07. 携帯電話
利便性を追い求めて
見失ってしまうもの。
母は携帯電話が嫌いだった。
「かけたのに繋がらない。いつも電源切って」
携帯電話を持った父に嫌味そうにそう言っていた。
いつでも何処でも繋がるわけじゃない。
電波が悪ければ、電池が切れればただのガラクタ。
「お父さんと同じ事言うのね」
携帯電話を持った私に母は言った。
「だったら、携帯持ってみれば」
そう言った私に母は言い切る。
「いやよ」
そして「妹達は一度もそう言うことないわよ」と続けた。
ため息をつきたくなるのを堪え、母の小言に付き合う。
電波が届かないなんて母にとっては言い訳でしかない。
携帯電話を使わない母には分からない話だ。
だから、携帯電話を持つのはいやだった。
父が買ってくれるというから持ってみたが
買ったその日に妹に泣かれた。
妹の方が携帯電話を持ちたがっていたのだ。
それを忘れてつい嬉しそうに妹に自慢してしまった。
母にも軽くたしなめられた。
そして私の携帯電話は殆ど使われない。
目覚ましとして使う程度だ。
連絡をとる為の機器ではい。
メールも電話も必要ない。
それでも待つ私が滑稽だった。
握り締めた携帯電話からは冷たい温もりしか感じない。