k-26
19:30
夜の帳が降り、俺の腹もグーっとなる。
今夜は疲れた。俺は、シカの干し肉とイレーヌ薬草をかじりつつ、バルゴの果実酒を飲む。戦闘で疲れた体に染み渡る。
明日は、マルゴとサラサがやってくる。それまで、ポーションでも作りつつ過ごそう。
俺は飯を食いつつ、この世界で起きたサバイバルな日々を、紙に書いて残したいと思った。
生きた証。遺書のようなものである。こんなに頻繁にモンスターに襲われるとすれば、俺の命はそう長くはないように思われた。
連日の戦闘で、今、一番必要なものは、『安全』であると思い知った。
しかし、だからといって、他人と馴れ合うつもりは毛頭ない。煩わしいだけの関係など、最初からいらない。
安全よりも孤独を選ぶ。こんな自分は、きっと変なのだろう。
――否。孤独ではない。俺が欲しいのは、自由だ。
そして、夜は更けていった。
◇◇◇
6:00
翌朝、目が覚めた俺は、活動を開始する。
顔を洗い、体をタオルで拭く。鶏の世話をし、剣の素振りと弓の練習を行う。いつものローテーションだ。
7:00
朝食をとる。黒パン。野菜、ハーブ鶏の卵、干し肉をフライパンで調理したものを食べる。
8:30
ポーション作りを開始する。今日は、ベルジン魔力草と、ムレーヌ毒消草を混ぜて煮込んでみる。
そして、できた煮汁を鑑定してみると。
【パルナ解毒ポーション:中位の毒を解毒する。魔力回復(小)】
『個体名:奥田圭吾は錬金術Lv3を取得しました』
俺は、新たな解毒薬の開発に成功した。
錬金術のLvも鍛冶と同じように、何かに作用するのだろう。攻略本が欲しいところである。
その後、マルゴとサラサが、職人を引き連れてやって来た。鍛冶小屋と厩を作ってくれるらしい。
トンテンカン トンテンカン
平原に、釘を打つ音が響く。職人たちの手によって、鍛冶場と厩が併設されていく。
鍛冶小屋には炉や金床が設置され、火鋏、金槌、石炭などが運び込まれる。
厩には、水桶、飼料入れ、馬具などが置かれていった。
……鍛冶小屋と厩の完成には、二日を要した。
職人たちが作業をしている間、サラサから馬具の取り扱いや、乗馬の基本的な技術の手ほどきを受けた。
またマルゴからは、劣鉄のダガーを素材に、劣鉄の肩当てを作成する鍛冶技術を教わった。
俺は、サラサとマルゴから、ビジネスライクな付き合いだけではない、『ナニカ』を感じつつあった。
町に住むことを拒絶し、自分の殻に閉じこもる俺。マルゴとサラサは、そんな俺でも、優しくノックを続けてくれる。
――このとき、俺はまだ。この『ナニカ』の正体について、気がつくことはできないでいた。