出会い
――結婚してください。
そうテレビの中の俳優が真剣な表情で口にした。
「……はい。」
わたしは自分しかいない部屋でそう呟いた。
彼氏いない歴=年齢のわたしにはそもそも無縁のかもしれないが、結婚はできるならしたい。
(まあ、わたしにはまだ遠い話か……)
そう思いながらテレビの電源を消す。
四季彩花しきさやか。
結婚とは無縁の十八歳。
大学に通うために親のもとを離れ、今日から一人での生活が始まった。
就職が良いという単純な理由で実家から少し離れた女子大学に通うことに決めた。
そして明日は大学の入学式。
時刻は十二時を回っている。
(楽しみだけど不安だなあ…… ちゃんと友達できるかな……)
そんな誰でも考えそうなこと考えながら歯を磨いて、ベッドにもぐる。
「まあ、なるようになるか……」
だんだんと瞼が重くなり、わたしはゆっくりと目を閉じる。
「おはよう! 朝だよ~。起きて!」
アイドルのボイス付き目覚まし時計から声が聞こえてくる。
わたしは目覚まし時計を止め、時間を確認する。
「やばい!!!」
入学式まであと一時間。思ったよりも寝すぎて時間がない。
さっさと身支度を済ませ、アパートを後にする。
幸い、家から学校までは近いので、急げばなんとか間に合いそうだ。
「はぁはぁ……、なんとか間に合った……」
大学の門の前に立ち、そう呟く。
「はぁはぁ……、なんとか間に合いました……」
わたしと全く同じようで少し違うセリフが聞こえる。
声の方向からして後ろにいるのだろう。
振り向くと女の子と目が合った。
女の子は息を切らしながらわたしを見てなぜか少し驚いている。
とても綺麗に巻かれたふわふわとした髪、身長が高く、まるでモデルのようなスラっとしたスタイルに春のポカポカとした陽だまりのような雰囲気を纏っている。
(可愛い!!すごく可愛い!!)
「一緒に入学式会場まで行きませんか?」
そう尋ねられ、わたしは緊張をぐっとこらえて、勢いよく「はい!」と返事をする。
「あっ、わたくし名前をまだ申し上げてませんでしたよね。桜羽陽菜さくらばひなと申します。よろしくお願い致します」
普通ならこの丁寧な言葉遣いに驚くべきなのだろうが、ここはいわゆるお嬢様大学。こんな女の子がいても不思議ではない。
(それにしても何か聞いたことのあるような名前な気が…… うーん、まあいいか)
わたしは落ち着いて自己紹介を始める。
「四季彩花です! よろしくお願いします!」
わたしはお嬢様でもなんでもないので背伸びはせず普段通りの口調で話す。
「よろしくお願い致します。彩花さんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「はい! わたしも陽菜さんとお呼びしても……?」
「是非!」
わたしたちはこんな何気ない初対面トークを楽しみながら会場へと向かった。