第3章の第49話 くじ引きと、スバルVSアイ
ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ
と次々拳銃(ハンドガン)を構えていく軍人達。
これを見たアユミ(あたし)たちは。
『「「「――!!」」」」』
絶体絶命のピンチに遭遇した。
「「死ね――!!!」」
その時、レグルスの手爪が燃える。
☆彡
別所。
星王アンドロメダがその口を開いた。
「アイ……沈めろ」
競技場に周辺にある拡声器を通じて、星王アンドロメダ様からの命が下る。
小さく頷くアイ。はい、王の仰せのままに。
アイと呼ばれた少女は、身を小さくし前傾姿勢を取り、その足に魔力を集中し――爆発。
ドンッ
と弾丸の如く躍り出た。
「――!!」
目にも止まらない一閃。
その軍人たちの後ろに着地した瞬間。
――時間が凝縮したように、スローモーションになった。
この時、近くで軍人が悲鳴を上げながら炎上していた。
アイは流し目でそれを認める。
(……)
(アイか……)
俺はこの場から飛び、この場をアイのやり方に任せる。
この行為に、アイは嘆息す。
――そして、止まっていた時間が動き出し、スローモーションから普通の時間が流れる。
バババババン
拳銃を構えていたその両手が、腕から切り離されて、激しい血しぶきとなって暴発した。
アイは背中を向いたまま、降り注ぐ赤き鮮血。
だが、一滴もその少女を汚さない。
なぜなら、冷気がそれを受け止め、受け流していくからだ。
「「「「「「ぎゃあああああ」」」」」
「て、手がぁあああああ!!!」
「あああ……ッ」
炎上しながら燃え盛っていた軍人が、悲鳴を上げながら、バタリと焼死体となって息絶える……。
もちろん、レグルスがやったものだ。
「……」
あいつ、……逃げたな。
この瞬間、あたしの印象は悪くなった……。まぁ、別にいいけど……。
アイちゃんが後ろでその悲鳴を聞くと、たった1個だけ掴み取っていた手を、グシャッと握り潰した。
表情は、まったく変わらず、まるで氷のような少女だ。
「こ、こいつ――!!」
だが周りには仲間がいて、いきなり現れた少女を怪しいと思い、
拳銃を構え、引き金を引いて発砲した。
弾丸の嵐が火を吹く。
パパパパパッ
まるで表情がない少女は、無言のまま、撃ち出されてきた弾薬をすべて手掴みで掴み取る。
凄まじいまでの手の動き、まるで見えない。
そしてしばらく……。
「………………」
パラララ
アイちゃんは、その片手で掴んでいた使用済み弾丸を手放し、それがすべて地面の上に転がり落ちる。
これには一同驚愕。
「「「「「「!?」」」」」」
この時、軍用銃の弾丸は、1人当たり全部で18発。
軍用銃を打ちだす人数は、この時16人、計288発もの弾丸の嵐が火を吹いていた事になる。
それをすべて1人で、たった1人の少女がこなしたのだ。まさしく驚愕、驚倒ものだった。
怯える軍人たちは、この様を見て、戦意を失ったように後退する中、
一部では、もう悪あがきかのように、何度も引き金を引くものがいたが。
カチッ、カチッ、カチッ、カチッ
その音は無情にも響く。
「……」
無言のアイ。無表情のアイ。冷めた目で見つめる。
零下の視線が突き刺さる。
高速でその手が動くと、さっきまで何もなかったのに、人の手が握られていた。
その手の持ち主は。
「う……うわぁあああああ!?」
さっきまで、悪あがき行為をしていた人物の手だった。
グシャ
とその手を握り潰す。
「とっ取り囲め――っ!!!」
1人の軍人が指揮系統となって、命じる。
もうこうなれば、紛争地域の敵対国と言えど、共通の敵と見出し手を組む。
全員一丸となって、たった1人の少女を標的と捉え、拳銃を構える。
この時、アイは嘆息した。やれやれ……と。その表情をまったく変えずに……。
「撃て――っ!!!」
銃撃音が響く。
撃ち出される弾丸。360度、死角なしの弾丸の嵐だ。
発砲する度に、使い捨ての薬きょうが排出される。
白煙が舞い上がる中。
人々の悲鳴が「きゃああああああ!!!」と上がる。なんてヒドイ、寄ってたかってあんなたった1人の少女に。
「……」
大きく見開いた眼、その様はまるで信じられないようなものを見るかのようで、
その指揮系統の軍人は、ただただ驚いていた。
「「「「「……」」」」」」
開いていた口角が戻らず、カチカチと歯を打ち鳴らすほどの恐怖。
360度グルリと取り囲んだ兵士たちは、戦慄した。今、自分達が相手しているのは、人の形をした怪物なんだと。
その標的となった少女は、五体満足で生きていて、
まるで気にしていなかった。
それもそのはず、少女の全域には氷の壁が張られていたからだ。
「……」
少女は、その顔を見上げていた。
見ているのは今日のお月様、いや大きなソーテリア星の惑星だ。
まるで一言も発さず、この状況すら意に介していない様は、まるで恐怖さながらだ。
「……。――……」
見上げていた姿勢の少女は、――首を降ろし睥睨す。
白き冷気が、少女を護る。
「……」
「ッ……ッ……」
指揮系統の軍人。
その配下の拳銃を持っていた軍人たちのその手が激しく打ち震える。
カタカタと、それは恐怖だ、訳の分からない畏怖と恐怖だ。
バリィン
とすべての弾薬を凍らせて掴んでいた、全域の氷の壁が壊れる。
その中から、激しい冷気が漏れだす。
「――!!」
パキパキ
と冷気の爆風が噴き出し、なんと足元から這い上がってくるように、その全身を氷漬けにしていく。その様はまるで恐怖。
(氷の魔女!!!)
それが首元に差し掛かった時――
「うわぁああああああ!?」
――歌が聞こえた。
「『氷原を荒べ、9条の氷柱(つらら)! 我が腕に宿りて、彼の者を撃て!!』」
難民達がその顔を上げる。
お月見様をバックに、いやソーテリア星をバックに、スバルが宙を駆けていた。
その手に集まるのは魔力光の冷気だ。
「『氷柱』アイシクル(パゴクリスタロス)!!!」
呪文詠唱を経て、放たれたそれは、スバルの魔法だった。
9つの氷柱が宙から降り注ぐ。
「!」
この一瞬だけ、無表情のアイちゃんの目線が動いた。
その氷柱は、アイちゃんの周りに突き立ち、その冷気の侵攻を食い止める。防壁と化す。
「――ぁ……」
その軍人たちの喉元に迫ってきた冷気の舌の侵攻が、沈静化していく……
そして――
――スタッ
と宙から落ちてきた少年が、その氷柱の上に降り立つ。
「……やり過ぎだよ」
「……」
その氷柱の上に立ち上がったスバルは、下にいる無表情のアイと目線を交わし合う。
「……」
「……」
睨み合う両者、戦闘は免れない。
☆彡
別所。
その様子を伺う星王クラスは。
「ほぅ」
「ほほ、これは面白い対戦カードじゃ!」
「勝負にならんだろ……」
両者の力の差は、戦う前から明白だ。その事は3人ともわかってる。
「ふむ……負けるのは明白……! なら、こんなのはどうじゃ!?」
「「!?」」
「1分! あのアイの猛攻を凌いだら勝ちというのは?」
「死ぬだろ……猛攻は……」
「……」
ブリリアントダイヤモンド女王の問いかけに、ガニュメデスがそう呟くと、アンドロメダ王は嘆息しつつ。
「1分、手加減して耐えきったら、引くとしよう。……アイ」
☆彡
「!」
「……」
反応したのはスバルだった。無表情のアイは斜め上の目線で睨みつけたまま。
『殺さない程度に叩きのめせ、難民達のその目の前でな』
「……」
「……」
スバルは睥睨したまま、この少女から目を離さない。
いや、放せない。それだけ僕達の間には、明確な実力の差があったからだ。
アイちゃんは、その星王様からの命を聞き、斜め後ろにいるスバルに目線を飛ばしている状態から、一転して、向き直るのだった。
「……」
箒を構えるアイちゃん。
「……」
戦闘の構えをとるスバル、その顔から冷や汗が流れる。
スバルの危機感知能力が、自分と彼女の力の差を、如実に報せる。
(勝てない……)
それだけは、戦う前からわかっていた。
だが、どんな戦いにも引けない時がある。僕は、そうした戦いに臨むのだった。
「……」
「……」
「……」
「……」
氷柱の天辺の氷が欠け落ちた瞬間――
カツン……
バァン
とスバルの足元の氷柱がいきなり爆ぜた。
スバルはそこから大ジャンプしており、
その氷柱を破壊したのはアイちゃんだ。
「……」
アイの視線が、それを追いかける。
自分よりも高い位置にいるスバル。気に食わない。
「……」
後方にダッシュジャンプ中のスバルは、背中にバババババッと風の抵抗を受けながら、眼下にいるアイちゃんから視線を離さなかった。
だが。
「!」
いきなり周り中にアイがいっぱい現れた。もちろん、全部偽物だ。
「いいっ!?」
「「「「「……」」」」」
何だこれッ。
無表情のいっぱいのアイちゃんが、その手に持った箒で殴りかかってくる。
(こんなの防ぎようが――)
その一瞬、僕は魔法先生から教えてもらったばかりの新魔法を思いだした。
「ハッ」
これしかない。
僕はその手を前面に突き出して。
「『打ちつける大瀑布の如き滝よ!』」
殴りかかってくるそれを、僕は身動き取れない中空で、片手で防ぎながらも、詠唱を続ける。
1体、2体、さばく。
「『我が力強い腕に宿りて氷塵せよ』!!」
3体、4体、凌いだところで。
「『氷瀑』フリージングエクスプロージョン(パゴマエクリシィ)!!!』
残り5体以上まとめて爆砕する。
眩い閃光が走り抜けた途端、前方にいたアイちゃんの分身体たちの顔を照らしていき。
「「「「「!!!」」」」」
空中で、氷の爆発が起こった。
――ドォオオオオオン
「きゃあ!!!」
「うわっ!!!」
その空中からの爆発の衝撃が地上にまで及び、それを見ていた難民達の頭上から、衝撃波となって届いた。
それはさながら、真夏の夜の風物詩、花火のようであり、それが衝撃波となって襲ったのだ。
それはとても立っていられないもので、その衝撃に屈し、倒れ込む人たちの姿があった。
両者の戦いは続く。
「……」
本体のアイちゃんは身をかがめ、その氷瀑の跡を伺う。
爆煙の中に動きがあった、少年のものだ。
あたしは、その一瞬をとらえ、足元に魔力を集中し――爆発させることで、弾丸の如く駆ける。
大気の層をぶち破っていく、ソニックブレイクだ。
空気の輪が1つ、2つ、3つとできる。
それは通常時のソニックブレイクではない。
なぜならこの時、アイちゃんの周囲が急激に冷えている状態で、通常のソニックブレイクとは大きく差異があるからだ。
熱せられた大気圧の中に、急激に冷やされた大気圧がとんでもない速度で突っ込むことによって、疑似的に大気圧の層の破り(ソニックブレイク)現象を起こしているからだ。
「――!!」
「――」
スバルの危機感知能力が、彼女(本物)の接近を知らせる。
目が見えない爆煙の中、一気に距離を縮めたアイちゃんが、殺さない程度の力を振るう。
バキィン
すんでのところで、僕は腕を交差させてガードしていた。
その上から、キツイ一撃をもらい。
ビ――ュン
と氷の爆煙を裂き、一気に難民達の頭上の方へ最接近、そしてそのまま――
「――へ!?」
それは不運としか形容しがたい事実、
僕は、ある難民たちの人の上に落ち、下敷きにしいてしまう。
「ぎえっ!?」
「ふえん!!?」
男も女も関係なく被害にあった。なんかごめんさない。
「!」
アイちゃんの気配が迫る。
(僕ごとか!!)
「――!!」
箒を振り上げて、殺さない程度に魔力の冷気を集中するアイちゃん。
(そんな使い方もあるのか……!)
【僕はその戦い方を見て学習する】
「……ッ!」
その場で回避を、と考えたが。
「ハッ」
となって周りを見て気づく。僕の周りは難民達ばかりだ。
「クッ……」
僕がよければ、誰かが死ぬ。クソッ、逃げられない。
「クソッ――!!」
僕は、腕を交差させて防御態勢を取る。いや、取るしかなかった。
全身から魔力光を発し、全力でガードするしかない。
氷の爆煙の中――
ゴゴゴゴゴ……カッ
となって、一点に灯るは冷気の光。
それが音速の塊となって、爆煙を裂き――最接近。
「!」
一過した跡に残るは、大気圧の層の輪が1つ2つ3つ。再び、ソニックブレイクとなって襲い掛かるのだった。
振り下ろされる、冷気を纏った音速の一撃。
ドォオオオオオン
と炸裂す。
「――!!」
箒を振り下ろした少女。
それを受け止める少年。
その大地が大きく凹み、クレーター状となっていく。
スバルの足元を起点として、地面に凄まじいまでの亀裂が入っていき、ドガァンと土の塊となって爆発四散するのだった。
「うわっ」
「きゃ」
「速ぇえ!! まるで見えなかった!!」
驚き得る人々。
その中で、あの少年が驚き得る。
爆発したかの如く、舞い上がる土煙の中。
少女は、少年の力量を試していた。これからドンドンとギアを上げていく、どこまで付いてこれる。
この瞬間、少年の腕の骨に、ヒビが入っていった――パキッ
苦しそうに顔を歪めるスバル。歯を噛み締めて、唇から血が滲み出る。
全身にありったけの力を込める。
「クォオオオオオ!!!」
(ありったけを!!)
たった一撃だけ堪えた。
それだけで僕の体力は、半分を切っていた。
ドォンと再び地面が大きく凹み、クレーター状となって広がっていく。
両者は同質、氷の使い手だ。
箒と重なっていた両腕を中心点として、爆風が起こり、周囲の土煙を吹き飛ばす。
バァン
押し寄せる爆風に、周りにいた難民達も、その圧に屈し、足元が地面から離れて周辺に転がっていく。
「うわっ!!」
「きゃあ!!」
「うひゃあ!!」
「うえええええ!!」
ヴヴヴヴヴ
「……」
振り下ろした姿勢のままのアイ。堪えるじゃない。
「二ギギギ」
全力ガード中のスバル。
「「――」」
箒と両腕の周辺に、冷気の爆流が環状に1つ2つと増え、逆巻きながら回転し、その周囲の爆流が次第に大きくなっていく。
「……!」
「クァアアアアア」
涼しげで見詰めていたアイちゃんの瞳が、心持ちわずかに反応した。へぇ……。
スバルの全力の魔力が噴き上がる。激しい魔力光の気炎となって――オオオオオ
他所。
これを見ていたプレアデス星人たちは。
「へぇ!」
「ほぅ」
「ふ~ん……」
とそれぞれ関心を深める。
「戦闘力、たったそれぽっちで、か……」
クスッと笑みを深めるプレアデス星人の女性。
「氷瀑!!!」
「――!」
今この場には、僕と彼女の魔力、同質の氷の魔力場があった。
彼女は僕よりもはるかに上だ、だからこれを逆手に取るしかない。……できるか? いや、やるしかない。
冷気の爆流が環状に逆巻きながら、次第に大きくなっていき――少年の呼びかけに答えるように、少女の力も逆利用して爆ぜる。
ドォオオオオオン
氷の爆発が起こり、大きく逆巻きながら広がっていき、周辺にいた人々を、その爆風の嵐によって吹き飛ばしていく。
もう、これは仕方ない、ごめんみんな。
その爆風に衝撃波によって、人が人の上に倒れかかり、競技場の上を擦過していき、スタンド壁に叩きつけられる人や、スタンド上の長椅子に叩きつけられる人達など様々だ。
みんな、ごめんッッ。
「うわぁあああああ!!!」
「きゃあああああ!!!」
ドドドドドッ
爆風が地面を削りながら、逆巻いていく。
これには、巻き込まれまいと、大勢の人達が逃げ出していくのだった。
もう、場は混乱の嵐だ。
その煌めく氷の爆煙の中、舞い散る細氷が舞い散る中、2人の喧嘩が続いていた。
一方的な試合運びだった。
アイちゃん主体の連続攻撃が振るわれる。
その三連続攻撃を、避ける、避ける、避ける。
この一瞬、さしものアイちゃんも「ムッ」とくる。
こっちが手加減しているのに、調子に乗って……。少し懲らしめてやるんだからねッ。
その箒を少し強めに握りしめて、少し手加減を外す。
「――!」
(魔力が強まった……!!)
それは、アイちゃんが手加減を少し外した証拠だ。
アイちゃんの箒攻撃が横一線に振るわれる。
「!」
僕はそれを片腕で受け止めた時――ボキィと気味の悪い音が、腕の中から聞こえた。
「――ィイッ!?」
顔をしかめるスバル。間違いなく今のは、骨が折れた……ッッ。
すかさず2撃目が入る。斜め一閃の攻撃。
それは肩に命中し――ボキィとまたしても気味の悪い音が肩から聞こえた。
そのまま少年を沈める。
「!!」
少年はそのまま倒れまいと、残った手で地面の上に片手を置いたが。
それは格好のいい的だ。
「ハッ」
それは丁度、アイちゃんの足元に、スバルの頭が転がるさまになる。
「……」
「――!」
無表情のアイちゃんは、足を後ろにあげてからの――すかさずボール蹴りの要領で喰らわせる。
バキィ
とそれは吸い込まれるようにスバルの顔面へ叩き込められる。
それはもう別の角度でも、
バキィ
バキィ
バキィ
と蹴られていたベストショットアングルが収められていた。
蹴り飛ばされたスバルは、氷の爆煙を裂き――逃げ惑う難民達の背中から当たり――迷惑なまでに多くの人達を背中から蹴散らしていって――競技場の壁のスタンドに叩きつけられる。
ドォン。
と大きく凹みクレーター状になるスタンドの壁。
打ちつけられた少年は。
「ガハッ!!」
と口から呼気が吐き出された。
すかさず追い打ちをかけるアイ。
やや前屈みの前傾姿勢になって、足元に魔力を集中して――氷の爆煙の中で、足元から土煙を上げて爆ぜる。
弾丸の如く駆けるアイ。
三度、空気の層を破っていく(ソニックブレイク)。
それは1つ2つ3つ4つと空気の輪を作っていき、
始動始点の氷の爆煙を裂き――逃げ惑う難民達の背中を、まるで意に介さずぶっ飛ばす様だった。
アイちゃんの眼光に移るのは、その目の水晶体に映るのは、スタンドの壁から力なく崩れ落ちていく、少年の様だ。
その箒を握りしめる。
これで決める。
周りにいっぱいのアイを出現させて、みんな一様にその箒に冷気の爆流を纏わせる。
さっきのお返し。
「――!!」
落ちかける僕が見たのは、
迫ってくるいっぱいのアイちゃんの姿で、力限り振り下ろそうとその箒に冷気の爆流を纏わせた様だった。
(――そんな戦い方もできるのか……氷瀑……!)
その技の正体を見抜くスバル。
――ソニックブレイク中に小ジャンプ、慣性の法則に従い、前面から空気抵抗を受けながら、その攻撃力をワザと落とす。もちろん手加減だ。
跳躍を経て、いっぱいのアイちゃんたちが攻撃を仕掛ける。
☆彡
「――時間は?」
「48秒」
「……」
ブリリアントダイヤモンド女王、星王ガニュメデス、星王アンドロメダを経て。
星王アンドロメダは嘆息した。
「……ダメだな……」
☆彡
脳天に振り下ろされる。
それはスバルが知覚するよりも、速いッッ。
その一瞬、駆けたものが2人にいた。
ビシッ
「――!」
Lのサイコキネシス(プシキキニシス)がすべてのアイちゃんの動きを束縛する。
さらにレグルスが両手の炎上爪を持って、振り下ろされようとしていた、その箒の一撃を受け止めていた。
振り下ろそうとしていた先は、脳天ではなく、肩だった。
この頃になるとようやくスバルも知覚できた。
僕は2人に助けられたんだ……と。
そして、彼女は僕よりも、断然強いと。
「そこまでだよアイ!!」
「引けッ!!」
「……」
グググッ
アイちゃんがその箒に力を込めて、この束縛もろとも両手の炎上爪の上から叩きつけようとしていた。
いやだ、まだ続ける。
「グッ……力が……強い……ッ!!」
「引けッ!! アイ!! お前と戦う気はないッ!!」
「……」
段々と力を込めて、束縛を振り切って、両手の炎上爪を上から段々と減り込んでくる。
なら、4人でやる?
「……ッ」
「……クッ」
「……」
無表情のアイ。
きっと楽しいよ。
その時だった――
『――そこまでだ』
「「「!」」」
星王アンドロメダ様から命が下され、弛緩していた時間が戻る。
3人は力を抜き、それぞれサイコキネシス(プシキキニシス)を、両手の炎上爪を、箒を上げ、いっぱいのアイちゃんたちを消していくのだった。
いっぱいのアイちゃんを模していたものは冷気で、そよ風となって流れていった……。
――それが告げられる。
『――示威運動(デモンストレーション)はそれぐらいでいいだろう』
これに驚くのは、難民達だ。
「デモンストレーションだって……!?」
「あれが……」
「「……」」
難民達がその顔を見つめ合う。
――さらに宣告が続く。
『――試合時間、48秒……』
「!」
「!」
「……」
「――!」
レグルスが、Lが、アイが、遅れてスバルが反応を示す。
「今のがプロトニア試験なら、お前はこの場で死んでいる……」
「……!!」
スバルの脳裏に電流が駆け抜ける。それはショックだった……。
僕の視線はこの時、地面についた手を見た。
星王アンドロメダ様は、この機に乗じて、僕を試していたんだ。
「……」
項垂れるスバル。正直、力不足そのもので、今の僕の力量を知る。
「今この場で、立っていないものは、失格じゃ!!」
「……ッ」
「……アイ、戻れ」
「……」
アイちゃんはどこかにいる星王アンドロメダ様の気配のある所に、体の向きだけを変えて。
「……」
その目線だけは、地面の上で両手両足をついて、頭を垂れている僕を見据える。
「………………」
「………………」
アイ。
そして落ち込んでいるスバル。
背景に移り込むは、アイとスバルの立ち位置だ。
これが明確な、2人の力量の差だ。
「……」
そうしてアイちゃんは、僕に背を向けて、歩み出していくんだった――……
☆彡
――アイちゃんが去った後……。
『――強くなりたいか小僧……!?」
「!」
顔を上げるスバル。
『今期の試験は諦めよ、犬死にするだけじゃ!』
「クッ……!」
――別所では、ブリリアントダイヤモンド女王が、ガニュメデス王が、その様子を伺う。
その様子、光景を容認するために。
「最低でも、あのアイの相手で1分耐え凌がなければ、とても出せん!」
「1分……」
それは目安だ。
『……戦闘力100水準、それがプロトニアの合格水準じゃ!』
「戦闘力……100……!」
『お主の戦闘力は、おおよそ20!! 魔力は目を見張るものがあるが、まるで期待できん……!! 最低でも、その基準を満たせ、地球の申し子よ……来期を期待する』
「………………」
沈黙の間が流れる。
それが、今の僕の目指す先だ。
「……」
「スバル……」
「………………」
落ち込んでいた僕は、Lの声を聞き、ゆっくりと立ち上がる。その時。
プラ~ン
と僕の肩は脱臼ししていて、さらに腕の骨まで折れていた……ッッ。
あのアイちゃんの攻撃は、手加減はしていたとはいえ、手加減を履き違えていた。
いや、僕が生きているからこそ、これが手加減なのか……ッッ。
「……医者…………呼ぼうか……?」
「……あいつ…………容赦ねえな……」
「シクシク……メチャ痛い……ッッ!!」
L、レグルス、スバルと言葉を交わし合うのだった……。
もうメチャクチャ痛い。もう大泣きしたいほどだ……ッッ。何なんだよ彼女はッッ。
☆彡
「……」
そのアイちゃんが歩いていくと。
ザッ、
ザザッ、
ザザザッ
独りでに難民達がその子を恐れて、道を次々と開けていくのだった……。
「……」
スバルの視線は、あのアイちゃんの後姿に向けられていた。
「……ねえ、あのアイって子……何者なの!?」
「……」
それは、スバルからの問いかけ。
だが、Lは、その問いかけに対する明確な答えは持ち合わせていない。
だから、代わりに答えるのは、レグルスだ。
「あいつはハーフだ!」
「! ……ハーフ……?」
「ああ。あいつは昔、色々あったんだ……。生い立ちから色々な、今でこそあの地位だが、並々ならぬ努力だと思うぜ」
「……」
「……」
僕とLは、アイちゃんの後姿を見詰める。
「アイ……」
並々ならぬ努力か……。
僕の視線は、あのアイという子に注がられていた。
☆彡
――そして、スバル達は知る由もなかった。
それは少なくとも二か所で確認された。
1つは、レグルスが炎上爪で殺めた軍人の亡骸から、拳銃(ハンドガン)を抜き取る者。
そしてもう1つは、アイが多くの手首を切り捨てた現場から、拳銃(ハンドガン)を盗む者がいた事を。
知る由もなかった……。
『……』
壇上の前に立つアイ。
「「「「「……」」」」」
難民達は殺されるんじゃないかと、内心ビクビクしていた。
「………………
………………
………………」
アイの長い沈黙を経て。
代わりにティフさんがアイちゃんの横に並び立ち、エアディスプレイ画面の上に手を乗せて、その主導権を奪ってから、こう告げる。
『これにてくじ引き終了――! 溢れてしまった人達は、後であたし達が請け負います!!!』
とこれを聞いた難民達は。
「………………
………………
………………」
ズコッ
と思い切り大きくズッコケるのだった……。
『溢れてしまった難民達は、保留組として扱いますー! しばらくゆっくりしててくださいねー!』
ザワザワ
と難民達の間で喧騒が立つ。
『とそうそう、紛争地域の軍人さんや傭兵さん達には、この子を当てます』
「……」
と紹介されたのは、なっなんとアイちゃんだった。
これには軍人さん傭兵さん、ゾッとしてしまい、背筋が凍りつき、身震いしかない……ッッ。
『皆さん、問題を犯さないよう、仲良くしてね~~! は~い!』
(……自分で言ってれば世話ねぇよ……ッ!!)
何かのTV番組のお姉さん役を演じるティフさんは、なんかお茶目だった。
いきなりムードが険悪になる……。
『これにて、ブロックの取り決めが終了――! これから皆さんをホテルや病院、商業施設や学校の寮、仮設テント等にお送りします!
今までの長旅の疲れをそちらで取ってください!
……以上で解散!!』
と最後は、ティフさんが締めくくった。
最初もティフさん、最後もティフさんだった。
☆彡
――その後、大型バスに乗せられた難民達は、ホテル等へ向かう。
そして、一番顕著だったのは、バスガイド姿に扮したアイちゃんと一緒にいる、紛争地域にいた軍人さんや傭兵さんたちの姿だ。
その手には箒が握られていて、足元には軍人さん達の頭が転がり、床が赤き血の湖で汚れていた。
あぁ、また掃除しないといけない。
その様は、まるで畏怖と恐怖をそそるようだった……。
☆彡
――別所、リムジンバスに乗って移動中なのは、主に2つのグループからなっている。
2階にいるのは、決して少なくない、見た感じでは結構多い感じの南極大陸グループの科学者と研究者たち。
そして、1階にいるのは、プレアデス星からの見届け人たちだ。
1階は、いかにも気品があり、特別に割り当てられたものだ。
あの戦闘描写を振り返るプレアデス星人たちは……。
「――なあ、何であの坊主、最初に戦闘に入る前、氷柱なんてものを使ったんだ? フツー火だろ! 火!」
「……」
「……理由考察は簡単だ!」
「!」
「なんとなく察したんだろうな……! 火を氷の中に投じれば、何が起こるのか……?」
「……」
「……」
そのリーダー格の男の問いかけに、黙るのは質問を投げかけた男と仲間達だ。
「冷たい低気圧の中に、熱い熱帯の高気圧を投じてみろ。
ボールを想像すると、その理解が早い。
冷たいボールの中に、熱い炎を投じたことで、その中の気圧配置が変わり、その円の周りの外周に冷気が離れようとする現象が起る。
それが周囲の壁にぶつかり、丁度、あの円の周りには軍人たちがいた事で、首のところまで一気に氷の舌が這っていた……!
……それはほとんど一瞬で、氷漬けになり、遺憾ともしがたい現場になっていただろう……」
「……」
そのリーダー格の男解答に。
黙って答える仲間達。
だが、質問を投げかけた仲間は。
「あれ!? ちょっと待てよ!! フツーの考えなら、溶けるんじゃねえ!?」
「……」
「……バカねぇ」
「え?」
「あのアイちゃんの力をよく考えてごらんなさい」
「……あ……」
何となく察する。
「気に入らないとばかりに、炎ごと氷漬けにするだろうな」
「そーゆう事!」
ようやくわかってくる見届け人。
「……」
その横で女性の方も嘆息す。
「――あのガキは、まだ伸びしろがある……!!」
――今まで、黙していた見届け人の目が開き、その口から投じられたのは、少年への賛辞だ。
「「「……」」」
「そのために星王は、あの場でアイに命じたのだろう。
それに、地球で起こっていた少年と、とある隊長の戦いぶりは、目を通していたやつもいる。
少なからず、王も目を通している。
……成長を促すために、氷には氷の使い手をぶつけたわけだ」
「な、なるほど……」
要は、そーゆう事だった。
「でも、その中であたしが驚いたのは……」
「「「……」」」
「あの氷瀑よ!」
そう、あの一瞬、スバルは無意識的にアイちゃんの力を逆手に取り、無詠唱で氷瀑をけしかけたのだ。
詠唱なんてものはしていない。土壇場でやってのけたのだ。
初めの1回目は詠唱あり、次の2回目は無詠唱だった。
しかも、それも初の出来事だ。
「あれは明らかに、相手の力を利用していた……!
信じられる!?
聞いたところによるとあの子は、少し前まで一般人同然だった……!!
この短期間で、雷、氷を納めて、無詠唱で氷瀑まで修めた!!
才能(センス)じゃ済まされない!! もしもあれが仮に、初めての無詠唱だったのなら……」
「……」
「……」
「……」
「怪物だわ……」
一同を乗せたリムジンバスは、市街地を進む――
☆彡
――そして、それに付随して並んでいるのは、いくつものリムジンバス、その後ろにはリムジンタクシーが走行していた。
その車内には、アンドロメダ王女様を初め、デネボラ、L、レグルス、ヒース、アユミ、クコン、クリスティ、そして負傷したスバルが乗車していた。
「……」
「……」
今少年は、女医クリスティさんの手で、包帯が巻かれていた。
巻かれている最中、目に止まったのは一瞬だが、確かに少年の腕は折れていて、青く変色していた……。
(酷い……)
「……」
女医クリスティとして、少年の傷の重さは見ていて、痛々しく思うところがある。
「……」
そして、その席には空白があり。
ここにいないのはシャルロットさんぐらいで、彼女はあの場面でグループから外れて、子供達と一緒に国際警察リンシェンさんの方へ向かっていたから、この場にはいないのだ。
ヒースさんは、エアディスプレイ画面を通して、話を進めていた。
「――なるほど。それは散々だね。シャル」
『もうビックリよ!! 何であんなに手と腕が切り離された人達がくるんですか!? どうやればそうなるの!?』
「実はかくかくしかじかで――」
『――あぁそーゆう事! 噂通り、冷血ですねあのアイって子は……』
「……」
ヒースさんの話し相手は、病院にいるシャルロットさんだった。
そのエアディスプレイ画面を閉じて、話を切り上げるヒースさん。
「……でなんと?」
と尋ねるアンドロメダ王女様。
それに答えるのは、もちろんヒース(僕)さんだ。
「ええ王女様。……スバル君にそれからクリスティさん」
「!」
「!?」
「君たちの治療の件は、引き延ばされる事になったよ」
「でしょうね……」
「……さすがに、あの大怪我と比べたらね……」
スバルの怪我の程度は、肩の脱臼と腕の骨が折れた程度。
クリスティはあれだ。
対してあちらは、手が腕から切断されていた……。どちらが重症者とは語るまでもない……。……まぁあの見た目では……。
「いい病院だから紹介して、クリスティさんの治療もできると思ったんだけどね……。当面は手と腕の接合手術だろう。腐ってしまえば、取り返しがつかないからね」
「元に戻るの!? あれが……!?」
疑問を覚えたのは、クコンちゃんだ。
「戻るよ! だってあの時アイちゃん、氷と風の魔法で、あの場にいた人達の手と腕を奇麗に切断していたからね」
「「「えっ!?」」」
「……」
クコン、アユミ、クリスティの3人は驚き。
スバルだけは、驚いた様子はなかった。
「おやっスバル君!? その様子を見る限り……なんとなく察していたようだね」
「ええ、まぁ……早過ぎて見えなかったけど……」
――あの状況を思い出す。あの時、彼女の周りには冷気が流れていた。
それはおびただしい鮮血が降り注ぐも、ただの一滴も彼女を汚さなかったからだ。
「多分……、あの冷気だな……」
僕は当たりをつけていた。
「……」
ヒース(僕)は感心の色を深めていた。
「……」
とここでアユミちゃんが。
「で、なんでクリスティさんの治療? スバル君はあたしから見てもわかるけど……」
「この中で、ホントの重症人は……」
「……」
「……」
「……」
「……」
アユミ、クコン、スバル、クリスティときて。
「実はクリスティさんだからなんだよ」
「え……」
そこから語られたのは、驚愕の仮説だった。
もしかしたら、あり得るかもしれないからだ。一同に不安が過ぎる――
TO BE CONTINUD……