277章 握手会終了
10時間に及ぶ、握手会が終了する。
10時間の握手会で、たくさんの手を握った。それぞれの掌の中には、それぞれの思いが込められているように感じられた。
「アカネさん、ありがとうございます」
些細なトラブルはあったものの、予定通りに仕事を進めることができた。多忙なスケジュールを強いられているので、そのことをありがたく思った。家でゆっくりとする時間を、一秒でも増やし
ていきたい。
「一部では不手際があったので、今後は気をつけたいと思います」
雁字搦めにすると、握手会の楽しさは激減する。純粋にものごとを楽しむためには、ある程度はルーズであることが求められる。遊びの幅を持たせることで、ものごとをスムーズに進められることも多い。
「ディーオさんは、完璧を求めすぎています。気楽にやるようにしたら、うまくいくのではないで
しょうか」
完璧を追い求めるタイプは、無自覚に人を追い詰めていく。言葉で表現するなら、「無自覚鬱
病仕掛人」、「無自覚鬱病生産人」、「無自覚社会破壊人」などがあてはまりそうだ。
「100パーセントの完璧は、基本的にありえないです。70パーセント、80パーセントくらいで十分です」
「アカネさんのアドバイスを、真摯に受け止めていきたいと思います」
ディーオに与えられる期間は、人間よりも格段に長いと思われる。自分を変えるきっかけを、どこかでつかめるのではなかろうか。
「アカネさん、今日はありがとうございました。次の機会があったときは、よろしくお願いします」
ディーオが手を差し出したので、ゆっくりと握った。彼女の手からは、誰よりも苦労しているのが伝わってきた。