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第2章の第29話 お前はどっちだ!? ……人を想い合っての謝罪


正面玄関(ロビー)は物凄い惨状の一言に尽きる。
無重力化の中、崩壊した天井、ボロボロの壁、一画だけ消し飛んだ床、何条もの亀裂が大理石の床を走り抜け、砕けたズタボロな外観。
割れたステンドグラスに、ボロボロの螺旋階段にエレベーター等とあげればキリがない。
無事なものは何一つとしてない、ここが最大の激戦区の後だった。

喜びを噛み締めたエルス。その顔はやり切った感があった。
「「……でも、今の技……」」
あれはエルスが打ったものだ。それに間違いはない。
(やったの……君?)
(ちっ違うよっ!! 無我夢中だったけど、僕の技じゃない!! 君じゃないの!?)
(……僕でもないよ)
(え……?)
(え……?)
それはスバルでもLでもない。どちらが放ったのかわからない、未知の技だった。
「「…………」」
沈黙が訪れる。もう間もなくこう言い終わる。
(じゃあどっちの技でもないから、こうしない?)
(あっ! わかる! わかるわかる、わかるよそれ!)
心が共有され、それが口をついて出た。
「「エルス流 秘剣の舞」」
エルスはフッと笑う。


☆彡
それを見ていたアンドロメダ王女達は。
「……何がエルス流秘剣の舞じゃ!」
「ネーミングセンス、ダサッ……!」
「あれ、どちらの案なんだ?」
「3人ともぉ。まだあの子達子供じゃないですか。ネーミングセンスが凄い遅れているのは、仕方がありませんよぉ……」
アンドロメダ王女、シャルロット、ヒース、デネボラと口々に告げるのだった。
それにしても、ダサい……。

それを見ていたアユミとクコンは。
「どうやら勝ったみたいね。あなたの彼氏さん!」
「えっ!? 彼氏だなんて」
アユミはそう言われて恥ずかしくなり、両の手を頬に添えて、いやんいやんと恥じらうようにぶりっ子をする。
「フフッ……でも」
「?」
「あのネーミングセンス、100年ぐらい時代遅れじゃないの?」
「……クコンちゃん、毒舌だよぉ……」
クコンちゃんは毒舌だった。
「後で改名を希望しない? このままじゃ地球人の恥だわ、あのスバル君って子」
クコンは顔を上げて、その様子を認める。
「……」
アユミは何も言えず、ただただ経過を見守るしかない。
でも、ネーミングセンスのなさが地球人の恥か。うん、この後、何とかするしかないと思うのだった。

それを見ていたチアキは。
「今の技は……そんなまさかな……」
あたしはあり得ないばかりに頭を振って、その一抹の疑念を払った。

それを見ていたクリスティは。
「ダサーッ……! あれが日本の文化なのかしら。あたし、控えめに言って日本の和の心を疑うわ。
う~ん……あたしならなんて名付けようかな。
秘剣、秘奥義……う~ん、ここは分けた方が良さそうね。
おそらく限定的な使い道しかできない……はず!
動きは光の矢が走った感じで、次の瞬間、光の柱が撃ち上がっていたから……」
あたしは何か閃いた。
「閃光一矢の舞……とか、う~ん……なんか違うなぁ」
あたしはその案を取り下げたのだった。
そもそも光速のバトルだ。あんな一瞬の出来事、地球人の誰の目にもついていけなかった。

それを見ていた海上に浮かんでいた豪華客船の上では。
「……」
ゴクリと誰かが喉を鳴らした。
「すごぇ、まるで映画じゃねえ……」
「特撮か何かか、だとしたらあんな場所であんな特撮を組むぐらいなんだから、どこの道楽の資産家だよ。金かけ過ぎだぞ……」
「にしても早過ぎないか? あり得ないくらいグルグル視界が回っていたぞ。まるで……そう、追いきれないみたいに……!」
「……」
言葉を失う、乗船中のセレブの人達。
「どう思う? ニューズさん?」
「はい、星斗総帥! あれはもう、人間ではない、別次元の生命体としか思えません」
これには久保星斗総帥も同意見で頷き得る。
「……あれが変身する前、人間の少年だった。あの場所には身に覚えがあるアースポート! そして、戦っていた場所は静止軌道ステーション!!
だが、辿り着くまで1秒もかかっていない。一瞬だった……!」
これにはニューズも同意見で頷き得る。
「怪物、現るだな……!」
私はブルリと戦慄した。
「だが、希望的観測でこう推理もできる! 例えば、近未来科学の産物を所持した、選ばれし少年の何かか……」
「だとしたら、大規模な組織がバックにいるのかもしれませんね」
「……」
私達はそのまま何も知らされず、黒雲に投影された映像を注視するのだった。
辺りの気温はドンドン冷えてきて、ビュオオオオオと吹雪が吹雪いていた。


☆彡
「「……」」
空いた穴を見詰めるエルス。
それは何か不気味な音がして、周辺の温度が下がってきているのを感じ取った。
(あ……)
(これは……また、君の氷柱の出番だね……)
(マズッ……!!)
僕はまたやらかした感を実感したのだった。
静止軌道ステーションの天蓋に大穴を空けたため、ドンドン空気が宇宙空間に排出されているのだ。同時に気温も急激に下がってきている。
まぁ、対処法は簡単で、前回同様、氷柱で大穴を塞げば良いだけなのだが。
だがこの時、ある一抹の懸念が脳裏を過る。
(……あ)
「どうしたん?」
(そう言えば、宇宙空間でエナジーア変換を解いたら……シシド君はどうなるの!?)
(それはもちろん、宇宙空間の気温が-270°だから、ほぼ絶対零度-273°に迫るよねー?
人の認識では、体の内側から沸騰して熱くなり、真空だから呼吸もできず、ドライアイスみたいな最後を辿るかと……)
僕達は精神世界で向き合った。
(やばい、早く助けに行かないと!)
(もう何でもっと早く気づかないの!!)
(君が長々と説明に入るからだ――っ!!)
(何お!?)
(何だよ!!)
((うう~~))
(って……)
「「急げ――っ!!」」
エルスは大急ぎで天井に空いた大穴に向かって飛んでいくのだった。
(――塞ぐのは後回しだ!!)
(わかってる――っ!!)
病室、遊戯施設、ホテル施設を瞬く間に通り抜けて、エルス(僕達)は静止軌道ステーションの天蓋へ躍り出た。
外は暗く、宇宙空間だから当たり前だけど。
太陽の光が明るく、陽光が静止軌道ステーションを差していた。
(あいつはどこに……)
(上だよ、ずっと上、この宇宙エレベーターのもっと上の方から感じる!)
スバルの『危機感知能力』クライシスサーチング(クリシィエクスベルシーフォラス)が働き、レグドの在所を明らかにした。
僕達は宇宙空間を飛んだ。
その宇宙エレベーター沿いに走っていく。昇っていく、昇っていく、昇っていく。
静止軌道ステーション(36000㎞)から、火星連絡ゲート(57000㎞)を超えて、その頂点が見えてきたんだ。
宙に浮いたレグドがそこにいた。良かった、シシド君とレグルスに分離していない。
僕達はそこで止まった。
そこは丁度、宇宙エレベーターの天辺、『カウンターウェイト』(96000㎞)付近であった。
そのカウンターウェイトの頂上には、この偉業を成し遂げた世界各国の国旗の姿がった。
その中には当然、日本の国旗日の丸の姿も。
僕はそれを見て、「「フフッ」」と笑った。
(何笑ってるの?)
(いや~来るところまできたな~って)
(……だったら、後で3人でこようか!?)
(?)
(姫姉に頼んでアユミちゃんサイズの宇宙服を貸してもらって、エルスになってゆっくり上がってくればいいんだよ。途中までは姫姉が宇宙船を出してくれるよ。きっと……!)
(そこまでしてもらっていいの!?)
(いいの! 元はといえば姫姉のおっちょこちょいが原因の1つなんだからね)
僕はこれに対して(ははっ……)と空笑いした。
あれをおっちょこちょいというあたり、Lは大器だった。
(さあ、レグドを連れて帰ろうよ)
「「……うん」」
エルス(僕達)はにこやかに笑った。


――そして、エルス(僕達)はレグド(馬鹿)を肩に背負って、頭から降下して行ったのだった。
『カウンターウェイト』(96000㎞)から
高軌道ステーション、
クライマーを通って、
火星ステーション火星連絡ゲート(57000㎞)、
『静止軌道ステーション』(36000㎞)まで下がり。


――天蓋の大穴付近に降り立ち、魔法を行使する前に、両手の手を使えた方がいいので、レグドの腕を放して、サイコキネシス(プシキキニシス)にて宙に浮かせた。
その後、精神を集中させて、魔力光を帯びるエルス。
さあ、天蓋に空いた穴を塞ぐぞ。
もちろん、天蓋に空いた大穴はここだけではないので、後で全部塞ぐつもりだ。
「「『氷原を荒べ、1条の氷柱(つらら)、我が腕に宿りて、彼の者を撃て』!!」」
高めた魔力を、天蓋に空いた大穴に向かって突き出す。
「「『氷柱』アイシクル(パゴクリスタロス)!!!」」
カッと次の瞬間、手元が光り、氷柱の柱が天蓋の穴から凄まじい速度で駆け抜け、正面玄関の地を衝き、周辺一帯を凍結する。
それはまさに、氷の世界のそのものだった。
見る人が見れば驚嘆ものだ。動転しかない。
これにより、宇宙空間に排出されていた静止軌道ステーションの酸素流出が防げられて、ひとまず安心するのだった。
「「フゥ……」」
これで一先ずの危機は去ったのだった――


アンドロメダ王女の宇宙船にて。
シャルロットが驚きアングリしていた。開いた口が塞がらない。
「凄まじいな。氷柱といえば初級呪文の1つなのに、ここまで凄まじいと……!」
ヒースは驚嘆していた。
「エナジーアは魔力だけに影響しませんからね。エネルギーと+@、その全てに高作用を及ぼすのです!」
「フフッ、技を放ったエルス自身も驚いておるわ。ほんの小さな力で、あれほど大きな氷柱を成したのじゃからな!」
そう、モニター画面に映るエルスは、自身の所業を驚いていた。その手を見る限り、意図した事ではないことが確かだった。
「……」
シャルロットは空いた口が塞がらない。
シャルロットは知らない。
スバルが魔法を覚えてからまだたった数日しか経っていないことを……。
しかも、その大半は長い眠りと政務に当てられていたものだ。
生身の状態で、修行など一切していない。そもそもできる時間など皆無だった。
それを教える師匠と先生は、あくまで精神世界に住んでいる。生身の状態で教わる師などいないのだ。
そんな少年が、もうこの域まで達している。
誰が考えられただろうか。
それは、天才とか努力とかで済まされる次元ではない、その成長速度は、飛躍、いや驚嘆しかない。


サイコキネシス(プシキキニシス)の影響で宙に浮いているレグド。
その腕を掴み、肩に背負いなおして、僕はここから見える、青い星、地球を見定めた。
((帰ろう、地球へ――))
エルスは、静止軌道ステーション(36000㎞)から飛んだ。
光の矢となって駆ける――
宇宙太陽光発電衛星、
低軌道ステーション低軌道衛星投入ゲート(23750㎞)、
クライマーを通って、
月重力センター(8900㎞)、
火星重力センタ(3900㎞)を通って、
地球の大気圏、熱圏に突入した。
――その時だった。
「――やはり甘いな」
「「!?」」
「炎上爪!!!」
なんと驚いたことに、エルスの肩に背負っていたレグドが目を覚ましたのだ。
そしてあろうことか、その凶刃『炎上爪』をエルスの腹部に突き刺した。
これにはエルスも「ガハッ」と血反吐(エナジーアの粒子)を吐いた。
「俺が開拓者(プロトニア)試験管ならお前は失格だッ!!」
さらにレグドは追い打ちをかける。
その足でドンッと踏みつけたのだ。
踏みつけられた反動で、エルスのその身はクルクル回った。
だが、それがエルスに火をつけた。
「「このっ!!」」
『飛来光刃爪エナジーア波』――
僕は光刃爪の突きを繰り出し、それをエナジーアに乗せて撃った。伸びてくるは光の爪だ。
「なにぃっ!?」
それはレグドの胸を突きささり爆発が起こった。
とその爆発の中で「グアッ」と悲鳴がした。
そして、エルスはその腹部から噴き出す出血(エナジーア粒子)を、手で押さえた。
「「痛てっ!! いいのもらったな……!」」
と眼前には宇宙エレベーター鉄壁が、しかもそこはまだ工事中であったのか、特別高圧ケーブルからバチバチと火花が噴き出していた。
一般的なケーブルは600V以下、高圧ケーブルでは3300~6600V、そして特別高圧ケーブルでは11000Vにもなる。
「「あっ!」」
不運にも、その特別高圧ケーブルに接触してしまい、バリバリと感電が襲う。
「「アギャギャギャ!?」」
それは意識を奪うほどの感電だった。


「スバル君不運――っ!!!」
これには見ていたアユミも絶句した。


「地球の技術って低い……。ケーブルを引かずとも大電力の無線送電はあるのに……」
「まだこの時代の地球では、技術的には電磁誘導方式、磁気共鳴方式、マイクロ波方式の3パターンですからね。
何条もの束ねた有線があるのは、そちらの方が確実だとされているためで、メンテナンスが容易だからなのですよ」
デネボラの呟きに応えたのは、ヒースだった。地球の文化、技術水準はある程度心得ている。
現在主流なのは、マイクロ波方式である。
これにはデネボラも嘆息した。
「でも……なんて不運……」
つくづく実感するのだった。これには周りも「うん……」と同調するのだった。。


バリバリと特別高圧の雷撃が襲う、それはまさしく感電ものだ。
生身の人間であれば、黒焦げの焼死体のできあがりだ。
だがこの時2人は、エナジーア生命体のエルスだった。その頑強な体がそれを耐えきる。
「「グッ……痛たぁ……ッ」」
まだ意識を繋いでいた。
だが、そろそろ限界だったため、そのまま空中で、エナジーア変換が解けてしまう。
2人に分離したスバルとLは、いや、少なくなくとも人間のスバルは、地球の重力に引っ張られて落下していく――
Lも自分から離れて、急加速で落ちていくスバルを認める。
「マズイッ!!」
それにここは熱圏だ。
大気圏突入の際、凄まじい高熱が牙を向く。
それは火で焙られたかのように、スバルの衣類が燃えだした。
さらにスバルは腹部から出血していたため、赤い血潮が勢いよく上にかけ昇っていく。
このままじゃスバルの命が危ない。
Lはすぐさま光迅の矢となってスバルに追いつき、その身を抱きしめる。
抱きしめるとはいっても、Lの身はその小さいので、抱き着くというより、掴むという表現が近い。
「死なせてなるものか!! もう二度と!! バリア(エンセルト)!!」
Lはそのままバリア(エンセルト)を張った。
直接スバルが、光熱の炎で焙られるのを少しでも防ぐためだ。
Lはその暴れる身を、その小さな手を離さない、決して。
「クッ……クォオオオオオ」
凄まじい速度で、炎の矢が落ちていく――


☆彡
その光景を見ていた人達は。
チアキはその水晶玉に映るスバルの危機を見ていた。
「い、いけん!! このままじゃスバル君がッッ!!」


黒雲に映る映像を認めていたクリスティは。
「ちょっと待って! あの大きな大陸、アメリカを超えて、まさかカナダ(ここ)に!?」


アユミちゃんとクコンさんは。
「ああ!! もう何て事にッッ!!」
「勝ってた……!! スバル君とLは勝ってたのに……何でこんな事にッッ」
クコンは悔やみ。
アユミもなんでこんな事になってるのかと悔やんだ。
「スバル君! そっちじゃない!! ああっダメ!! 海に落ちても大陸に落ちても、どっちにしても助からない!!」
クコンは頭を抱えた。
「神様! 仏様! 大明神様! L様! スバル君を助けてください!!」
アユミちゃんは神様達に拝んだ。願うは奇跡の生還だ。


炎の矢となって落ちていくスバルとL。
そのバリア(エンセルト)の中、温度はグングンと上昇していた。
スバルの腹部からの出血量は、先ほどよりはマシになっていた。
だが、危険な状態であることは依然変わりない。
熱圏(800~80キロメートル)
熱圏を超えて、炎の矢が――光の矢に変わる。依然凄まじい速度で落下中だ。
中間圏(80㎞~50㎞)、
大きな大陸を超えて、アメリカからカナダに移る。
成層圏(約50㎞~12㎞)、
カナダの荒れた街並みが段々と見えてきた。
対流圏(12㎞~約0㎞)、
それは荒れた都市だった。
どこかの建物屋上が見えてきた。そして――
「――!!」
光の矢となったバリア(エンセルト)が当建物の屋上にぶつかり、ドォ――ンと爆砕し、粉塵が激しく舞い上がるのだった。
その様子を遠方から確認したのは、クリスティであった――
「――やっぱり!!」
こんな偶然ってあるの。でも、あの子はあたしの顔見知りだ。前回の借りは抱きしめた事とチューで返し終わっているが、あたしはあの子を助けるため、駆け出していた。
「……」
だが、途中でピタッと止まり。
「……」
必要なものがあったため、戻ってきた。
「これも持って行かなきゃ!」
それはお医者さんカバンだった。
それは忘れてはならない大事なものだ。そもこれがなければ助けられないのだから。必要なもの。
すぐに粉塵が舞い上がる、あの建物へ向かうのであった。


――粉塵が舞う中。
当建物の屋上を突き破り、各フロアの床をいくつも突き破り大穴を開けていた。
パラパラと舞う粉塵、その粉塵が晴れていくと。
ヴゥゥゥンとバリア(エンセルト)を張る姿があった。
その中にいたのは、Lを始め、防寒着がいくらか溶けてしまったスバルの姿だった。
そのバリア(エンセルト)が役目を終えたように消える。
「ゼェッ……ゼェッ……。す、スバル……」
「……」
スバルは死んだように眠っていた。
その時だった。
カンッ、カラランと何かが投げられた。
それは瓦礫の破片だった。
L(僕)は、それを投げてきた方向を見やった。
それは人だった。地球人が投げてきたんだ。
「お、おい、何で今投げたんだ!?」
それは地球人側の言葉だった。
「だってあいつ! あの黒雲に映っていた奴なんだろ!! この異常気象を起こしている原因かもしれないんだ!!」
「そうだわ!! きっとあたし達の敵だわ!!」
「そ、そうだそうだ!! そうに違いない!!」
疑問に思っていたおじさんも多数決側の方に回る。
「子供だと思っても騙されるんじゃないぞ!!」
地球人みんなはあんな離れたところから、この子に向かって、足元に転がっていた瓦礫の破片を投げつけてきたんだ。
何てことだ、信じられない。
「な、何やってるんだよ!? 君達は同じ地球人なんだろ!!?」
声を上げるL。
だが、地球人達にはLの姿が見えず、声すら届かないのだ。
「おい、あのガキピクリとも動かないぞ。息してないんじゃないのか!?」
「だ、だったら……トドメを刺そう!!」
「――ッ!?」
――L(僕)は、その言葉に衝撃を受けた。
「な、ななな何言ってるんだ君達は!! この子は君達みんなのために必死に頑張って!!」
と独りよがりなおじさんが、大きめの瓦礫をどっこいしょと持ち上げた。
それを持ったままこっちに歩み寄ってくる。それでスバルを殺す気だ。
――だが、その時だった。
「ガハッ! ハァッハァッ」
スバルは一度口内に溜まった血を吐き、息を吹き返した。この最悪なタイミングで。
それと同時におじさんはその大きな瓦礫をゴトッと落とした。
「こ、ここは……」
「わわっ」
と引き返すおじさん。終いには――
「ゾンビが生き返った!!」
地味にヒドイ。
僕は目を開けると周りがやけに騒々しかった。
「お、おい!! 息を吹き返したぞ!!」
「だ、騙されるな!! あんな高いところから落ちて、生きてる人間なんざいやしねえ!!」
「そ、それはそうだ!! こいつは悪魔か何かだ!!」
「で、出てけゾンビ悪魔!!」
と、次々とここにいた人達はスバルのことをゾンビとか悪魔とか言い出し、その辺にあった瓦礫の破片を投げつけてきた。
これにはスバルも頭が追いつかない。
「な、えっ、なに、いったい……あっ」
その時、吸い込まれるように飛んできた瓦礫の破片が、あろうことかスバルの顔面にクリーンヒットしたのだった。
「ガアッ」
これにはLも振り向く。
「!」
人間達は、僕達の敵になっていた。
それはそうだ。いきなり地球に報復まがいのことをしでかし、こんな状況に陥っているのだから。
何も知らない人達が、わかってくれるはずがないのだ。


この光景を見たアユミとクコンは。
「あぁ、なんでこんな事にっ!?」
「理解が追い付かないのよ!! 多くの人達はスバル君を疫病神か何かだと思い込んでるから!!」
アユミ、クコンと口々に言う。
「そんな……ッ!?」
「……無理もないわ。あたしは事情を知ってるから理解が追い付くけど……事情を知らない人達にとっては、この状況を招いたのがスバル君だと思い込んでる……!!
必然の成り立ちなのよ……! あたしも含め地球人たちにはアンドロメダ星人の姿と声が聞こえないッ!!
それはそうでしょうね!!
だから、あの映像を通しても、エルスとレグドの戦いぶりはわかっても、ただの戦闘バカにしか映らない!!
この異常気象を招いた、犯人が誰なのかわからない!! 犯人探しをしてる!!
怨みつらみをぶつけたい!!
当然人という弱い生き物は、自分達よりも弱い立場の人を弾圧する!!! そーゆう脆い種族なの!! そーゆう風にできてるッ!!
……はっきり言うわ、今回の事件の犯人の容疑者として、スバル君がまっ先にその標的となってるのよ!!!」
「……ッッ」

【一転して、スバルは地球人達側から、弾圧される立場に陥った――】

「痛てっ……痛い痛い!! やめてっ!!」
「出てけ悪魔め!!! 私達の『いつも』を返せ!!!」
「ッッ……いつも……!!」
その時、僕はハッとわかってしまった。
ここの人達は被害者なのだと。
いつもの日常を突然奪われたのだ。
よく見れば髪の色や髪形、顔立ちがバラバラだ。親や子を失った人達が身を寄せ合って、今日を生きているのだ。
「……」
僕は愕然とした。

【――これが『今の現状』だ!】
【ここの人達は、いや、世界中の多くの人達は、食うものもロクに食べられていないのだ】
【衣類はボロボロ。住居や失った人達もいるはずだ】
【親や子、友人等を失った人達の集まりなのだ】
【飢餓の状態が、人の頭をおかしくさせた】
【突然の事態が、集団パニックを起こすまいと、生理のトガが、その地平線をギリギリ踏み越えまいとしているのだ】
【そんな人達が向ける言葉が、『悪魔だ』!!】

「ハハッ笑えてくる」

【僕は空笑いした】
【僕は理解してしまう、今僕は、地球人たちから、弾圧される立場にあるのだ】
僕は俯き、笑った。笑って泣いた。知らなかった。まさか地上がここまで大変なことになってるなんて。
投げつけられる石によって、スバルは流血していた。

【必然の立ち位置。スバルはその境界線に立っていた】
【心の声が問いかけてくる】
【――『お前はどっちだ』と!? それは地球人側か、宇宙人側か、二者択一を迫られた】

「……っ! 僕は……」

【今の立ち位置は弾圧される側】
【地球人側を選べば、宇宙人側を見限ることになり、地球人たちと一緒に氷の惑星に閉じ込められて、その生涯を終えるかもしれない】
【宇宙人側を選べば、弾圧がさらに増し、一転して地球人側の怒りを買う。無辜の民を地球からの難民として宇宙に送っても同じだ】

ハチとトンボが一体となった無人航空機(メイビーコロ)が、その光景を地球全土に送信していた。
完全に退路を断たれた。
ここにきて炎の死神の鎌が、僕の喉笛に添えられた。
ダメだ、息が……苦しい……。
「ハァッ、ハァッ、ハァハァ」
「スバル……」
(まさか、過呼吸……?!)
ドサッ……
と息苦しくなり、僕は前のめりに倒れた。
その頭に、瓦礫の破片が当たる当たる。
ひたすら裂傷を受けるたび、頭から血が滲み出る。
「ウッ……ウッ……!!」

【まさに二者択一!! 再び、それがスバルの前に立ちはだかるのだった――】

(ダメだ……。この人達の怒りの矛先を鎮める手がない……)
「返せ!! パパとママを返せ!!」
まだ小さな女の子が、僕に向かって瓦礫の破片を投げつけてきた。
僕はそれを避けようとしない。被弾する。
僕は正しく、彼等彼女等の怒りに吐け口になっていた。
罵詈雑言。無抵抗な上での糾弾暴力。
僕はこの時、人生史上もっとも痛い場面に出くわした。
こんな人生考えられなかった。誰が想像できただろうか。まだ小学生の少年が、その双肩に地球人類の未来を背負っていることを。
だが、その人達はその事を知らない。知らないからこそ、こんなケースを辿っているのだ。

【少年が犯人だ!!】
【その誤認の中、その行為は正当化される!! それが人の脆さ、集団による心の安寧だった】
投げつけられる、投げつけられる。
僕はその場でしゃがみ、土下座して謝った。
「こんな状況だなんて知りませんでした!!」

【そんな中、スバルが選んだ答えは――】
【『無実の謝罪』であった】

「……スバル……」
僕は信じられないものを見るかのようだった。
それは大きな矛盾だ。
同じ地球人同士なのに、ここでは虐げられる立場にあるのだから。
「わかっています!! 怒りの矛先は!! ですが、どうにもならないんです!!
今日、明日、いいえ、明後日には全てが終わってしまいます!!
全球凍結なんです!! 地球が凍って、皆さんが生きられる環境下ではなくなるんです!!」

【スバルは告げた。これから地球全土に起る、どうしようもない現実を――】

「僕はあの後、アンドロメダ星、プレアデス星に行きました!!」

【例え口下手でも、言葉の並べ方が下手でも構わないから、人が生きられる環境下の星がある事を告げる】

「僕は、アンドロメダ王女やデネボラさん、L、シャルロットさんやヒースさんたちに伺いました。
-40度の過酷な世界です!! 人なんて、ましてや動物なんて住めやしません!!
だから皆さん!! ここは僕を信じて、命を預けてください!!
頼みます――」
僕はどけ座して謝った。頭を地にこすりつけるほど。

【地球外生命体でも、こちらの言葉がわかる人を告げる】
【人は危機に陥った時、その命を拾ってくれるところを求めるものだ】
【スバルは、その橋渡しを可能にしてくれたのだ】
【それは宇宙から地球人達側に差し伸べられた、救いの手へ、にも見えた】

投げつけられるその手が止まっていく……。
「今!!」
僕は顔を上げる。
「アンドロメダ王女様達が!! 皆さんが暮らせる施設を用意しているはずです!!
皆さん、僕を信じて、その施設に身を寄せ合ってください!!
こんな状態になってしまって、ホントに申し訳ありません……ッッ」

【スバルのそれは、『人を想い合っての謝罪』だった】
スバルは、スバルに非はないのに、その頭を地面にこすりつけた。
スバルは、頭を下げ続けた。
それを見た人達の反応は、何かに突き動かされたみたいに、その怒りの手を鎮めたのだった。
その手から零れ落ちたのは、瓦礫の破片だった……。
瓦礫の破片が宙を落ちていく――


☆彡
その様子を見ていたチアキは。
「スバル君、あなた……愚者やわ」
そして、フッと笑う。
あたしはおもむろに愚者のカードを取り出した。
【――『愚者』のカード、The Fool(ザフール)、Anoitos(アノイトス)】
【愚者のカードには、ナンバーリングとして0番が振っているカードとそれがないカードがある。謎多きカードだ】
【発行されたカードの中には、2つの特殊なカードがある!】
【それが、№のない『愚者』と№13の『死神』だ!】
とここでチアキは、その愚者を反転させて、逆向きにした。
「愚者の反対は、英雄――!! 死神への愚かな道か、希望への英雄の道」
あたしはその手に持ったカードから視線をそらし、黒雲に映る映像を認める。
「まさしく、君が紡ぐストーリー、『愚者の開拓記』――……」
その言葉は吸い込まれるように、世界に浸透していく――


その様子を見ていたアユミとクコンは。
「ど、どど、どうしよう」
「?」
「惚れた……かも」
「えっ……えええええ」
身内に強力なライバルが出現した瞬間だった。


☆彡
場に静寂が流れた……。
その時、声をかけてきたのはおばさんだった。
「あ……」
悪魔と言おうとしたその口をつぐんだ。
そして、吐き出した言葉は「あなたはどこからきたの?」だった。
「?」
僕は顔を上げた。それはわからないという体だった。
髪の色も違う、人種も国籍も、言語が違うのだ。理解なんてできなかった。
だから僕は、体を張ってジェスチャーした。
「僕は地球人!! みんなと同じ!!」
僕は胸に手を当てて、そう語った。
「僕は日本人!! わかる!? 日本、ジャパン!!」
「!」
ジャパンという単語に理解を示した人達は顔を見合わせた。
「日本の子供(ジャパニーズチルドレン)!! 私、日本から来ました! あなた達、ここはどこの国ですか!?」
「!!」
これにはこの人達も、顔が明るくなった。
「ここはカナダだ!」
「か、カナダ!?」
(そんな遠くまで落ちてきたのか……)
その時、ズキッと
「ハアッ……ハァッ……」
僕は腹部の出血を押さえた。痛い。
(まいったな、ここからどうすればいいんだ……)
――その時だった。僕の『危機感知能力』クライシスサーチング(クリシィエクスベルシーフォラス)が危険を報せたのは――


☆彡
「――ッッみんな逃げて!!」
僕が声を張り上げた時にはもう遅かった。
そこの人達は皆、後ろから切り裂かれ瞬く間に炎上したのだった。
「ワァアアアアア」
「ギャアアアアア」
身が焼ける中、悲鳴を上げ、踊り狂って倒れていく人々。燃え盛る業火。
そこにいたのは、災禍の獣士レグドだった。
「……ッッよくもぉおおおおお!!!」
僕は激しく怒った。
「いけない!!」
もう僕達の体力は底を尽きかけていた。
これ以上の戦闘は危険だ。
「『堕威炎戒』!!」
その炎の轍が走り、スバルとLを分断した。
さらに炎が走り、楕円形の燃え盛る炎を作り上げる。
今、この輪の中にいるのは、レグドとスバルの両名だけだった。

【――ここで決まる決着が!!】
【そして、レグドの狙い通り、スバルを地球人たちの英雄として祭り上げるために、その舞台が整った】

「待って! レグルス隊長! もうその子はもう限界なんだ!! もうそれ以上やったら……ッッ」
僕はバンバンとその燃え盛る炎壁を叩いた。こちらからでは入れないんだ。
「決着を、決着をつけにきた!」
「!」
「ゼェッ……ゼェッ……」
「ハァッ……ハァッ……。どうした!? 随分弱ってるじゃないか!」
「だ、黙れッ」
その時だった。
エナジーア変換が解け、レグルスとシシドとに分離したのは。
あえなくシシドは、ゴトッとその場で倒れ伏した。

【狙い通りだ。俺はスバルを英雄を祭り上げるため、一騎打ちを望む。地球人のシシドは、その被害者でなくてはなくてはならない。Lにはこの聖戦に立ち入らせない】

「!」
「こ、この方が身軽で、いい……。さあ、アンドロメダ星人と地球人の」
「ああ、決着をつけようか」
僕は笑った。
ああ、トコトンまでやってやる。
僕達はどちらともなく駆け出した。
だがやはりというべきか、一番手に炎上爪を振るったのはレグルスだ。
斜め下から突き上げるように振り払う。
僕はそれを左腕をガードした。
瞬く間に左腕を伝い、全身が炎上する。
「うあああああ」
やっぱり卑怯だこの技、ガードしてもどうしても全身が炎上してしまう。
「……」
だが、安心しろ、ワザと殺さないよう、火力を弱めてある。
「クッ……!」
こんな状況下でのんきに歌えるわけもない。
僕は「『氷柱』アイシクル(パゴクリスタロス)!!」と詠唱破棄した。
地表から氷結の波紋が発光し、次には冷気の気流が噴き上がった。
僕はそれを利用して、この炎上する身を冷やし、鎮火させた。
「……涙ぐましいな! だが、そんな手はそう何度も使えんぞ」
「ハァッ……ハァッ……」
炎上爪の突き攻撃。
狙ってきたポイントはスバルの首だった。
当たれば一撃必殺だ。
歌えなくなる。
僕はそのポイントを両腕を交差してガードした。
ドォンと炸裂した。
僕の身は後ろに大きく吹き飛ぶ。
ドザァッと床を滑った。
「あうぅ!!」
う、腕が焼けるように痛い。
だけど、腕は燃えていない。首も潰れていないから、まだ、まだ歌える。け、けど……。
(ば、場所が良かっただけだ……)
倒れた僕は身を起こそうとした。
(詠唱破棄した特定のポイントで攻撃を受けたから、炎上せずに済んだだけだ)
僕は顔を上げる。
(う、運がいい。だけど次はないぞ)
その時だった。僕の指の先が何かに当たり、カランと金属音がした。
「――!」
「シャアアアアア!!」
レグルスが飛び掛かってきた。
僕はそれを掴み取り、引き抜く。
レグルスがその凶刃を振り下ろす。
僕はその何かを振り抜く。
スカッとレグルスの炎上爪とスバルの手に持った何かがすり抜けた。
そして、そのままザシュッとボォオオオオオとスバル(僕)の体が炎上した。
「うわぁあああああ!!!」
炎上する僕の手から零れ落ちたのは、『鉄筋の棒』だった。カンッ、カラランと甲高い音を立てて転がる
スタッと幾分か離れたところに着地を決めるレグルス。
「ハハハハ! 残念だったな地球人! 俺達アンドロメダ星のエナジーア生命体には、ほぼどんな物理攻撃もきかないんだ!! お前の負けだ!! ハハハハ」
俺はこの状況下にあって、スバルに圧倒的な劣勢を強いて、俺が悪人として仕立てる。
「ググググッ……『氷柱』アイシクル(パゴクリスタロス)!!」
僕は詠唱破棄した呪文を放つ。
それは僕の背中から氷結の波紋が発光し、
真上へ向かって冷気の立ち昇った。
「うぁあああああ」
「ははははは! 自殺志願かガキ! そうら俺の炎で温めてやるよ!!」
俺は炎上爪を撃つまでもなかった。
手を突き出し、そこから放たれるは掌大の炎上エナジーア弾だ。つまるところ、ただのファイアボールだ。
「ううう」
冷気の波動が地表から直上に向かって噴き上げる。
く、苦しい。い、息ができない。
吐く息が白く、吐いたそばから凍っていく。
僕のまつ毛や眉毛が凍り、白くなる。
体が痛い、冷たい、体の奥から血潮が熱い、でも体の体表が凍てついて痛い。何なんだこれ。
そこへドンドンドンと火の玉が当てられ、地に伏した状態の僕の体が踊る、踊る。

それを堕威炎戒の向こうから見ていたLは。
「っ」
その場から飛び出し、堕威炎戒の中へ飛び込もうとしたが、バチンッと阻まれた。
「!?」
入れない。
「無駄だL!」
「レグルス!」
「隊長を付けろ! 何のためにお前達2人を引き離したと思う!?」
「……」
「……俺を信じろ!!」
「――え?」
一瞬、僕は呆けた。信じろって、何を……。
レグルスはLから視線を切り、スバルを見る。
「エルスにでもなられたら面倒だからだ!!」
(――だから、邪魔しないでくれ!)
「それにこれは地球人とアンドロメダ星人の一騎打ちだ! お前の出る幕じゃない!」
ここまで読み通り、配役(キャスティング)と物語(シナリオ)が進んでいるのだ。邪魔はさせない。
「……っ」
その時、スバルは寝転がり「ううっ」と呻いた。
そして再三、『氷柱』アイシクル(パゴクリスタロス)と唱えた。
寝転がったスバルの前面部から氷結の波紋が発光し、冷気の気流が立ち昇った。
「うぁあああああ」
スバルは自身が放った冷気で、この炎上する身を沈静化させた。
それを見ていたレグルスは「フハハハハッ、涙ぐましいな」と笑った。
これに対してL(僕)は「こんなの不平等(アンフェア)だ!!」と反論した。
「アンフェア……」
「僕達エナジーア生命体には、ほぼどんな物理攻撃もきかないだろ!! それなのにあの子は、拳と魔法と『鉄筋の棒』ぐらいだ!
拳と『鉄筋の棒』は言うに及ばす。
唯一の頼みの綱の魔法もつい最近覚え始めたばかりなんだよ!! そんなの最初から勝てるわけがないッッ!!」
「おいおい、何を言ってるL! 戦いというのは大抵不平等だ! 準備不足の連続だ!!
いいか、勝負において1対1というのは稀だ! 大抵は集団戦なんだ!
それにこいつが目指しているのは」
その時、スバルは歌っていた。
それを脅威と感じた俺は、炎上爪を振り上げ、その歌を邪魔した。
「クッ!」
と僕はその攻撃を避けた。その代わり、詠唱を歌うのを失敗してしまった。
「歌わせねえよ!」
「あぁ惜しい!!」
あとちょっとだったのに。
「とどこまで話したかなそうそう、開拓者(プロトニア)を目指す以上、どうしても個の力を求められる!!
集団で組んで勝ち進んでいこうなんて考えは、子供の浅知恵だ!
いいか!?
集団戦においてはどうしても足を引っ張る奴等が出てくる!
そーゆう奴等は大抵、この星みたいな非力な人種だ!
大抵そーゆう奴等は徒党を組んだはいいが、初戦のデッドゾーンで早くに討ち死にしてしまうんだ!
仲間の足を引っ張って自分だけ死ぬならいいが、仲間まで討たれてみろ、泣くに笑えねえよ!!」
「何でそんなのわかるんだ?」
「知り合いに開拓者(プロトニア)がいるからだ!」
「……っ」
「そいつに聞いた話じゃ、魔法を使えるこいつみたいなエルフは、後方支援でまだ役に立つが。前衛ではからっきしだ!! 精々荷物持ち程度だろう」
「……」
「大抵のパーティプレイじゃエルフだけいれば十分だ! こいつを入れる穴はないッッ!!!」
俺はそう断じた。そして――
「……」
「――!!」
――僕はこの日一番、衝撃を受けた。
エルフは魔法に長けた一族だ。
地球人のスバルがどんなに頑張っても、そのエルフには歯が立たない。
それはエルフの長い歴史が物語っている。
「古くからエルフ達はその頑張りで、ファミリアを立ち上げることができたが……それでも大昔の話だ。
だが今は時代が違う! こいつはこいつの代でファミリアを立ち上げると言ったんだ!
並大抵の努力じゃないんだよ! 求められるのは突出した個の力だ!!
この場で、俺を倒せないようじゃ地球に望みは――ない!!!」
「――!!!」
二度目の衝撃だった。つまり今の僕は、その力の基準に達していないというものだった。
僕は項垂れた。
「……っ」
「……引導を渡してやる、『堕威炎戒』」
それは諭すような口振りであった。レグルスは冷たく突き放したんだ。
レグルスは自身の周囲に堕威炎戒の炎の輪を張り。
利き手を高々と上げ、そのエナジーアをただの一点に集約させる。
それは大きな業火の球であった。
それはレグルスの身の丈ほどもあった。
「『光熱球』!!」
僕はその球の大きさを見て。
「まるで太陽だ!!」
と呟いた。
「ファミリアの王となるなら、逃げることは許さん!!」
「!!」
屈しかけていた僕は立ち上がった。
「ツナガリのように!! 燃え滾る太陽を超えていけ――っ!!」
そのツナガリという言葉に、Lが反応した。
そして、それが投じられた。
ゴォンゴォンゴォンと遅めの速度。
逃げる間はある。それはワザとだ。
でも、僕は逃げなかった。
「何やってるんだ!! 早く逃げるんだ!! 早く――っ!!」
「……」
腕を組むレグルスはその様子を注視する。その様はまるで、この場で見極める試験管のように。
光熱球に面した面からドロリと溶解していく、床が天井が。
その付近の瓦礫片からも白い煙が上がる。
たまらず僕は「『氷柱』アイシクル(パゴクリスタロス)!!」と唱えた。
氷結の波紋が僕の足元から発光し、冷気が立ち昇る。
この中でいる限り、僕の身が燃え尽きることはない。
僕は両手を突き出した。
「こいっ! 受け止めてやる!!!」
そして、ドンッと僕はその『光熱球』を受け止めた。
「ううううう!!!」
ダメだ、何だこれ。
ジュアアアアアと僕が着こんでいる防寒着が熱で変形し溶けていく。
「うあああああ」
それは腕から始まり、肩、胸、足までやられ、熱で変形し溶けていくのだ。
僕は声を張り上げて、それを受け止め続けた。
だが、ズズッ……と光熱球に圧され、僕の体が後退していく。
足が円から出ただけで、燃え上がった。
「あああああ!!!」
ズズッ……ともう片方の足も円の外に出て、音を立てて燃え上がる。
「ぎゃあああああ!!! ッ……ッッ……ッ!! あ……ああ、あああああ」
グォオオオオオ
噴き上がる魔力。それはスバルのものだった。
(絞り出せ!! 僕の魔力の全部をッッッ!!!)
圧されていた僕は、その手を突き返すように圧し出し始めた。
「あああああ」
叫ぶスバル。
猛る魔力圧。
その様子を認めていたレグルスは、グッと簡単に『光熱球』に力を加えた。
ドォンとその力が増す『光熱球』。
圧し出し始めていたスバルの手が押し返され、
その身の大半が氷結の波紋の外に出てしまう。
足元から背中かけて、炎の舌が焙る。
「ウアアアアア!!! あうぅぅぅ……ッ……ッッ」
僕はこのまま死ねまいとこの手に力を込める。
(ありったけを!! ありったけを持っていけ――っ!!!)
冷気の気流がオオオオオと唸り声を上げる。
噴き上げていた冷気の気流がまるで意思を持ったかのように、逆巻き、僕の体を包み込む。
まだ、まだだ、まだ僕は死ねない。死んでなるものか。
炎上していたその足が、足から背中にかけて焙る炎の舌が沈静化されていく。
レグルス(俺)はその右手を突き出し、掌大のエナジーア弾を『光熱球』に1発、2発、3発と加えていく。
するとドォンとパワーが増した。
「何!? うわぁあああああ!!」
ズズズズズッと光熱球に圧され、スバルの体は大きく後退した。
そしてそのままバァンと後ろの堕威炎戒の炎に背中から焙られた。
「あああああ!!!」
ジュアアアアアと音を立てて防寒着が全て溶け、パンツ一丁となるスバル。
そのパンツは決して燃えない。
炎の舌がその若い体を炙る。
「ヒギィ……ッッ!!」
痛い、熱い、冷たいよぉ、死にそうだぁ……ッッ。
でも、ここで屈したら確実に死んじゃう。それだけは嫌だ。
僕はこの手に全ての力を込める。
それこそ全身全霊すべてを。
(僕の全部を持ってけぇえええええ!!!」
冷気の大瀑布が打ちつけられた。
その時、『光熱球』に閃光が発せられ、瞬く間に大爆発を起こしたのだった。
天井が、壁がその大爆発に屈し大きく爆ぜ飛んだのだった。

ドォンとその建物から爆煙が立ち昇った。


TO BE CONTINUD……

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