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『20XX年 7月20日。
今日から隼くんたちが夏休みに入った。
隼くんは、自分がいじめられているのにも関わらず、他の子どもたちを助けてばかりいる。
前に聞いたクラスの女の子の話もそうだ。
隼くんは自分が犠牲になることで、他の人にいじめの刃が向かないようにしているんだと思う。
そして不思議なことに、隼くんもそんな状況をそこまで本気で気にしていなさそうなのだ。
もちろん叩かれたり蹴られたり暴言を吐かれたりするのは傷つくと思う。
だけど、どこか心の余裕を感じる。
それはきっと、彼の早熟な精神のせいだろう。
また彼が、他のクラスメイトたちよりも何事においても秀でているということも、彼の余裕に拍車をかけているのだろう。
彼は非常に微妙なラインで、自分の生来の能力の高さ故に、いじめられていながらも自尊心や自己肯定感をしっかりと維持しているのだ。
大体、いじめられっ子は能力や学力が低く、自己肯定感も低いことが多い。
それがいじめによって悪化していくのだが、隼くんはそんなことはなさそうだ。
それだけが、唯一の救いなのかもしれない。
そして私も最近、不思議とそんな彼に今までにない気持ちを抱くようになっていたのである……。』