第二十六話 最高の舞台
メオス王国軍のナブ将軍は望遠鏡をしまい、眼前に迫る敵の騎兵隊を見据えて手斧と円盾を構える。
(先頭の騎士・・・ミスリルの銀の鎧に紅い肩。・・・背筋が凍りつく。ゾクゾクする。アレは危険だ。・・・
ナブは自分に迫る騎兵隊の正面から素早く飛び退くと、騎兵隊とのすれ違いざまに黒衣の戦士の馬を手斧で斬り付けた。
ユニコーン小隊は、兜に二本の孔雀の羽を付け、マントを羽織った敵将らしき者を見つけ、突撃を仕掛ける。
敵将は小隊の正面から飛び退くと、すれ違いざまにジカイラの乗る馬を斬り付ける。
ジカイラもすれ違いざまに敵将の肩口を
敵将は
ジカイラが乗る馬が悲鳴を上げて崩れ落ちる。
「うおっ!?」
ジカイラは馬から飛び降り、態勢を保ちながら着地する。
「「ジカイラ!!」」
「「ジカさん!!」」
ラインハルトは即座に落馬したジカイラを庇うように指示を出す。
「防御円陣! 近接戦用意!!」
ユニコーン小隊は、ジカイラと敵将を囲むように、周囲に馬を走らせながら円陣を組む。
ラインハルトとナナイは
ケニーも強化弓で敵兵を射抜く。
ユニコーン小隊が囲む円陣の中で、ジカイラは、対峙する敵将に向かって告げる。
「
ジカイラは、
「帝国無宿人、ジカイラ推参!!」
敵将も手斧と
「メオス王国バレンシュテット派遣軍、将軍ナブ・エング!!」
ジカイラは、構えた
ナブは、かがんで
ジカイラが
ナブは、手斧でジカイラを斬りつける。
ジカイラは
「少しはやるじゃないか!」
ジカイラはそう言うと、腰を落として深く息を吸い込み、貯めの姿勢を取る。
(
ジカイラの渾身の力を込めた
ナブは円盾で
しかし、
ナブの体は
「ぐおおおおっ!! カハッ! カハッ!!」
ナブは右手に持つ手斧を杖代わりにして起き上がり、片膝を立て
(くうっ・・・刃は通っていない。だが、腕とあばらが折れたか)
ラインハルトが敵の新手が来るのを見つけ、指示を出す。
「ジカイラ! 敵の新手が来る! 味方の位置まで一旦、下がる!!」
ジカイラがラインハルトが剣で指す方向を見ると、敵の隊長らしき者が二十人ほど引き連れて走って来る姿が見えた。
「将軍をお助けしろ! 続け!!」
「馬の礼だ! 取っておきな!!」
ジカイラはナブにそう告げると、馬に乗るヒナの後ろに飛び乗る。
ジカイラは、前に居るヒナの細い腰に掴まる。
柔らかい、年頃の女の子の感触。
ヒナが驚いて声をあげる。
「ひゃっ!? お尻触らないで! お嫁にいけなくなっちゃう!!」
「大丈夫だ! オレが貰ってやる!!」
二人のやり取りを見たラインハルトが離脱指示を出した。
「引くぞ!!」
ユニコーン小隊はメオス王国軍の本陣から颯爽と引き上げていった。
隊長のクルトがナブに駆け寄る。
「将軍、御無事ですか?」
「すまんが、動けん。ヴァンガーハーフェンまで撤退しろ」
クルトは大声で撤退命令を伝える。
「ナブ将軍が負傷された! ヴァンガーハーフェンまで撤退しろ!!」
兵士達は矢を防ぐ木盾の上にナブを寝かせると、四人で持ち上げ撤退していった。
ユニコーン小隊が味方の革命軍に合流すると、メオス王国軍は野戦陣地を放棄して撤退し始めた。
「深追いは無用だ。野戦陣地の占領は革命軍に任せて、宿営地に戻ろう」
ラインハルトの提案にハリッシュが同意の意見を言う。
「同感です。王国軍の損害は甚大です。すぐには立て直し出来ないでしょう。我々が此処に残ったところで、何も出来ませんしね」
他の小隊メンバーも同意件のようだった。
「宿営地へ向かう」
ラインハルトはそう言うと、宿営地に小隊の針路を向けた。
宿営地に向かう道中、ジカイラはヒナと同じ馬に乗っていた。
ジカイラの目に華奢なヒナの後ろ姿が目に入る。
ジカイラは両手でヒナの両肩を横からポンポンと叩くと、そのまま肩から背中、そして腰へと身体のラインを両手でなぞる。
ビクンとヒナが仰け反り、ガクガク震える。
「ヒナ。普段からローブ着ているんで目立たないが、お前、良い身体してるじゃないか。ベッドに持ち帰りしたくなる」
ヒナが驚きの声を上げた。
「ジカさん、変なとこ触らないで!!」
次の瞬間、ジカイラの兜が乾いた音を立て、衝撃が頭を襲う。
いつの間にか後ろに回っていたナナイが
「セクハラはダメよ!」
ナナイからの注意にジカイラが言い訳する。
「痛ッテエな! スキンシップだよ、スキンシップ! なぁ、ヒナ?」
「知らなーい!」
ヒナは顔を赤らめて頬を膨らませ、そっぽを向く。
ジカイラが続ける。
「まぁ、『鬼の副長』が女になるのは、ラインハルトの前だけだからな。『鬼に金棒』、『ナナイに
ナナイが後ろからジカイラの背中を
ジカイラが叫ぶ。
「痛いって! ナナイ、ソレが刺さったら死ぬんだぞ!?」
「何!? 何か言った?」
「何でもありません! 副長様!!」
二人のやり取りを見ていた小隊メンバーが笑い声をあげる。
--国境の街ヴァンガーハーフェン メオス王国軍司令部
木盾の上に横たわったまま、ナブ将軍は司令部に運ばれていた。
メオス王国軍のガローニ将軍がナブの傍らに来る。
「どうした! 何があった!?」
ガローニの問いに、荒い息のナブが答える。
「て、帝国軍らしき部隊にやられた。強力な魔法攻撃で師団は壊滅した。・・・魔法陣が六つだ。・・・あり得ない」
「なんだと!?」
「ゴホッ、ゴホッ。・・・混乱した師団に騎兵隊が突撃してきた。重装備の騎士の部隊だ。・・・そいつらとやりあって、このザマだ。・・・恐ろしい手練れだ」
「農兵ではなく、騎士が来た!?」
「・・・そうだ。ミスリルの鎧に紅い肩の奴が率いる部隊だ」
「あの
ガローニは、ナブの報告に精神的激しいショックを受ける。
目の前が真っ暗になるようだった。
ナブがガローニに詫びる。
「ゴホッ、ゴホッ。・・・すまない。お前の言うとおりだった。俺達は帝国軍という『眠れる獅子』を起こしてしまったようだ」
「もういい。喋るな! じきに神官が来て回復魔法を掛けてくれる!」
ガローニは、木盾にナブを乗せて運んできた兵士達に命令する。
「お前達、ナブを医務室へ運べ!」
ナブは、木盾に乗せられたまま医務室へ運ばれていった。
ガローニは考える。
(魔法攻撃で陣地を破壊して師団を混乱させ、騎兵突撃で中央突破し本陣を狙う。農兵の、素人の戦術ではない)
(しかも、魔法陣が六つとは・・・帝国の魔法技術は、我が国より二百年以上進んでいる)
(よりによって、
色々と思案した挙げ句、ガローニは司令部がある建物の天窓を見上げる。
夕日が天窓を照らしていた。
ガローニが呟く。
「空に戦艦を浮かべる帝国と、どう戦えと・・・」