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人の弱さと悲しみ

「クロっ!」

ヅラリーノが抱き起こしたのはクロだった。
クロは縛り上げられ、目の周りには青タンがある。
ヅラリーノはクロへ自動小銃を突き付けると、クロは俺たちから目を逸らす。
そうさ、俺たちの顔を正視なぞ出来ないだろうよ。
偉そうに人道主義を気取っていたのだからな。

「みんな、ごめんっ!」

クロの青タン有りの無様さと半泣き顔が絶妙な滑稽さを生み出し、思わず笑いそうになる。
しかしここは我慢だ。

「お前らのリーダーはカスだな!
黒岩はちょっと殴っただけで俺に許しを請い、お前らがここに来ることを吐いたぞ!」

とヅラリーノが高笑いする。

「何だとっ!
だからここに来てたのかっ⁉︎
クロっ!お前って奴は!
しかも俺たちの話を盗み聞きしてたのか⁉︎」

「ごめんよぅぅ!そんなつもりはなかったんだよ」

クロが泣く。
瞬間的に腑が煮え繰り返ると同時に失望で口の中が苦くなる。
仲間や人の命を重視するかのような言動をし、話し合いで解決してくると善人振りを見せていた奴が、舌の根の乾かぬうちに仲間の逃走経路を吐き、裏切っていたのだ…
クロは所詮、頭でっかちの学者肌か。

「クロよ…、自分の主義主張に命を懸けるのなら、お前はそこで自爆しろ」

「ごめん、シロタン…
そんなこと怖くて出来ないよ」

「このインチキ人道主義者が!」

どこまでも見下げた野郎だ。

「風間、さっきはよくも俺の帽子を奪いやがったな!おまけに何度も頭を刺しやがって!」

ヅラリーノが口を挟んできた。

「あの世へ行くのにハゲを隠す必要など無いだろうよ。
歌の歌詞でよく出てくるだろう?ありのままだの、ありのままの姿とか。
ありのままは美徳じゃないのか⁉︎」

今気付いたのだが、ヅラリーノは白い布でハゲを隠していた。
さらに今気付いたのだが、縛り上げられているクロの下半身は白靴下のみだった。

「ヅラリーノ、お前まさかクロの白ブリーフを被っているのか……?」

「そうだ!何が悪い⁉︎
お前らに俺の何がわかるというのかっ⁉︎
俺の悲しみがわかるというのかっ⁉︎」

ハゲを隠す為にクロという糞野郎の白ブリーフまでも利用する…
しかも開き直りやがった。
ヅラリーノはとことん品性下劣の野卑た野郎だ。

「ヅラリーノよ、お前みたいな下衆の塊に悲しみなどあるものか」

「黙れ、豚野郎!お前に何がわかるんだ!
それと俺はヅラリーノじゃない、俺にはちゃんとした名前」

その刹那、俺はヅラリーノの言葉を遮る。

「お前の名など知ったことかっ!」

「黙れ、風間!それ以上何か言うなら、黒岩を殺すっ!」

ヅラリーノが自動小銃をクロの頭に突き付ける。

「みんな、僕をた」

クロの言葉は一発の銃声によって途切れた。

「え?俺じゃねえぞ?」

ヅラリーノは血に染まる自分の手を見て狼狽える。
一発の銃弾は高梨の自動小銃から発射されたものだった。

「裏切りは許さない…」

そう呟いた高梨の表情は冷静そのもの、しかし俺には高梨のその瞳の奥に静かに燃え盛る青白い炎が見えた。
高梨の垢抜け無い人相の奥に狂気を感じる。

栗栖、榎本、妻殴りに続いてクロまでも…、クロは自業自得かもしれないが、皆いなくなっていくのか。
しかし、今は感傷に浸っている場合では無い。

「ヅラリーノよ。お前はこれで人質というカードを失った。
こっちは三人だ。もうお前に勝ち目は無い。
それは一旦置いておくとして、お前は他に仲間を呼ばなかったのか?」

俺の問い掛けにヅラリーノは憎々しげな表情を浮かべるだけで黙っている。

「お前のこれまでの傾向から察するに、手柄を焦って誰にも知らせずにここへ来たのだろう。
そんなお前にぴったりのことわざがある。

慌てる乞食は貰いが少ない。

ってな。」

「黙れ、俺にはまだこれがある!」

ヅラリーノは屍と化したクロを投げ捨て、テーブルの影から何やら大きなものを取り出した。機関銃だ。
機関銃でも分隊支援火器と呼ばれるデカいやつだ。
ヅラリーノは銃身の前の方にある二脚を広げ、機関銃をテーブルの上に乗せてグリップを握る。
高梨が素早い動作で俺とパリスを給食室の巨大な流し台の影へと押し込む。
その刹那、機関銃による掃射が始まった。
間断ない弾幕が張られ、あっという間に俺たちは流し台の影から身動きが取れなくなった。

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