バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

7 回廊の秘密





 玉生の無暗やたらと何かを恐れないその性質は、やはり遺伝的なものだろうかと傍野は思う。
自分が相手に好かれるに値するかという悩みはあっても、基本的に物事を悪い様には受け取らない。
ただ見え透いた欺瞞に対してすらも、ある程度まではそれを苦も無く許容してしまえるのが考えものだと、友人たちには思われている様だ。
 だが、それゆえにあの存在とは相性が良いに違いない。

「玉生君なら大丈夫だよ。むしろ俺としては、好かれ過ぎるんじゃないかと――ん? 三見塚君はどこまで……」

 出掛けの時と違いあっという間に私道を抜け白い柵が見えてきたが、横からすいっとミニバンを追い抜いて左折した駆は、そのまま柵を回り込んで進んで行く。
そこは行き止まりだったと記憶している傍野はそれに首を傾げたが、車内の玉生たちは出掛ける前に新しく道が延びた疑惑を思い出した。
駆が疑惑を解明すべくその先へ進んで行くのに、目的地を前にして速度を落としているとはいえ、ミニバンはいつまでもそこに辿り着かない。

「傍野氏も進まないのか?」

 詠に声を掛けられ、試しに左折する方に意識を向けると、車は自然に柵に近付いていく。
これはそちらに進めという事かと、傍野はため息を吐いて駆の後を追った。
今まで突き当たりに見えていた、その曲がり角をさらに進んだ先は、玉生たちが屋上探検の途中で見掛けたラティスの向こう側に当たる場所だろう。
それ以外にはありえないだろう位置で、近くだと予想外に高さのある木の隙間から見えている家の二階、その外回廊や窓の位置からも推測できた。
緑の格子柄にしか見えないラティスの壁の向こうに温室の端も見える。

 そんな木の間にある道の正面には、大型車も余裕で収納できそうな独立したガレージが建っていた。
常夜灯らしき外灯が、夜の林間に佇む建物をくっきりと浮かび上がらせている。
駆たちの目線では、意識していなければ木の陰になって、ラティスの向こうからは丸太を積んだガレージに気付かなかったと考えられる位置だ。
後日また脇道が増えるのかもしれないが、今の時点では突き当りだと思われるそのガレージ前で、傍野は方向転換をしてから車を停車させた。
そこで翠星がドアを開いて「通り抜けできるのかな?」と呟いて降りるのに、「できたら便利だよねっ」と相槌を打つ玉生も釣られて後を追う。
傍野も運転席を離れ辺りを見回すのに、ここまで来たら到着したも同然と、寿尚と詠も続いて地に立つのだった。

「念のため聞きますが、ここは他人の物件という事はないんですか?」

 夜間に自動で点灯する照明は珍しくないとはいえ、ガレージの出入り口付近が明るく照らされていると、持ち主の存在を意識するものだ。
ちなみに玉生の家も敷地内がライトアップされている様で、ここからでも黄味掛かった柔らかい明かりが見える。
 そんな中、気の早い駆はシャッター前に愛車を置いてガレージの周りを見て回っているが、寿尚は万が一を考えて念を入れないと落ち着かない。

「埋め立てた土地は私有地って取り決めで、蔵地のこちら側一帯は完全に立ち入り禁止にしたそうだ。だからね、そういう心配はないよ」
「……宝さんがこの土地を埋め立てたという事ですか?」
「そう。蔵地の街が、後に許可を願って開発した方。倉持の方は地主さんで、玉生君にも結構な借地料が入るからね」
「なるほど。親族関係が保護を理由に、たまを搾取しようとする事を考えると、迂闊に接触できないわけですか」
「ああ。奴はとにかく年中あちこち飛び回っているし、ここの家にも必要最低限しか滞在できない事情がある。だからといって玉生君を連れて歩くのも無理があるしね」
「確かに。その事情では、保護者に向かない。甲斐性無しの認識を改める」

 宝の事が過去形ではなくむしろ現状報告になっていても、もはや誰もそこに触れない。
玉生は『叔父さん、生きてる、の、かな……?』と密かにドキドキしているが、口に出して逆言霊で糠喜びにでもなったら嫌なので黙っていた。
 そんな話の流れで、この辺りにあるのは玉生の家のオプションだと傍野に保証されたので、改めてガレージをじっくりと観察してみる。
すると正面の壁にある車両の出し入れをするシャッターとは別に、家に向いた側の壁にも扉があり、人用の玄関はこちらの方であるらしかった。
玄関の軒先に触れそうな位置には、そこからはじまり家の裏へと繋がるガーデンアーチがある。
所見では、中がトンネルになっているとは気付かず、家のすぐ近くまで緑が茂っているとしか思わなかったのだ。
そのガーデンアーチはラティスと同様に、黒い金属の骨組みに蔓草が絡まり本体が埋もれて目立たない。
そのせいで蜜柑を取りに近寄った時には、気付かなかったのかもしれない、と解釈できないではない。
あちら側はアーチのゲート側で、それが閉じられている状態ではおそらく緑の壁の一部に見えるのだろう。
そんなアーチを抜けて、ゲートを潜ったすぐその向こうが家の外階段である。
 こうして新たに発見する部分は、密かに死角を狙って築かれていると、もはや断言していいのかもしれない。
先にそうと仮定して注意していなければ、今回のこのガレージもそこにつながるガーデンアーチも、発見の遅れに違和感を持ったとしても気のせいと流してしまいそうな配置なのだ。


「俺がはじめて見た時は、もっとスッカスカで素っ気ない、ちょっと希臘の古代神殿の遺跡みたいな? 感じでね。それが白い柵のギリギリまで、こっちが圧迫される感じで建ってたんだよ」
「今の屋敷は、たまが生活するのを意識して、こうなっているって事ですか?」
「ん~、俺は今の家の中は知らないからねえ。でも一晩過ごすのに特に違和感を感じなかったなら、住みやすく改装して歓迎しているんじゃないかと思うよ」
「歓迎、されてるなら嬉しいです」

 そこにガレージを一周して戻ったらしい駆が、ガラガラとシャッターを上げる音がした。

「例の鍵で開いたみたいだな」

 目のいい翠星にはボンヤリとした外灯の光の中、離れた位置からでもシャッターの鍵穴にポケットから取り出した鍵を差し込むのが見えたらしい。
それから「自分の自転二輪もついでにそこに仕舞っとくっす」と、自転二輪車を開いたシャッターの中へと押して行った。
 そこで玉生が『今、聞いていいのかな?』という表情で、詠をチラチラ見ているのに気付いた寿尚がそれを指摘すると、本人ではなく見られていた方がフンとした様子で答えた。

「あの男なら根の部分が物騒だからな。その部分が鬼門だとしたら、それを抑えもしない相手など拒絶一択だろう」
「俺も物騒なのは拒絶理由になるとは言ったんだけどね」
「それで彼は、見切りは早いの? それとも粘る方?」
「今回は、引越しの許可が下りた時点で危険性は低いと承知している。入り口ですぐ見切っただろう」

 後続の四輪駆動が追い付いて来ないのに、そのまま気にしないでいいのかと外に向かう私道の方に目を凝らす玉生だが、その関係者である詠の方ははじめから彼がこちらに辿り着ける可能性は低いと達観していた様だ。
 そこへ興奮状態の駆とやれやれといった顔の翠星が戻って来た。
どうやらガレージの中が彼にとって「楽しい作業場」であったらしい。

「ヨーミンなら、重い本どっさり持ち込んでるんだろうけど、荷物はカートに載せてるんだろう? オレがちょっと行って来てやろうか?」

 話が聞こえていたらしい駆の好意に「よろしく」と返事が返ると、「うっし、じゃあ行って来るな」と彼はさっさと駆け出して行った。
その間に「ここを通れると話が早い」と、ウキウキとした翠星が縛った長髪をご機嫌な犬の尻尾の様に揺らしてガーデンアーチに向かう。
もとより絡まる植物で見事に緑のトンネルと化したゲートは、いかにも彼の趣味だったので、友人たちも彼に任せて見守る姿勢だ。
彼が屈まなくても通り抜けられる通路は高さがあり、積み上げた荷物でもここから持ち込めるだろう。
その上ゲートを開くと、自然に点灯する外灯の光で足元が照らされた。
ご丁寧な事にそれも埋め込み式なので、万が一にも通行の際に引っ掛かる事は無いだろう。

「通路もレンガでしっかり整備してあるし、車で大荷物がある時なんか表より便利でいいよな」

 通り抜けが可能かと調べるついでに、ガレージから続くレンガの道を踵で叩いて足元の具合を確認すると、誰に聞かせるでもなく独り言ちる。
そう離れているわけでもないので耳に届いたその独り言に、「田畑は降られても気にしないからピンとこないんだろうが、ガレージから雨に濡れずに家まで行けるのに注目するところだぞ」と書物を手にして歩く事も多い詠は呆れた様に突っ込む。
 そうやって確認を済ませた翠星が戻ると、通路に問題が無いなら今からわざわざ表に戻らなくてもいいだろうと、先ずは寿尚がキャリーカートを引き出して来た。

「俺が先に玄関開けておくからね。そっちのカートの荷は木箱だから、上に荷物載せて一緒に運ぶといいよ」

 件のちいたまの追っ掛けチャトが付いているとはいえ、やはり寿尚としては子猫の無事を確認するのが最優先なのは当然であるらしい。
肩に掛けた大きなドラムバッグの中も、間違いなく大部分が猫用の貢ぎ物だろう。
キャリーカートを引き早足で緑のトンネルを抜けた彼は、あっと言う間に裏玄関から突入して行ってしまった。

「スナ先輩、いつもはむしろ細かいところを気にして追求してくるのに。猫愛好家は下僕と紙一重ってコレか」
「猫のためなら適温のミルクが作れても、人間相手なら白湯を飲む方がましな茶になるという、別回路で動いている男だ」
「尚君の家では、先代から使用人の人が会社の商品開発も兼ねてて、奉仕される主人側の参考にするからって家事はしちゃダメなんだって。猫関係はお父さんが作った会社だから、例外だって言ってたよ」
「使用人は会社の方に使用感のレポート提出、モニターになるのも業務のうちらしいからな」

 カートの運搬力と「玉生の荷物を一つだけな」という詠の好意もあり、傍野と翠星がもう一度往復して、どうにか全部の荷物を家の中に運び込む事ができた。
アーチに対してそこそこ幅があるカートのサイズが心配されたが、通過が思いのほかスムーズに行えたのは「さっきより幅が拡がったけど、まあいいか」と今更なので、そういうものだと全員に流された。
 
 玄関前の階段部分では翠星が手を貸して持ち上げたカートを押して、そのまま彼に続いて扉を潜った傍野は、問題なく玉生の家に立ち入れた。
演劇の舞台セットの様な壁の無いダイニングルームには、「今回もまた奇妙な――いや、ガランとしたホールよりは進歩してるか」と以前と比べると、むしろ住居としての形ができている事に密かな感動を覚えるのだった。
見ると寿尚のキャリーカートが靴箱の前にある広いスペースに置かれ、ダイニングの段になった上がり框に運んだ荷物が積まれているので、カートもそこにまとめて置いた。

「あ、傍野さん。引っ越しのお手伝いありがとうございました」

 チャトとちいたまに餌を上げて来たらしく、通常の状態に戻った寿尚が傍野に礼を言いながら、ダイニングに出て来た。
そのタイミングで表の玄関からは扉を開閉して「ただいま~」と声を上げる駆が、廊下をガラガラとタイヤを転がし詠の荷物を運んで来る。

「ヨーミンの家の人はこっちに来れなかったみたいだな。標識の所にこれ置いてたけど、これで全部か一応確認はしてくれよ」

 誰かが気を利かせて移動させたのか、玄関ホールのシンク下のパイプ棚にあったと思しきサンダルが置かれていたので、詠はそれでフローリングの床から土間に下りて来た。
玉生一人位はすっぽりと収まるサイズの丈夫なキャリーワゴンに、軍用のコンテナがみっしり詰められている上に、ピザの箱が積まれている。

「多分これ、ほとんど本だろう? 部屋に運ぶの手伝うからコンテナ譲ってほしいんだが」
「万が一の夜露対策で気密性重視で選んだ物だ。労働の対価にくれてやろう」
「了解、了解。中の本をヨーミンの部屋の棚に移しとけばいいか?」
「そこは臨機応変に。それはともかく、このピザの箱はなんだ」

 詠の荷物の上に置かれたのは、確か美味いと評判のピザ屋の物だ。
あの男はジャンクフードを好まないので駆の持ち込みだろうが、それにしてはこれから夕食という時に焼き立ての匂いもしないピザとは、こいつにしては気が利かない、と詠が思ったのを読み取ったのか駆は指をチッチと振った。

「ほぼ解凍状態で店頭で売ってるやつな。この家のブラウニーは味の調整が判断できないという話だろう? まずは焼いてくれるかお試しがてら」
「……なるほど。一理ある」

 玉生の家の仮称ブラウニーに調理を期待する場合、味の加減はサンプルを持ち込んで分析させるという傍野のアドバイスを試してみようと、すぐ近所にあった店までひとっ走りしたらしい。

「何かほかのメニューも……っても、ご飯炊いてないからパンか麺。でも今日はうどんも食べてるし、麺じゃ被っちまうっすかね?」
「パスタなら目先が変わるだろ。こっちのピザとも相性いいし、ピザ不発なら近所の美味い食パン貰って来たからトーストにするという事で」
「じゃあ、ちょっと夕飯遅めになってるし手早く済むから、ナポリタンとペペロンチーノでいいっすか?」

 とりあえず邪魔にならない様に、ほかの荷物の所へ詠のキャリーワゴンも移動させ、ピザの箱を持ってフローリングに上がろうとした駆だったが「おっと、忘れてた」と自分の荷物からミニサイズのトランクを取り出した。
それを、お茶を入れて来た玉生に渡し、代わりにお茶のトレイをその手から取り上げる。

「これは提供するから、マオマオの好きに使っていいぞ。後、夕飯の準備はこっちに任せておいてくれ」

 そう言って傍野にカウンター席を勧めてお茶を出すと、ダイニングテーブルのみんなの席にも、勝手に飲めとばかりにお茶を置いて回る。
きょとんとした玉生は、とりあえずテーブルのお茶のカップを避けて、手渡された小さなトランクをそこに置いた。
それから慎重な手つきで、トランクを固定していた二本のベルト、次いで留め金を外す。
寿尚と詠がそれに気付いて、後ろから覗き込んでくるのに少し緊張しながら、玉生が蓋に手を掛けそっと開くと――


「こんにちは! あ、いえ、こんばんは?」
「は、はい。あの、こんばんは?」

 待ち兼ねた様に飛び出したデッサン人形が、両腕を開き気味にこちらに手のひらを向け、妙にスラリとした姿勢で挨拶をしてきた。
頭が真っ白になるほど驚いた玉生だが、人形のやや首を傾げた風情がコミカルなせいか、なんとか普通に挨拶を返せた。
そのコミカルな動きに不似合いな、感情の籠らない平坦な声だが、イントネーションは正確なのが不思議な響きになって聞こえる。
見た目は艶のある木の素材でできていて、関節部分の球体を上手く動かしその動作は実に滑らかだ。
ただ、それはつるんとしたのっぺらぼうである。


「ようこそ、倉持宝より私を引き継いだお方。私は主となるモノのため、ダンジョンという空間を整える核である、思考する疑似生命体、宝には『コア』と呼ばれたモノです」

 その人形は玉生に向かい、左手を腹部に右手を後ろに回すボウアンドスクレイプで礼をして、「どうぞよしなに」と恭順の意思を示した。



「いきなり箱から人形が飛び出すから、ミミがびっくり箱でも仕込んだのかと思ったよ」

 珍しく寿尚があっけに取られた顔をするのに、「これは、失礼を。つい気が逸って」と人形が九十度腰を折っての最敬礼をする。
詠の方は椅子に腰掛けると、何かを推し量る様にその眼鏡越しの半眼でテーブルの上の人形に観察する視線を向けた。

「え、と。コアさん? あの、ご丁寧な挨拶ありがとうございます。倉持玉生です。あっ、よろしくお願いします!」
「いえいえ。これからの長いお付き合いを円滑に進める、その第一歩でありますので」

 そんな感じでペコペコ頭を下げ合う一人と一体に、このままでは話が進まないと見た寿尚が「質問しても?」とさり気なく割って入る。

「貴方はわが主のご友人、日尾野寿尚ですね。その問いが回答可能であれば、『はい』」

 大男共の手のひら程の人形が、トランクの縁に腰掛けて足を組むと「では、質問を」と寿尚を促した。
妙に人間臭い仕草は、親近感を演出しているのかもしれない。
実際に、玉生は視線を人形の顔に合わせるために正面の自分の席に座って、少し頬を紅潮させてにこにこしている。
 
「俺が認識しているダンジョンとは、地下牢や地下迷宮などを表す言葉です。“ここ”は、それなのですか?」
「それは主次第の事ゆえに。そうとも言え、そうではないとも言え、としか申せません」
「空想小説では、モンスターと戦い宝箱を探す洞窟類をダンジョンと称するが……」

 商品の箱の裏の成分表示からレシピまで読む男は、娯楽小説を嗜んでいないわけがなかった。

「確かに、棚とか冷蔵庫とか開いてお宝いっぱい発見したのって、ダンジョンの宝箱っぽいよねっ」

 玉生の方も、孤児院の本棚ではむしろ娯楽本の方が大部分を占めていたので、ダンジョンという言葉には馴染みがあった。
昨日のプール脇の蜜柑や温室の果物を見付けた時もそうだが、そのたびにプレゼントを貰ったドキドキに加えて宝箱を開くワクワクも感じていたのだ。



 ダンジョンの宝箱。
その玉生の発言に、はっとした顔で椅子の背に体重を掛けていた詠が「それか?!」と前のめりになる。

「やたら敷地内に動線が通るのは――回廊だから……?」
「はい。基本的にダンジョンの構成は、通路と小部屋なので。しかし絶対に個室は必要だと宝に指摘を受け、二階の居住部分を追加したのです」

 そこへキッチンワゴンでパスタの大皿と取り皿を運んできた駆が、配膳しながら案外と真面目な顔で言った。

「もしかしたら寝床は全部、あのリビングと家具で仕切られた目隠しベッドみたいになるところだったとか?」
「いえ、壁にアルコーブベッドを予定しておりましたが?」
「アルコーブってアレだよな、壁のへこみ部分」
「ええ、続き部屋の手前左右二面と、奥の左右に突き当りを入れた三面の壁にアルコーブを作ろうと――ダンジョンでは群れるのが人の生態なのでは?」
「多分、個人スペースは広くてベッド自体も高品質になっていそうだし、正直言ってオレは面白そうだと思う。でもな、それは生態とは違う」
「しかし環境リセットされる以前、冒険者相手のモンスターダンジョンの頃は、通常の群れは連るんでおりましたのでその様なものなのかと」

 会話を続けながら配膳を続けていた駆は、カウンターに戻って用意していたスープやサラダをワゴンに載せて戻ると、それをさっと配りながら、「それで、ここにもモンスターは出たりするのか?」と尋ねる。
少なくとも危険な気配は感じないので、おそらくダンジョンという単語で想像する、攻撃的な生物が湧く様な事にはならないとは思うのだが念のために聞いておかないと落ち着かない。

 そこに両手にピザを持った翠星が、それをテーブルの空いた場所に置いてから、傍野にも手早く給仕を済ませる。

「ミミ先輩、冷めたパスタもピザも美味いもんじゃねっすよ」
「おっと、そうだな。せっかくの絶妙にほんのり焦げかけチーズが、固まったら台無しだ」


「慌てずともお待ちしますよ、どうぞ先にお食事を済ませるといい」

 人形が「これはお邪魔になりますかね」と頭部を上下に動かすと、トランクごと浮いてカウンターに移動するのに、はっとした玉生がピザを一切れ載せた小皿を手に追う。

「あの、コアさんもこれ、よかったらどうぞ」
「主から下賜いただけるモノが、よろしくないわけがありません。ありがたく頂戴します」

 その声に合わせて人形サイズのテーブルセットが、カウンターから生える様に現れる。
「わ」という形に口を開いた玉生は、それでも特に動揺するわけでもなく「では、こちらに」とテーブルにそっとピザの小皿を載せた。
自分の席からその長い腕を伸ばした駆は、玉生の分の取り皿やスープをヒョイヒョイと食べやすく並べ直しながら、ほかの友人たちと同様にカウンターに意識を向けている。

「……あー、まあ後でいいか。とりあえず、いただきます!」

 また脱線する前にとにかく夕飯だけは済ませようと、玉生が自分の席に戻って来たのを合図に有無を言わさず、駆のいただきますコールで食事がはじまったのだった。




しおり