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魔王様とお茶会!

翌日、少し遅めの出勤をしようとしたルクセルに招待状が届いた。
王女が開くお茶会らしい。
新《あらた》に相談してみようと思ったが、日付が今日の3時では仕事中の新《あらた》に相談する事になる。
そもそも人間のお茶会という物をルクセルは知らなかった。
「ん~~~~~」
分からないのなら、招待してきた本人に聞いてみよう。
そもそも自分は魔王なのだし、国家間の交流となるかもしれない。
とりあえず魔国に行ってある程度の仕事と指示出しをして、時間に間に合うようデンエン王城へ向かった。
門番が新に会いに来たのか勘違いしたが、招待状を見せると驚きながらも案内してくれた。

「まぁ!来て下さるなんて嬉しいわ!!お返事がないので間に合わなかったのかもと思っておりましたのよ」
王女は嬉しそうにルクセルを迎えた。
他にも招待されたのか、複数の女性がいた。
「このような招待状を貰う事は初めてでな。返事が必要なのか。今後は返事をする」
王女の嫌味に気が付かず、さらっと受け流す。
「我が魔国ではお茶会と言う文化すらないからな。何か持ってきた方が良い物やドレスコードとやらはあるのか?」
「まぁ、お茶会がないなんて寂しいですのね。私達貴族の娘や妻はお茶会で情報交換したり、雑談をして交流を深めるのも務めなんですの」
王女とは違う女がお茶会の説明をする。
「初めまして、ゴルデン魔王陛下。私はダルキアス・リリーと申します。夫は宰相様と一緒に事務をしていた事がありますのよ」
「ほぉ。そうか」
「お茶会の持ち物は特に義務はないのですが、何か皆さんと一緒に食べたいスィーツがお手軽です。ただ主催者の方が準備しているので特別な物でなければ不要ですわ。私はアーネイド・ビアと申します。初めましてゴルデン魔王陛下」
その後も自己紹介と説明が続く。


「ところでゴルデン魔王陛下、魔国では結婚された女性はお茶会を開かないのならどう一日を過ごされるのですか?」
「ん~結婚しても仕事を持っている者は辞める事はないし、子育てで一時的に休むことはあるが、何もしていない既婚者は見た事がないから分からんな」

「まぁ、だから魔王陛下は魔王のままなのですね。高橋も気が休まらないでしょうね」
「ん?」

「だって、妻が家に居ないなんて人間の貴族なら許されませんもの。既婚の女性はお茶会でお友達の家に行く以外ほとんど外出しませんの。お買い物も商会の店員が商品を持ってきますわ」

王女が当たり前のことのように言う。
しかしすべての貴族がそうしているわけではないだろう。
「何故外に出ないんだ?退屈にならないのか?」
「家に居てもやる事はいくらでもありますわ。刺繍をしたり、家に飾る花を持って来させたり、本を読んでいるうちに時間なんてすぐ過ぎて、夫が帰ってくるのを待つんですの」
「王女はまだ結婚していないのに、まるで結婚した事がある言い方だな」

「私、本当は高橋と結婚するはずでしたの。だから結婚したらどうするのかぐらい学んでいますわ」
「そうだったのか。ならば新《あらた》は私に感謝しておるだろうな」

「…え?」
ルクセルは既に冷め切ったお茶を一気に飲んだ。
「新《あらた》に結婚を申し付けた時、あやつは仕事を続けるのか聞いてきた。私が魔王だから、という訳ではなく、人間の貴族の様に家に居て無駄な時間を潰すの者は好まんという事だ。そもそも王女なんかと結婚したら気が休まらんだろう。いくら宰相とはいえ新《あらた》は節約主義で無駄を好まん。私の手作りの料理を喜んで食べるような男だ。自分に合わせれる女でなければ選ばん」

「魔王と結婚したのは戦争を終わらせるための自己犠牲ですわ!」
「そう新《あらた》が言うたのか?」
「…言ってないけど、高橋ならきっと」

「そうですね。私は魔王様に感謝しておりますよ?」
いきなり、お茶会の会場である中庭の東屋に高橋が現れた。
「仕事中ではないのか?」
「珍しく私の所に国王陛下が作らせたケーキが届きましてね。丁度こちらにルクセルがいると聞いたので呼びに来たんですよ」
「お主は甘い物が苦手だからなぁ。それなら私が頂くとしよう」
目の前にもケーキやらクッキーやら甘いお菓子が並んでいるが、ルクセルは一切手を付けなかった。
なのに高橋がケーキと言っただけで顔がほころぶ。

特に挨拶もなく去ろうと東屋を出た頃合いで、高橋が王女を睨みつけて言う。

「いくら私の妻とはいえ、ルクセルは今や魔王国2ヵ国の王なんですよ?外交官から事前に都合を確認させ、国王陛下か王妃陛下が招待するならまだしも、王女殿下が呼びつけて良い方ではありません。そういった礼儀もできず、ましてや確定していなかった私との婚姻の話しを持ち出すなど不敬罪で友好条約を破棄されても文句は言えません。もっとご自分の立場を理解して下さい。この国が滅べばあなたはもう王女でも何でもないただの人なんです」
「新《あらた》?」
東屋から近い、城内への扉でルクセルは待っていた。
高橋は震える王女に背を向け、ルクセルの元に行ってしまった。


「ゆ、ゆるさ…ない……」
目に大きな涙の粒を浮かべながら、王女は声を絞り出す。
「ん~家庭教師を間違えてしまったかなぁ」

のんびりとした声で国王が外に居た。
「こ、国王陛下にご挨拶申し上げます」
お茶会に参列していた女性達が全員立ち上がって淑女の礼をする。
「親の欲目というやつだね。わしはお前を多少我がままだが可愛いと思っていたんだが、国家を危機に陥れるような子では王族は務まらんのだよ。他国への嫁入りの話しがあったが断らなくてはいけないな。言って良い事と悪い事の区別もつかないんじゃ、誰かしっかりしてまじめな、お前を貰ってくれる様な心の広い人を探す必要があるな」
「そんな、お父様!!」
「王族や貴族は国家の為なら非情になる必要があるんだよ。最悪修道院に行ってもらう事になる。もっと自分の悪い所を見つめなさい」

はぁ~と大きなため息をついて、国王も去って行った。
貴族の取り巻きにも全部聞かれてしまった。
「…王女殿下、そろそろ私失礼させて頂きますね」
「私も、そろそろ帰宅しないとお約束がありますの」
私も、私も、と取り巻き達は早々に去って行った。
残された王女は、近衛兵が離れて見守る中、うなだれているしかなかった。




「甘すぎませんか?」
「ケーキはどれも甘いが、これはそれ以上に甘いがうまいぞ?」
幸せそうに頬張るルクセルに、紅茶を飲んでいた新《あらた》は微笑んだ後、表情を改めていつも通りの仕事の顔になった。
「我が国の王女が無礼なふるまいをし…」
ルクセルの手が、新《あらた》の前で広げられる。
「今はティタイムなのだろ?仕事は休み」
「しかし…」
「まぁ、次はないが別に構わん。そもそもお主が私の結婚の申し付けにあっさりうなづいた理由が分かっただけじゃしな」
「…王女の件がなくてもうなづきますけどね」
「終戦の為にな」
「それもありますが…まぁお判りでしょうから良いでしょう」
「うむ」
夫になれと言った時、新《あらた》の瞳に一切の怯えは無かった。
突拍子もない申し出にも関わらず、一瞬何か考えて前向きな返答をした。
それだけで十分だった。

魔王と言う立場であるから、その地位を持つ限り、打算で自分に近付く者は多かった。
そんなオスを多く見て来たからこそ、魔王に恐れを抱かず向かってきた人間に興味を持った。
それで十分だったのだが、どうもこのオス、主導権をしっかり握って離さない。それどころか魔王であるはずの自分を守ろうとまでする。
時には粛清を喰らわせる。
そんな生活に満足している魔王であった。

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