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魔法使いと、死人大魔術師(エルダーリッチ)

「そそそそのアンデッドは呪わない、みみみたいな!?」

 ブロンディさんの背後に隠れてガタガタ震えているクローコさん。
 応接室の中で、お茶をすすっている骸骨さん~なんでも、死人大魔術師(エルダーリッチ)って言うそうなんだけど、

「はいはい、そんな時代遅れなことはいたしませんよぉ」

 そう言って、顎の骨をカタカタ言わせながら笑っているんですけど、その「カタカタ」音を聞いただけでクローコさんってば

「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」

 って、またもや震え上がってしまっちゃって……
 ただ、その度に自分に抱きついてもらえるもんだから、ブロンディさんは

「はっはっは、クローコさん、この私がお守りいたしますからご安心を~♪」

 って、終始ご満悦な様子で歌い続けているんですよね。
 その光景に、苦笑する僕だったんだけど……

「えっと……、死人大魔術師(エルダーリッチ)の……ドリンドリンドルンさんでしたっけ? そんな肩がコンビニおもてなしになんの御用でしょうか?」
「あぁ、サラさんにお話を聞いてやってきたのでございますよ。私が管理している魔導船の仕組みを知りたいという魔法使いのお方がおられるとお聞きしまして」
「あぁ、サラさんの!?」

 僕が手をポンと打つのと同時に、僕の横にスアが転移魔法で姿を現しました。
 その場で『それ、私! 私!』とばかりに、飛びはねながら右手を挙げるスア。

「あぁ、お嬢様でいらっしゃいましたか……って、あれ? あなたひょっとして、ステルアム様ではございませんか?」
「……そう、だけど……」
「あぁ、やはり!」

 そう言うと、ドリンドリンドルンさんは嬉しそうにカタカタと顎の骨を鳴らしながら立ち上がりました。

「これはこれはお懐かしい! ほら、私ですよ!死霊系魔法のエキスパートとして勇者マックス様に一時期雇用されておりました……ほら!」

 そう言って、自分に魔法をかけるドリンドリンドルン。
 すると、その骸骨の顔に人の顔が浮かんできました。
 それを見たスア、

「……あぁ!」

 ポンと手を打ちながら、大きく頷いていました。

「そうそう! あの頃はまだ私も肉体が残っておりましたからねぇ。今の私は、ほら、ご覧のとおり肉体は全て消滅いたしまして……そりゃあ、あれからすでにさんびゃもがががが……」
「……違う……そんなに経ってない……経ってないんだから」

 スアってば、大慌てしながらドリンドリンドルンさんの背後からその口を押さえています。
 骸骨だけに、上下から頭部を押さえつけているスア。

 ……しかし……気のせいでしょうか……今、ドリンドリンドルンさんって『あれから300年』って言いかけたような気が……

「……気のせい! 気のせいだから! スア、若いから! ピチピチだから!」

 今度は僕の眼前にやってきて必死に力説するスア。
 時折腰をくねらせて悩殺ポーズをするんですけど……えっと、スアさん、前から言ってますけど、そのポーズは効き目がありませんから……あなたの体型では……

 僕の思考を呼んだのか、頬をぷぅっと膨らませるスア。
 その仕草がまた可愛いんだけど……とにかく、僕はスアをなだめすかして機嫌を直してもらいました。

 で

「……これが、私の魔導船」
「はいはい、これが私の魔導船でございますよ」

 スアとドリンドリンドルンさんは、お互いに右手を一振りしました。
 すると、

 ドリンドリンドルンさんの眼前に、スアが作成している魔導船が、
 スアの眼前に、ドリンドリンドルンさんが作成している魔導船が、

 それぞれ縮小サイズの3D画像みたいな感じで浮かびあがってきました。

「……そっか、ここはこうして……」
「ほうほう、ここにこのような細工を……」

 二人は、互いの3D画像を興味深そうに見つめはじめました。
 その画像に夢中になっているらしく、二人はそのままその場からピクリとも動こうとしていません。

 手を動かして画像を回転させたり、時に拡大したり、さらに画像の一角を引っ張り出したかと思うと、その内部構造を確認したり、と……互いに互いの魔導船の仕組みを興味深そうに確認しているみたいです。

 結局2人は、そのまま3時間近く魔導船の3D画像に夢中になっていました。

◇◇

「いやぁ、有意義な時間を過ごせましたことを御礼もうしあげます」

 骸骨の顎をカタカタ言わせるドリンドリンドルンさん。

「……私も……今日はわざわざありがと」

 スアも、そう言うとぺこりと頭をさげました。

 同じ世界に存在しているんだし、ドリンドリンドルンさんもスアもお互いの存在に気がつかなかったのかな、って思ったりしたんだけど、

「私達レベルの魔法使いはですね存在自体がとんでもありませんので、自分の周囲に魔法障壁を展開して、魔力が外部から察知されないようにしているのでありますよ」

 ドリンドリンドルンさんは、そう言って再び顎をカタカタ言わせていました。
 スアも頷いていますので、同じことをしているみたいですね。

「では、今日はこれで。お茶会を開催されるようでしたら、ぜひお誘いくださいませ、今度は妻も連れてまいりますゆえ」
「……ん、わかった」

 魔法使いのお茶会っていうのは、魔法使い同士の情報交換会らしいんです。
 気心の知れた魔法使い達が定期的に集まって、自分達の魔法研究の成果・情報を交換しあう場なんだそうです。

 もっとも、上級魔法使いのお茶会倶楽部みたいに、自分達の既得権益をまもるために一致団結して、他の魔法使い達を蹴落とすための場として利用している魔法使い達もいるわけで……魔法使いの世界もいろいろめんどくさいみたいなんですよね。

「……そう、それがめんどくさくて……私のお茶会のメンバーは増やさない、の」

 そう言って頷くスア。

「確か、トツノコンベのバテアさんだったっけ……あとは、ドラゴンの魔法使いのドラコさんと……」
「……そう、みんな大切な仲間……」

 僕が指を折っていると、スアはにっこり微笑みました。
 滅多に感情を顔に出さないスアですけど、この表情で微笑む時のスアは心の底から嬉しい時なんですよね。
 それだけ、自分が主催しているお茶会に参加しているメンバーのことを大切に思い、信頼しているんでしょう。

「……じゃあ、明日から魔導船をバージョンアップする、の……新しく造船することも考える」

 スアは、そう言うと何事か考えながらブツブツ言い始めました。 
 興味が魔導船に移ったみたいですね。
 こうなると、しばらく何を言っても聞こえなくなってしまうんです。

 しかし……これでおもてなしの魔導船がより強力になるのは間違いありません。
 これで、都市を行き交う人達がさらに増加したら、都市もさらに賑わって、ついでにコンビニおもてなしにもお客さんがさらに来てくれたら……そんな事を考えていた僕だったのですが、今日のところはとりあえず、スアを新巨木の家のリビングの席に座らせて夕飯の準備をはじめました。

◇◇

 その夜……

「……本当に駄目? このポーズ」

 3階にあるスアの研究室。
 その奥にある仮眠室……と、言う名の、僕とスアが子供達に隠れて……その、子作りを頑張る部屋といいますか……その中で、スアはくねくねと体をくねらせていました。

 ……どうやら、ドリンドリンドルンさんと話をしている際に、スアの悩殺ポーズはスアの体型じゃあ効果がないと言ったことを気にしているようですね……

 ……とはいえ……スアの超幼児体型で悩殺ポーズをされましてもねぇ


「……だから、効くわけないだろう……僕以外には……」

 ……えぇそうですとも……スアの悩殺ポーズですけど……僕にだけはすっごく効果があると言いますか……僕以外にも効果があったらむしろ問題があるといいますか……

「……よかった」

 スアは、悩殺ポーズのせいで元気になった僕の下半身のある一部分を見つめながら安堵のため息を漏らしていたのですが、ゆっくりと僕に寄り添ってくると……おっと、ここからは黙秘させていただきますね。

 ただ、今夜のスアもとっても可愛かったとだけ……って、あれ? おかしいな……これじゃあ、僕ってばロリコ……いやいやいや、そ、そんなはずは……

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