11章 厳しい競争社会
店内には雑誌、漫画、新聞などが未設置。暇をつぶすのは、難しい状況となっている。
「暇をつぶすものはありませんか?」
ミサキがそのようにいうと、シノブはチャンネルを手に取った。
「テレビをつけますか?」
テレビをつけた瞬間、18禁レベルの内容が流れる。あれを見てしまったら、食事に対する意欲をそがれることになる。
「いえ、結構です。心遣い、ありがとうございます」
厨房に足を進めようとしている女性に、率直な疑問をぶつける。
「テレビに美女ばかりが、うつるのはどうしてですか?」
「美しい女性を起用すると、視聴率が取れるからです」
ここまではっきりといわれると、嫌みを一ミリも感じなかった。
シノブは瞬きをする。
「一つのテレビ局が、美女ばかりを起用したところ、視聴率は30パーセントあがりました。そのこともあって、他局も美女優先を取り入れました」
視聴率を取るためには、手段を選ばない。テレビ業界のどす黒い部分が、はっきりと伝わってくる。
「脳を刺激する番組が、多いのはどうしてですか?」
美女を映すだけなら、ビキニ、温泉シーンは必要ない。バレーボールなどを、流しておけば十
分である。
「過激な演出をすることによって、写真集を買ってもらうためです。写真集の売り上げは、彼女
たちに還元されます」
男の本能をくすぐることで、写真集を買わせる。写真集を売る側としては、まっとうな作戦である。
シノブはアイドルの、厳しい現実を話した。
「過激な演出をしたとしても、写真集を売れる女性はごくごく一部です。98パーセント以上は、
日の目を見ることなく、消えていくといわれています」
今日映っていた女性が、明日にはいなくなっている。アイドル業界は、サバイバルの様相を呈している。
「トップアイドルになれたとしても、新しいライバルは次々と登場します。その中において、上位を維持する必要があります」
写真集を売るために、トップクラスを守り続けていく。美女たちにプレッシャーは、かなりのレベルに達していると思われる。
「トップクラスを維持していても、年齢に勝つことはできません。22歳くらいになると、自動的に引退になります」
人間は老いには勝てない。美女であったとしても、例外はないのである。
シノブは別の視点から話をする。
「出演者たちは気づいていないみたいですけど、写真集を売れる女性は、透き通った声をしている女性が多いです」
「声?」
「はい。癒せる声を発することで、写真集の売り上げにつながります」
写真集を売るためには、美人+αの部分が重要となる。美女というだけでは、売り上げにつなげられない。
「テレビに映っている人たちは、容姿、スタイルが同じくらいです。稀にすごい人もいますけど、特化している人は、10000人に1人くらいですね」
テレビをはっきりとは見ていなかったものの、容姿の似たような美女が出演していた。見た目でライバルに差をつけるのは、ハードルが高い。
「声だけでなく、性格もチェックされています。男のストライクゾーンであることが、写真集の売り上げにつながっていきます」
見た目は変わっても、声、性格を変えるのは難しい。本人のどうしようもない部分で、勝敗が決しているだとすれば、あまりにも悲しすぎる。
「最終的には、運で売り上げが決まります」
シノブはそのようにいうと、キッチンへと向かっていった。