夏
ーー次の日
「じゃあ今日はここまで。来週も遅れずに来てくださいねー」
初めての講義が終わり、わたしはとにかく友達を作らねばと、思いきって隣に座っている女の子に話しかけた。
「あ、あの……、わたし四季彩花って言います。よろしくおねがいします!」
「あ、はい!わたしは加賀向日葵《かがひまわり》です。彩花さんですね。よろしくおねがいします」
「彩花でいいよ! えっと、わたしはなんて呼んだらいいかな?」
加賀さんはなぜか少し驚いた様子だった。
「えっと、わたしのこと知ってる?」
「え?」
「い、いやなんでもないよ! わたしのことはひまってよんで!」
「うん!よろしくね、ひまちゃん!」
そんな会話をしつつ、ひまちゃんに『一緒にサークルを見て回ろう』とお誘いをしようと考えていると、陽菜さんが教室の扉の近くでわたしに向けて手招きをしている。
「げっ……」
「どうしたの?彩花ちゃん」
「い、いや何でもないよ。ちょっと待ってて!」
そう言うとわたしは陽菜さんの方へと歩いていく。
「どうしたんですか?」
「彩花さんと一緒にサークルを見て回りたくて…… いいですよね?」
陽菜さんはキラキラとしたまなざしでこちらを見ている。
(うっ…… 違う人と回りたいって言いづらい…… っていうか『いいですよね?』って…… これは逃げられる気がしないな……)
「わ、わかりました。一緒に回りましょう……」
「よかったです!では行きましょう!」
「ちょっと準備してくるので待っててください……」
「はい!」
わたしは自分の席に戻るとひまちゃんに声をかける。
「友達がきちゃってて…… ごめんね!また明日いろいろ話そうね、ひまちゃん!」
「……うん! また明日ね!」
わたしは手を振って陽菜さんの方へと向かう。
(くうっ!!ひまちゃんと一緒に回りたかった!!)
「おまたせしました……」
「いえいえ~ 行きましょうか!」
「はい……」
「……ところであの女の子は誰ですか?」
「あの女の子? ああ、ひまちゃんのことですか? 今日、講義で隣の席だった
んですよ」
「ふーん、そうですか……」
(お!? これは『他の女の子と仲良くして、失望させるぞ』作戦がきいてる!?)
「どうしました?」
「いえ、どうやってそのひまちゃんさんを彩花さんから遠ざけようかなーと考えていました」
(作戦全然きいてない! しかもなんかちょっと怖い!)
「陽菜さんってもしかして腹黒……?」
「そんなことありませんよ~」
陽菜さんはそう言ってにこっと笑った。
(やばっ! 口に出てた! っていうか絶対腹黒じゃん!! 笑顔が怖い!!)
「そ、そうですよねー。あはははは……」
そんな会話を交わしながら、わたしたちはいろいろなサークルを見て回った。