第1話 もしかして......異世界?
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「はあ、本当に学校行きたくない……。」
朝から通学路をぼっちで歩いていた俺は、とことん沈鬱していた。
理由はズバリ、自分が学校でいじめられているからだ。
原因は俺が陰キャだからだと思うのだが、陰キャっぽく見えるというだけで、皆でいじめるのはおかしいと思う。
俺がぼっちで、陰険なイメージがあるから悪いのだろうか。コミュ力が劣っているからいけないのだろうか。それとも友達が居ないから皆でいじめの標的にするのだろうか。
あれは高校に入学して間も無い時のこと。
中学校でいじめられっ子だった俺は、高校こそは陰キャを卒業して陽キャになろうと意気込んでいた。
入学式を終えて、さあ人に話しかけてみようと思ったけど無理無理。緊張して口が動かないし、そもそも話しかけられない。
いや、まだ希望はある。誰かが「友達になろうぜ!」って話しかけてくれれば、「いいよー!ライんとかやってる?」と返して友達になる。よしこれで行ける!
だが現実は誰も自分の机に来ることはなく、
休み時間は終始読書をしていた。
クラスの人は、最初は皆同じように誰が誰に話しかけるんだという状況だった。
そこにいわゆる陽キャと思われる人が話を盛り上げて、殆どのクラスメイトがその人達に集まって行った。
俺もその集団にひっそり入ろうとしたけど、集団の凄い圧力が自分に向かって差し向けられているようで、畏怖してしまい、入ることに失敗した。
結局友達は一人も出来なかった。また、席に座ってぼっちで本を読んでいたので、陰キャだと思われたらしい。そこからは、ほんと悲惨だった。
最初のきっかけは体育の授業。2人組でペアをつくる機会があったのだが、案の定自分一人だけ余った。やむなく先生とペアを組むことになったのだが、それがきっかけでだんだんと孤立を深めるようになってきた。
やばい、死にたくなってきた。突然トラックに跳ねられて異世界とかに転生しないかな。
チート能力与えられて、無双したい。そんな中学生が思いそうな幻想を頭に浮かべながら、鬱々と歩いていくのだった。
校門に近づいて来ると、流石に人が増えてきた。殆どの生徒が複数で会話を弾ませながら歩いてくるのだが、自分は相変わらずぼっち登校である。
「あれ〜?陰キャ君は今日もぼっち登校かなぁ?誰かと一緒に来ないの?あ、お前に友達なんていなかったか。」
柄の悪そうで、如何にも陽キャっぽく揶揄《からか》うような大声が後ろから聞こえていた。
あの声は多分同じクラスの阿部田翔太とか言う奴か。いつも取り巻きと居て、学校生活を謳歌していそうな陽キャだ。
あいつらとは関わりたくない。俺は逃げるように歩幅を広め、スピードを上げた。
「おいおい逃げるなよ。俺達、友達だろ?」
陽キャは背後から肩を掴んできた。うっわぁマジでやめて欲しい。さっき友達居ないとか言って無かったっけ?
そもそも俺に友達居ないし、お前らなんて友達じゃねえよ。って、叫んでやりたい。
でも怖いから無理だわ。もうお家に帰りたくなってきた。誰か助けて。
「おい翔、そんな奴に構ってないでさっさと行こうぜ。」
他の取り巻きの一人もがそう言った。あいつは確か……新田だったっけ?学校一のイケメンだとか何だとか、聞いたことがある。
実際その通りのイケメンだ。ってか、陽キャって大体容姿が良いよね。俺だってイケメンだったら……いや、コミュ力無いから無理だ。
「そうだよ。早く行こ行こ。」
他の人も次々に口にする。1年A組の第一軍総勢5人は、俺を差し置いて、走って先に行ってしまった。足速いな。
はぁ、何とか乗り切ったか、と校門の目の前に辿り着いた時、最悪の敵がいた。
「あ、陰キャ君じゃーん。今日もクソキモイよね〜。分かるっしょ?」
かの敵の名前は、如月優奈。名前と行動が完全不一致な奴で、常に大量の女子や男子といる。やばすぎ。
「それなマジ受けるwww写真撮ってネットに上げよ!」
なんで校門の前で屯《たむろ》ってるんだよ。他の生徒にも、普通に迷惑。俺はその集団の間を過ぎ去ろうとしたが、手を掴まれた。
「ちょっとどこいくつもり?今日お金持って来るって言ったよね?」
手を掴まれたまま、俺は制止する。振り払って逃げようとすることも出来たけど、そうしたらその後が怖い。
「いいじゃん、許してあげなよ美幸。」
後ろから爽やかな感じの男が窘めた。
「え〜。光希がそう言うなら、仕方ないー。」
相手は手を離した。あの男も助けたつもりなのか、弄《もてあそ》んで嘲ているのか分からないが、話しかけないで欲しい。ほんと。
何とか人混みの突破に成功して、校舎に入って行ったが、下駄箱に大量の画鋲が敷き詰められていた。明らかにあからさまだけど、主犯以外の人もそれを黙認している。
「よく考えたら、なんで下駄箱に画鋲なんだ?普通、泥とか詰まってるんじゃ無いのかなぁ……。まあ、どっちも嫌だけど。」
肝心の上履きは無事だった。意味不明。
靴を履き替えて教室に入って自分の席に座り、文庫本を開いて読書した。
内心、誰も話しかけてくるなぁーと祈っていたが、その願いは早々に破壊された。
「ねえ陰キャ、何読んでるの?見せろよ。」
なんでぇ?暇なんですかね?いや俺の名前陰キャかよ。それに、読んでいる本のタイトル、というか表紙が見られたくない。
何故なら、異世界に転生して無双するといった風の題名だからだ。これ見られたら更に陰キャって思われるかも、と思い、慌てて本を閉じて机の中にしまった。
「なになに?エロ本でも隠してんのかよ?」
「別に、普通の本だけど。」
「ふーん。じゃあ見せてよ。」
「それは……えっと……」
俺が困惑していたその時、隣の席にから救いの声がかかった。
「止めてあげなよ。山崎くんが困っているでしょ。」
「別にいいだろ、俺達友達だし。」
「私からはそんな風に見えないのだけど?」
隣の少女は、凛々しく真剣な表情で注意をした。
「はいはい、悪かったです委員長。」
委員長の注意の後、陽キャ軍団は散って行った。
「全くもう……。山崎君はいい加減、クラスと馴染めるように友達の一人や二人は作った方がいいわよ。」
やや高圧的な口調でそう言われた。説教くさいんだけど、普通に優しくて助かるんだよな。感謝。
俺は軽く会釈をして、読書を続けた。
しばらくするとチャイムが鳴って、担任の先生が教室に入ってきた。
「ごめんなさい遅れました!朝のHR《ホームルーム》始めます!」
岸田先生が息を切らしながら言った。しかし、教室の中は話し声で騒がしい。そして一人の男子生徒が、
「岸ちゃん、遅くないですか?もしかして生理?」
陽キャ軍団の一人の渡辺がそう言った。うわこいつ、禁忌を犯しやがった。女性にそれ言っちゃいけないって、彼女いない歴=年齢の俺でも分かるわ。
「ち、違います!えーと級長さん、HRよろしくお願いしますね!」
まだ先生は1のAのクラスに慣れていないようだ。確かに、色々問題児が多すぎる。新任にとっては難易度が高いクラスだと俺も思う。
級長の村上(男)と委員長が立ち上がり、教卓の前に立って話をしようとする。先生も、それ用の机に座って提出物の確認をしようとした時だった。
突然、クラスの床が発光しだし、たちまち教室が眩しい光に包まれた。
「うわ、何だこれ!?」
クラスメイトも動揺して、中には悲鳴を上げる人もいた。床の光源は、まるでファンタジー世界に出てきそうな魔法陣の形をしている。
「これってもしかして……クラス転移パターン?」
俺は唐突に引き起こされた非常事態に、少し恐怖を覚えながらも高揚していた。変わり映えのなく憂鬱な毎日に、変革を求めていたからだと思う。
「ドアも開かない……何が起こってるの?」
「え?異世界転生的なあれじゃね?」
「皆さん落ち着いて!取り敢えず外に出ましょう!」
教室は喧騒に包まれる。幾人かの生徒が脱出を試みているが、ドアが開かないらしい。俺は立ち上がった状態で、おどけたような感じを漂わせている。
そして段々と光の眩しさが強くなっていく。そして遂に、視野が真っ白になって、何も見えなくなっていった。