49章 クドウアヤメ登場
ソフトクリームは有名とあって、長蛇の列ができていた。購入するまでに、45~60分くらいはかかるのではなかろうか。
45分~60分でソフトクリームを購入した場合、2時間以上は何も食べないことになる。ミサキのおなかは無事を保てるだろうか。
ミサキの心情を察したのか、マイが声をかけてきた。
「ミサキさん、どうかしたの?」
「いえ・・・・・・」
ミサキは無意識のうちに、おなかに手を当ててしまった。シノブはそれを見て、心の中の声を
読み取った。
「ミサキさん、おなかはいけそう?」
「はい、なんとか・・・・・・」
問題ないとはいったものの、不安を隠すことはできなかった。
「おなかがすいたら、遠慮なくいってね」
ミサキは小さく首を縦に振った。
ミサキの周囲が急に騒がしくなった。何かあったのかと思っていると、アイドルのトップである、クドウアヤメが姿を現す。グラビア界の巨匠と、こんなところで顔を合わせられるとは思っていなかった。
アヤメの周りには、10人の屈強なボディガードがついていた。総合格闘技に出場したら、簡単に優勝できる腕っぷしをしていた。
ボディガードは防弾チョッキ、盾などを装備しており、厳戒態勢であることが伝わってきた。著名人を守るためには、ここまでの警戒が必要なのかもしれない。
胸のあたりから、手りゅう弾、ナイフなどを発見。防具だけではなく、武器も備えているところに、本気度を感じさせた。
サングラスがかすかに光った。人間の動きを感知する、チップが埋め込まれているのかもしれない。
アヤメがボディガードに声をかける。ボディガードは熱心に話を聞いていた。
アヤメはどういうわけか、こちらに近づいてきた。
「大食い少女といわれている、ミサキさんですね」
アイドル界の巨匠が、一般人の情報を入手している。そのことに対して、驚きを隠すことはできなかった。
「はい、そうです」
「ミサキさんに一度でいいから、お会いしたいと思っていました」
アヤメの輝きを見ていると、まんざらではないように感じられた。
「ミサキさん、握手をしてください」
トップクラスのアイドルから、握手を求められるなんて。夢を見ているのかなと思った。
ミサキが手を差し出すと、アヤメはゆっくりと握った。
「ミサキさん、ありがとうございます」
アヤメが手を握ったことで、大きなざわめきが起こることとなった。
「アヤメさんが一般人と手を握るなんて」
「アヤメさんと手をつないでいる女性は誰だ?」
アヤメと手をつないだことで、みんなの注目を集めることとなった。目立つのは得意ではない
ので、やめてほしいという思いが強かった。
「あの女性は・・・・・・・」
「幻の大食い少女だ」
夢岬駅、友達駅はかなり離れている。それゆえ、誰も知らないと思っていた。
「アヤメさん以上の、大物がやってきたぞ」
「本当だ。サインをもらわないと・・・・・・」
アヤメは一線級のアイドルで活躍した女性、ミサキはただ食べるだけの女性。ランクが上なんて、絶対にありえない。話をしている人たちの感性は、完全にマヒしている。
「ミサキさん、少しお時間をいただいてもいいですか?」
シノブに目で確認すると、OKという返事を出した。
「私でよければ、喜んで協力します」
同じ女性といるにもかかわらず、胸が高鳴るのを感じた。同性にときめきを感じるのは、こち
らに来てから初めてだった。
「シノブさん、アオイさん、ホノカさん、ツカサさん、ナナさん、マイさんも一緒に話をしましょう」
シノブは自分の名前を呼ばれたことに、敏感に反応していた。
「私のことを知っているんですか?」
クドウアヤメは破壊力満点の、笑顔を見せつける。
「はい、覚えていますよ。隣でレッスンを受けたじゃないですか」
アイドル界は一瞬で消えていく女性が多い。名前を覚えるのは、至難の業といえる。アヤメの記憶力は、相当なレベルに達している。