魔王は俺を見ると、笑みを浮かべた。
マスターは警察に連行された。
警察はマスターがカルト集団の一員であると決めつけた。マスターは拷問を受けて自白を強要された。マスターは異世界人を使って世界征服を企んでいたと自供した。
異世界難民の会は解散させられ、幹部たちは逮捕された。異世界難民の会は解体に追い込まれた。自衛隊が異世界難民の会の拠点を襲撃すると、会員たちの体から寄生虫のような生き物が飛び出して暴れ回った。
俺はテレビを見て舌打ちした。異世界難民の会が壊滅したことで、異世界からやってきた異世界人たちの処遇が問題になった。異世界人たちは日本政府によって保護されたが、彼らは日本社会に適応できず、次々と自殺していった。彼らの中には精神に異常をきたした者もいた。俺はニュースを見ながら、異世界難民の会が壊滅しても事態は改善されなかった。むしろ悪化したと言っていい。異世界難民の会の背後には魔王がいた。異世界難民の会を隠れ蓑にして、異世界からやってきた異世界人を利用したのだ。
俺は歯噛みした。魔王は異世界難民の会を操っていた。俺はまんまと利用されたわけだ。
俺は歯ぎしりした。「ちくしょう、魔王の野郎」
俺は怒りに身を任せて壁を殴った。
魔王はいったい何を考えているんだ? どうして異世界難民の会を放置しておく? 俺は頭を抱えた。「分からない」
俺は魔王の考えが全く読めなかった。
俺は異世界難民の会を壊滅させた。だが、魔王を討伐することはできなかった。魔王は異世界難民の会を利用して、世界を征服しようとしていた。俺は魔王を倒すどころか、逆に魔王に利用されてしまった。
俺は悔しくてたまらなかった。俺はいったい何のために戦ったんだ? 俺は勇者として異世界召喚された。魔王を倒して元の世界に戻るために戦ってきた。なのに、俺が倒したのは魔王の配下で、魔王はピンピンしている。これでは魔王を倒したことにはならない。
俺はいったい何なんだ? 俺は勇者なのか? それとも魔王の配下なのか? 俺には分からなかった。
俺は自分の気持ちを確かめることにした。
俺は魔王に会いに行くことを決めた。
俺が会いに行ったところで、相手にされるとは限らない。だが、会わないことには何も始まらない。
俺は旅支度を整えると、家を出た。
俺は電車に乗って魔王城へ向かった。
俺は電車を降りると、タクシーを捕まえた。
運転手に魔王城の住所を伝えた。
魔王城は街外れにあった。
俺は魔王城にたどり着くと、
「ごめんください」
俺は玄関の扉をノックした。
返事はない。俺はもう一度、扉を叩いた。
やはり反応がない。留守だろうか? 俺は門をくぐって魔王城を散策することにした。
魔王城は山の上に建っている。魔王は空を飛べるため、
「こんな不便な場所に建てたのか?」
俺は疑問を抱いた。
魔王は魔王城から一歩も外に出ない。魔王は外出するときは必ず、異世界人を連れていく。異世界人なしで外に出ることはないはずだ。
俺は魔王の行動に疑問を抱いていた。
「本当にここに魔王がいるのか?」
「魔王はここに住んでいる」
俺は驚いて振り向いた。そこには黒いローブを身に纏った男が立っていた。
俺は腰にぶら下げている剣に手を伸ばした。
だが、相手は両手を上げて、敵意がないことを示した。
「待ってくれ。私は魔王の使いだ」
「魔王の使いだと」
「そうだ。君を案内するように命じられている」
「魔王はどこにいる」
「魔王は魔王の間と呼ばれる部屋にいる」
「魔王の間に案内しろ」
「分かった」
俺は魔王の使いを名乗る男の後に続いた。魔王の使いは魔王の間の前まで俺を連れて行くと、
「ここで待っていてくれ」
そう言って姿を消した。
俺は魔王の使いの言葉に従った。
しばらくすると、魔王の使いは戻ってきた。
「入れ」
魔王の使いは魔王の間を指さすと、踵を返した。
俺は魔王の使いの後に続いて魔王の部屋に入った。
魔王は部屋の中央にある玉座に座っていた。
魔王は俺を見ると、笑みを浮かべた。
「よく来たな。待っていたぞ」
「俺を呼んだのはあんたか」
「そのとおりだ」
「なぜ呼んだ」
「お前に興味があったからだ」
「興味?」
「そうだ。異世界人の少年よ。私の下へ来る気はないか?」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。私に協力してくれれば、元の世界に戻れるかもしれない」
「本当か?」
「可能性はある」
「なぜそんなことをしてくれる?」
「理由はいくつかあるが……一番大きな理由を挙げるなら、異世界人は人間の魂を堕落させる存在だからだ」
俺は思わず息を呑んだ。
魔王は俺の心を読んだのか、言葉を続けた。
異世界人は人間より優れている。しかし異世界人は人間より優れた存在ではあるが、弱点もある。異世界人は魔法を使うことができる。魔法を使うと、人間を凌駕する身体能力を発揮することができる。
「異世界人は人間を凌駕している」
俺は呟きながら、腕輪に手を触れようとした。
しかし、俺は思い留まった。俺はこの前、メリダを庇う際に無意識のうちに拳を振り上げていた。俺の意思とは関係なく、勝手に体が動いてしまった。おそらく、あのときから魔王は俺に目をつけていたのだろう。
俺は魔王を見据えた。
「俺が協力したら、魔王はどうするつもりなんだ?」
「簡単なことだ。異世界人を殲滅する」
「どうして?」
「異世界人が人間より優れているからよ。人間はいずれ滅びる運命にある。だから、異世界人を利用するのよ」
「異世界人と人間は共存できないというのか?」
「その通りよ」
「どうして?」
「どうして?」
「どうして共存できないんだ?」
「どうして?」
「どうして?」
「…………」
「…………」
「どうしてかしら?」
「知らないよ」
俺は脱力してその場に座り込んだ。
「でも、この世界の未来は明るいわ。だって、あなたが私たちの仲間になるんですもの」
俺は眉間にシワを寄せた。
すると、魔王は目を輝かせた。
俺は頭を掻きむしると、深いため息をついた。そして覚悟を決めた。俺は腕輪の力を解放すると、メリダに近づいた。
メリダの顔が恐怖で歪んだ。
俺はメリダの腕を掴むと、強引に引っ張った。メリダは悲鳴を上げ、抵抗したが、俺は構わずに力任せに引っ張った。メリダは俺の手から逃れようと必死に抗った。
メリダの足がもつれて転びそうになった。俺はメリダを抱きかかえると、床に下ろした。
メリダは呆然としていた。俺はメリダに背を向けると、魔王に向き直った。
魔王は俺の態度に驚いていた。
俺は魔王に歩み寄ると、
――パンッ! 俺は魔王の頬を張り飛ばした。魔王は呆然としていた。俺は魔王を睨みつけた。
魔王は信じられないという表情をしていた。
俺は魔王に近寄った。
魔王は後ずさりしながら、後退していく。やがて壁際まで追い詰められた魔王は壁を背にして、震えていた。俺は魔王の胸ぐらを掴んだ。
魔王は怯えた目で俺を見た。
俺は魔王を睨みつけた。
魔王は震えていたが、それでも強がるように虚勢を張っていた。
俺は魔王を突き放した。魔王は尻餅をつくと、「わ、私は魔王だ。貴様など、いつでも殺せるのだぞ」
震え声で言った。
俺は魔王に歩み寄り、しゃがみ込むと、魔王と視線の高さを合わせた。俺は魔王の目を見て、口を開いた。
「魔王は嘘つきだ」