k-29
翌朝。俺は、小屋の外から獣の気配を感じた。剣と弓を持って、外に出る。弓を構えながら小屋の周りを一周する。
すると、魔物ではなく『シカ』がアンクルスネアにかかり、身動きが取れなくなっていた。
俺は、早速捕らえた獲物を木に吊るして、血抜きの上解体。レバーは鮮度が命なので、すぐに食した。
うん、美味い。胡麻油と塩がほしいところである。朝飯は捕らえたばかりのシカ肉のステーキにした。
食べきれない肉は、干し肉にするために塩漬けにした。
――さて、朝食を終えたところで、今日も採集に出かけるとしよう。
今日も、森の方に行ってみようと思う。
ただし、この間のコボルトファイターのような強敵もいるので、油断せず、無理そうな敵がいたなら逃げる。
スライムなどの雑魚を狩りつつ、未鑑定の植物とハーブ類を中心に採集していく。
――ふと、石像のようなものが目に留まる。
よく見ると、それはゴブリンに良く似た石像だった。というよりも、ゴブリンが石化したものに違いなかった。嫌な汗が、額にジワリと浮かぶ。
――ギイエエエエエエ
甲高い絶叫。
明らかに魔物の鳴き声だった。俺は恐る恐る身を低くして、声の方に進む。すると。いた。変な化物が。
見た目は鶏。5メートルはあろうかという巨躯。尻尾が蛇。
まだこちらには気づいていないようだ。俺は木陰に身を隠し、そいつを鑑定してみたが、【モンスター】としか出ない。
しかし、俺はこの特徴的なモンスターを知っている。『コカトリス』だ。RPGなどでは定番のモンスターだ。
石化攻撃と毒のブレスを仕掛けてくる強力なモンスターだったはずだ。俺は木を背に、気を落ち着かせようと試みる。そして俺は……。
申し訳ないが、俺は逃げた。それはもう全力で。ショイコは木陰に置いてきた。涙と鼻水を垂らしながら逃げた。
そこのあなた。ちょっと剣をもって、あの化け物に挑むことができますか? 申し訳ございませんが、俺には無理です。
またもや俺は、猛ダッシュで小屋に逃げ込み、中から鍵をかけて布団にもぐりこんだのだった。
◇◇◇
涙と鼻水でグッチョグチョになりながら、ハーブ鶏を抱っこして、傷を負ったハートを癒していると、小屋のドアがコンコンとノックされた。
――留守にしております。
しかし、しつこくノックしてくる。誰だよ。煩いなあ。
俺は、仕方なくドアを開けると、サラサがいた。折れてしまった俺の心に、サラサの優しい声が響く。
気がつけば、俺はサラサに抱きついて泣いていた。サラサは最初驚いたようだが、黙って俺の頭を撫でてくれた。