213章 帰宅
焼きそば店の仕事を終えて、マイホームに戻ってきた。一人で過ごすにはもったいないほどの、超豪邸である。
ミサキは家の鍵を開けると、アヤメが出迎えた。
「ミサキちゃん、おかえりなさい」
一人きりで生活していたため、おかえりなさいといわれることに、不思議な感覚をおぼえた。
「アヤメちゃん、ただいま」
アヤメはサウナに入った直後みたいに、びっしょりと汗をかいていた。
「アヤメちゃん、すごい汗だね」
「20キロくらいの距離を歩いてきた。やることもないから、ウォーキングの距離を倍にしたの」
アイドルを引退しても、運動をきっちりと継続できる。プロ意識の高さを感じられた。
「ミサキちゃんも運動してみよう。とっても気持ちいいよ」
「私にはできないよ」
「ミサキちゃん、体のどこかが悪いの?」
「そういうわけではないよ」
「そ・・・・・・・」
アヤメは熱くなったのを感じたのか、言葉を途中でストップする。
「体重をすぐにキープできなくなる。遊園地の撮影のときは、1日で4キロも痩せてしまった」
食べる量を通常より増やしても、体重は4キロも減った。大量の汗をかけば、5キロ以上の体重減は確実だ。健康になるどころか、寿命を縮めることになりかねない。
「ミサキちゃんは、特殊な体をしているね」
「うん。太るのはゆっくりだけど、やせるときはあっという間だよ」
「すぐに痩せられるのは、同じ女性として、とってもうらやましい」
「私の場合はさすがに極端だよ。ここまでくると、ありがたみは薄れる」
アヤメは汗を気にする仕草を見せる。敏感肌の女性にとって、汗は天敵なのかなと思った。
「ミサキちゃん、シャワーを借りてもいい?」
「アヤメちゃん、自由に使っていいよ」
「ミサキちゃん、ありがとう」
アヤメはシャワー室に向かっていった。