」
「ああ、愛しの奥様。君も喜ぶと思って内緒にしていたんだ。」
そう言うと、お父様は立ち上がってお側に寄られると、優しくお母様を見つめながらお母様の髪を掬うと愛しげに口づけました。わたくしはこのお二人の様に、ずっと変わらない愛情を交わし合う相手と巡り会いたいとずっと思っていました。
今、私がある意味無謀な事をしているのも、ひとえにその為でもあるのですわ。人生は一度きり。この貴族社会では死別でもしなければ、二度目の恋は出来ません。勿論人目に隠れての遊びでの恋愛ごっこはあるでしょうが、私は結婚相手には永遠の愛を捧げたいと思っているのですわ。そして相手にも同じだけの愛を返してもらいたいのです。
それが贅沢なのか、無謀な事なのか…。でもわたくしの人生ですもの、わたくしの思う様に生きてみたいですわ。
それからお母様とわたくしは忙しい毎日を送りました。非公式の夜会とはいえ、公爵家主催です。しかも公爵夫人とお母様は昔ながらの親友とのことでした。もしかして小さい頃に良く遊んでいただいたシェリルおばさまだとはわたくしも失念していました。しかもお母様のお友達ですもの、きっと未だに美魔女に違いありませんわ。わたくしの成長を見て喜んでいただける様に、お洒落に気は抜けませんわ。
わたくしとお母様、そして美容担当の使用人たちは本当に張り切ったのでございます。そしてその夜はやって来ました。