55章 ソフトクリームを食べる
アオイ、ナナ、ホノカ、ツカサ、マイが戻ってきた。行列に並んでから、2時間くらいかかることとなった。
「ミサキさん、シノブちゃん、お待たせ」
マイの視線は、シノブに向かった。
「シノブちゃんは寝ているの」
「うん。ぐっすりとしているよ」
眠っているにもかかわらず、いびきは聞こえてこなかった。シノブの吐息は、非常に小さいのかなと思った。
「シノブちゃんは疲れているのかもしれないね」
アオイは眠っている女性に対して、いやらしい視線を送っていた。
「シノブちゃんのわき腹などをくすぐってみよう」
アオイの意見に、ツカサが賛成する。
「そうだね。やってみたい」
「シノブちゃんに悪戯してみたかったんだ」
「私も同じだよ。どんな反応を示すのか興味がある」
いたずらのことで盛り上がっている2人に、ホノカがストップをかける。
「女性の寝るところを襲うのは、よくないと思う」
ナナはホノカの意見に賛同した。
「そうだよ。シノブちゃんに悪いよ」
マイも同じ意見だった。
「女性の寝るところを狙うのは、最低な人がやることだよ」
アオイは注意されたにもかかわらず、反省するそぶりを見せなかった。
「すぐに起こさないと、ソフトクリームが溶けるじゃない」
ツカサも続いた。
「そうだよ。ソフトクリームが溶けたら、せっかくの苦労が台無しだよ。ソフトクリームを買うために、2時間も列に並んだんだよ」
ソフトクリーム店には、100人くらいの列ができている。買いなおすことになれば、2~3時間はかかると思われる。
「溶けるのは嫌だから、先に食べるね」
アオイはソフトクリームをなめる。
「牛乳をなめているみたいだね」
ソフトクリームのミルクは、乳固成分20パーセント、脂肪乳分10パーセント。アイスクリームと比べても、ミルク成分が多めである。
ツカサもソフトクリームをなめる。
「おいしい、おいしい、おいしすぎるよ」
マイ、ホノカ、ナナもソフトクリームを口にする。これ以上待つのは、得策ではないと判断したようだ。
「ミサキちゃんも食べよう」
マイからソフトクリームを受け取ると、クリームの部分をなめる。
「最高においしい」
ソフトクリームを満喫していると、シノブが目を開ける。
「みなさん・・・・・・」
目を覚ましたばかりの女性に、ホノカがソフトクリームを渡そうとする。
「シノブちゃん、早く食べないと溶けるよ」
「わかった。ソフトクリームを食べる」
シノブの動作からすると、眠っていたのではなく、目をつぶっていただけに感じられた。通常の人間は、寝起きできびきび動くのは難しい。
シノブはソフトクリームを口にする。
「すっごくおいしいね」
7人は幸せそうな笑顔を浮かべる。おいしいものというのは、人間を笑顔にさせる効果があるようだ。
ソフトクリームはあっという間になくなった。マイは物足りないのか、
「もう一つ食べたい・・・・・・」
といった。
マイの言葉に、ホノカが続いた。
「私も食べたい」
ソフトクリームを食べたいといった2人に、シノブは柔らかい視線を向けた。
「私も食べたいけど、時間がありません。今日はここまでにしましょう」
マイ、ホノカは首を縦に振った。
シノブは悪戯をしたいといった、アオイ、ツカサに冷たい笑顔を向ける。見ているだけで、背筋がぞっとするレベルだった。
「アオイさん、ツカサさん、さっきの話を聞かせていただきました。私に悪戯をしてみたいんですか?」
アオイ、ツカサは怖さのあまり、思考回路がストップした。
「そ、そんなことは・・・・・・」
「シノブちゃん、冗談だよ」
「そうそう、冗談、冗談」
シノブは逃げようとする二人に対して、さらに冷たい視線を送った。マイ、ツカサ、ホノカはシノブの視線に対して、恐怖めいたものを感じている。
「実際にやったら、クビにしてあげますからね。そのことについては、しっかりと理解してくださいね」
「クビ」の2文字は、効果抜群だった。アオイ、ツカサは何も言葉を発さなくなった。