08. 境界
行ってはいけない場所。
見てはいけないモノ。
聞いてはいけない事。
窓の外はいつもと変わらない光景。
変わったものなど何一つ無い。
この膨れ上がる苛立ち以外は。
握り締めた教科書には書いてない。
この感情が何なのか。
廊下で行き交う人にも分かりはしない。
この闇が何処から来るのか。
右手にした腕時計は私を繋ぎとめる鎖。
この苛立ちが
暴れ出さないように
大丈夫という言葉は私にかけた呪文。
この感情が
逃げ出さないように
瞳を閉じて、息を殺す。
見つめる先に広がる闇は甘美で魅惑的。
手を伸ばせばすぐに届きそうなほど。
チャイムが鳴った―
コンクリートの建物の中。
呼吸が少し乱れていた。