お酒は大人に…… その1
無事に春の花祭りを終えた辺境都市ガタコンベ。
領主代行を努めている僕も胸をなで下ろしました。
確かに、段取りや折衝に加えて司会進行まで、そのほとんどの業務を商店街組合の蟻人さん達にお任せしちゃっているわけですけど、だからこそ余計に緊張していた部分があったといいますか……
昨夜は関係者を集めてお疲れ様会が開催されたのですが、
「みんな、本当にお世話になりました」
って、参加していた蟻人のみんなにしっかりとお酒をつがせてもらいました。
このお疲れ様会のお酒はすべてコンビニおもてなしが提供させてもらいました。
食べ物も半分くらいは僕がコンビニおもてなし本店の厨房で作って持参したものです。
お疲れ様会の酒と料理は持ち寄りが基本なんですけど、みんなのおかげで大成功だったわけですからね、これくらいさせてもらわないとバチがあたりますよ、ホント。
ちなみに、このお疲れ様会は、片付けが行われている中央広場のステージ前を利用して行われました。
「まさか、ブラコンベで開催された際よりも来場者数が多くなるなんて」
「夢にも思っていなかったですです」
蟻人さん達は、頬をほんのり赤く染めながら嬉しそうに話をしていました。
いつもはこういった飲み会に参加しても、義理を果たしたと判断したら、
「では、私はこれで失礼しますます」
とか言いながら帰っていく姿しかみたことがなかっただけに、なんか新鮮な感じですね。
でも、今のガタコンベ商店街組合で働いている蟻人さん達は、僕がこの世界にやって来た時にいた皆さんとは違うんです。
お金の取り扱いや事務仕事を得意としている蟻人さん達は、各地の辺境都市の商店街組合で働いていることが多いです。
ですが、やはり同じ人達が長年同じ職場で働いていると、どこかで気が緩んだり魔が差したりしかねないとの理由から、各地の商店街組合同士が連携して短期間に人事異動を行っているそうなんです。
蟻人さん達は見た目がみんなほとんど同じなもんですから、一目見ただけでは気がつかないのですが……まぁ、そんなわけで、辺境都市ガタコンベの商店街組合で働いている蟻人さん達は、僕がコンビニおもてなし本店を開店した際に働いていたメンバーとは総入れ替えになっているわけなんです。
自分達で自分達のことを律しているからこそ、各地の辺境都市で信頼されて、商店街のお金を扱う業務を任されているわけなんです、はい。
そんな蟻人さん達が嬉しそうにしているわけです。
僕だけでなく、参加していたみなさんも、
「ほう、商店街組合の蟻人達までこんなに喜んでいるってことは」
「そこまですごかったんだな、今回の花祭りは」
そんな言葉を交わしながら、嬉しそうにお酒を飲んでいたのも、まぁ当然ですよね。
そんなわけで、僕も領主代行として皆さんにお酌して回りながら、皆さんのお話に付き合わせてもらった次第です、はい。
ちなみに、ブラコンベ辺境都市連合主催で開催される次回のお祭りは、夏の星祭りでして主催はブラコンベの予定になっています。
◇◇
お疲れ様会が一段落したところで、コンビニおもてなしのみんなを集めて、僕は二次会へと向かいました。
まぁ、会場が本店の隣にあるおもてなし酒場なんですけどね。
「みんな、本当にお世話になりました」
街道を進みながら、僕はみんなに笑顔でお礼を言いました。
ちなみに、僕の後をついてきてくれているのは、
パラナミオ
リョータ
アルト
ムツキ
アルカちゃん
といった、我が家の子供達に加えて、
5号店東店のシャルンエッセンス
7号店のブロンディさんとクローコさん
以上の3名です。
これに、本店であれこれ業務にあたってくれていた
本店勤務の魔王ビナスさん
店舗検討部門のブリリアンとメイデン
狩猟部門のイエロ・セーテン・グリアーナ
こういったメンバーが加わる予定になっています。
「パパと一緒にこういった会に参加するのって、すごく楽しいです」
僕と手をつないで歩いているパラナミオが嬉しそうな笑顔を浮かべていました。
その横には、青犬狼のウルが寄り添うようにして歩いています。
先日の事件以降、我が家のペット的な存在になっているウル。
稀少な魔獣なので、スアの使い魔の森で保護しようとしたんですけど、
「きゅう~ん」
って鳴きながら、パラナミオの足にしがみついて離れようとしなかったんです。
どうやら、ウルってばパラナミオのことが大好きになったみたいです、はい。
確かに、はじめて出会った時から意気投合したらしく、一緒に楽しそうに遊んでいましたからね。
パラナミオと、ウルへ視線を向けた僕は、
「うん、パパもすごく嬉しいよ」
そう言って笑顔を浮かべていました。
◇◇
で、その足でおもてなし酒場へと移動していった僕なんですけど……
「ど、どうしたの、これ……」
店内に入った僕は思わず目を丸くしてしまいました。
酒場の中央には、空になったジョッキや酒瓶が山積みになっていまして、
「ははは、まだまだいけるでござるよ」
「なはは、こっちだって負けないさぁ」
なんか、そんな会話を交わしながら、イエロと、鬼人の女性が飲み比べを行っていたんです。
はじめて拝見する鬼人さんですが、パラナミオくらいの体格しかない小柄な方なのですが、女性ながら長身な僕と同じくらいの体格のイエロと互角に酒を飲み続けているんです。
鬼人種族の人達って、生まれつきお酒に強いらしいんですけど……イエロのうわばみぶりはちょっと規格外といいますか……
連日朝まで飲み明かしても、日中はケロッとしているくらいですからね。
「あらあらまぁまぁ、タクラ店長様申し訳ありません、お店の中央がすっかり盛り上がってしまっていますので、こっちに席を用意しておりますの」
コンビニおもてなし本店が休みだったこともありまして、夕方から酒場の業務を手伝ってくれていた魔王ビナスさんが僕達を酒場の奥の席へと案内してくれました。
「そういえばスアは? 先に帰ってきてるはずだけど」
「あぁ、スア様でしたら、今は使い魔の森に行かれていますわ」
「使い魔の森に?」
「えぇ、なんでも、タクラ酒を製造している酒造り工房を見学させてほしいって熱心に頼み込んでこられた鬼人さん……確か、シュテンさんと言われましたわね、その方を案内していかれましたわ」
スアの使い魔の森っていうのは、スアが異世界をあちこち転移している際に偶然発見した小さな異世界なんですよね。
スアによると、一度崩壊した後、ゆっくりと再生しながら広がっている最中の世界らしいんですけど、そこをスアが保護している稀少亜人種族や稀少魔獣達の生活の場として利用しているんです。
で、コンビニおもてなしで販売しているタクラ酒やスアビール、パラナミオサイダーといった商品はすべてここで製造されているんですよね。
このスアの使い魔の森で暮らしているみんなが、
「スア様の旦那様のためなら!」
って、すごく張り切って頑張ってくれている次第でして、今ではかなり大がかりな工房が出来上がっているんです。
「しかし、わざわざ酒造りの工房を見学にくるなんて……スアビールもそこまで有名になったのか」
僕が感慨深げにそう呟くと、
「いえ、そのシュテンさんは、どちらかというとタクラ酒の方により興味をお持ちのようでしたわ」
「え、まじで?」
魔王ビナスさんの言葉に、僕は思わず目を丸くしてしまいました。
いやぁ……スアビールと一緒に発売を開始したにもかかわらず、美味いのに何故か人気がいまいちだったタクラ酒……最近は、ドンタコスゥコ商会を通してたくさん購入してくれているリグドさんって酒場の店主さんもいますし、さらにタクラ酒の製造方法を見学したいって鬼人さんまでやってきたと聴くと、なんだか嬉しくなってしまいます。
ちなみに、イエロと飲み比べをしている小柄な鬼人の女性は、オミナさんといって、シュテンさんと一緒にやってきているんだそうです。
オミナさんとイエロの飲み比べを横目に、僕達は魔王ビナスさんに案内された席に座っていきました。
「じゃあ、みんな本当にお疲れさまでした。乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
僕の合図で、みんなもジョッキを掲げていきました。
子供達はみんなパラナミオサイダーです。
このサイダーも大人気商品ですからね。
みんなの笑顔を見回しながら、僕は
……さて、明日からは通常業務を頑張らないと
そんな事を考えていました。