4
夏休みに入ってから3日目。
この日、僕は初めて菜摘さんのアパートの部屋へ行った。
「菜摘さん……体調悪いですか?」
13時にいつものベンチで待ち合わせをして、菜摘さんのアパートまで徒歩5分。
その間、菜摘さんはいつもより呼吸が荒く大量の汗をかいていた。
「大丈夫だよ…ありがとね隼くん。」
そう言って微笑む笑顔も、いつもより力が無さそうだ。
「そうだ!ほら、隼くんが好きだって言ってたこのお菓子。作ってみたんだ!」
「え!ありがとうございます!!全部作ったなんて凄いですね。」
「美味しいかは分からないけど…食べてみて!」
「はい!」
僕の心配を他所に、菜摘さんは嬉しそうにキッチンから自作のお菓子を取り出してきて、僕にくれた。
「美味しいです!!」
一口食べただけでも、手作りお菓子特有の甘さが口の中に広がった。
「よかった~!私、普段あまりお菓子づくりとかしないから不安だったの。」
「今まで食べたどのお菓子よりも美味しいですよ。」
「もー、隼くんはお世辞が上手いんだから。」
「ホントですよ!普段作らないのに、僕のために作ってくれたのも嬉しすぎます。ありがとうございます!」
僕の言葉に優しく微笑むと、菜摘さんは少し俯いて黙っていた。
僕は菜摘さんが作ってくれたお菓子を頬張りながら、自分のためにこんなことまでしてくれる菜摘さんを少しだけ不思議にも思った。
どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう……?
いつも嫌われて無視されて馬鹿にされている僕は、菜摘さんの惜しみない優しさに、少し慣れずにいた。