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(16)茶番の最たるもの

 建国記念日当日。
 その日は朝から関連行事の武術大会が開催され、参加する騎士32名を前に、国王でカイルの父親であるヘレイス・ダレン・グラントが、ふんぞり返りながら開会を宣言する。

「建国記念祝賀会に先立ち、ここで武術大会の開催を宣言する。この場に集められた者達は、我が国を支えている武官の中でもすこぶる優秀と認められた者である。各自、その実力を如何なく発揮して貰いたい。本日は周辺各国からお招きした方々が観覧される。我が国の実力を示すためにも、気を引き締めて取り組むように。我が国の建国二百年を記念する式典に先立ちこのような場を設けたのは、ひとえに我が国が武勇を誇り偉大な加護の恩恵を受けた初代アゼル国により建国されており、ゆえに……」
 競技場の地面からは数段高い位置に設置されている観覧席の最上段で、文字通り上から目線で滔々と語り続けるヘレイス。彼が自分の父親という事実に、カイルは恥ずかしく思いながら他人には分からないように溜め息を吐いた。

(相変わらず、話がくどくて長くて内容がスカスカだな。原稿を推敲するまともな側近はいないのか? 大叔父上だったら、すっきり纏めて印象に残る挨拶を考えると思うが……。そんな些末な上に、面倒くさい事を引き受ける筈もないか)
 カイルが実の父親に対して結構辛辣な事を考えていると、一回戦の対戦順で隣に立っているランドルフが、馬鹿にした口調で声をかけてくる。

「よく臆病風に吹かれず、仮病を使わずに参加したものだな。褒めてやるぞ」
 それくらいの嫌味は既に予想していたカイルは、素っ気なく応じた。

「単なる剣術の試合で、臆病風に吹かれなければならない理由が分かりません」
「はっ! しばらく見ない間に、減らず口だけは一人前になったらしいな。後で吠え面をかかせてやる」
「どうでもよいですが、陛下のお話の最中に私語は拙いのではないでしょうか? あ、でもランドルフ兄上が好き勝手な事をしても、陛下は全く関心がないかもしれませんが」
 カイルが挑発に乗ってこないばかりか、突き放した物言いをしてきたことで、短気なランドルフは瞬時に頭に血を上らせ、時と場所を考えずに罵声を浴びせる。

「はぁ!? 常日頃加護詐欺王子と陰口を叩かれている情けないお前と、この俺を一緒にするな!! 貴様と違って、俺は陛下からの期待を一身に浴びているんだからな!!」
 その叫びで、場内が静まり返った。すると近くの騎士が、小声で焦ったようにランドルフに呼びかける。

「ランドルフ殿下! 陛下がこちらを睨んでおいでです!」
「……っ!」
 せっかくの挨拶を、無粋な叫びで中断させられたヘレイスが、いかにも不機嫌そうな顔でランドルフを睨みつけていた。それを認めたランドルフが、顔色を変えて口を噤む。父親と異母兄双方を無言で眺めてから、カイルは皮肉っぽく囁いた。

「そうですね。やはり不肖の息子の私とは違い、兄上は陛下に随分目をかけて頂いているみたいですね」
「……覚えていろ」
「何をでしょう?」
(はぁ、馬鹿馬鹿しい。こんな挑発に、簡単に乗るだなんて。向こうが絡んできたら遠慮せず、試合前にペースを乱しておいてやれとアスラン兄上に言われたから、適当にあしらってみたが)
 カイルは憤怒の形相のランドルフから、アスランにさり気なく視線を移してみた。すると彼は「良くやった」とでも言うように、笑いを堪える表情で小さく頷いてくる。それに小さく頷き返してから、カイルは延々と続く開会の挨拶に聞き入るという苦行に戻った。


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