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花祭り その後

 昨日で花祭りも無事に終了しました。

 朝を迎えた辺境都市ガタコンベの街には、チラホラと祭りの面影が残っています。
 とはいえ、今日から平日です。
 もう少ししたら、街道は通勤する人々が往来しはじめることと思います。

「おはようございます」

 街道を一瞥してから、僕はいつものようにコンビニおもてなし本店のレジ奥にある厨房へ移動していきました。
 そこには、夜明け直後だというのに、すでにみんなが集まっていました。

 スイーツを作成しているヤルメキスとケロリン。
 魔石コンロで大きな中華鍋をふるっている魔王ビナスさん。

 そんな面々が

「おはようございますわ」
「お、お、お、おはようでごじゃりまするぅ」
「お、お、お、おはようございますわぁ」

 僕に向かって一斉に挨拶を返してくれました。

 もうじきしたら、我が家のアルトとアルカちゃんが起きてきて、

 アルトは魔王ビナスさんに、アルカちゃんがヤルメキスに、それぞれ師事しながらコンビニおもてなしで販売する料理を調理していってくれるはずです。

「ビナスさん、昨日は酒場の方の面倒まで見て頂いたとのことで、本当にありがとうございます」
「いえいえ、楽しい方々がお見えになられておられましたので、旦那様や一緒に暮らしているみんなも呼んで楽しくすごさせていただいただけですので」

 そう言うと、キモノの袖を口にあてて上品に笑う魔王ビナスさん。
 こういう所作が本当に美しいんですよね、魔王ビナスさんって。

 で

 その所作をアルトがいい感じに真似しているもんですから、最近のアルトがとっても美人さんに見えているんですよ。料理だけでなくて、身のこなし方や着物姿での歩き方なんかまでしっかり教えてくださっている魔王ビナスさん。
 僕とスアも、子供達に躾とかはしているつもりなんですけど、こういうのって本当にありがたいです。

 我が家の子供達の中で一番魔力が強いムツキは、スアに師事して魔法の勉強をしながら魔法薬を精製していますし、パラナミオは僕と一緒にコンビニおもてなしで働きはじめています。

 いつの間にか、我が家の子供達はみんなどんどん成長していっているわけです。
 その事に思い当たった僕は、感無量な表情を浮かべていました。

「そういえば、おもてなし酒場にそんなに楽しいお客さんがお見えになってたんですか?」
「えぇ、なんでもタクラ酒を探しにこられたとかで……コンビニおもてなしのタクラ酒の在庫が祭りの影響で売り切れていたものですから、酒場を紹介させて頂きましたところ皆様大喜びなさいまして……途中からは、お客様の中の鬼人の女性、オミナ様と言われたのですが、その方がイエロさんと飲み比べをはじめてしまいまして……」
「うわぁ……イエロとかい?」

 イエロは、とんでもない大酒飲みです。
 元来鬼人の方々はお酒に強いらしいのですが、その中でもイエロは飛び抜けてお酒に強いらしく、飲み比べで負けたことはないんです。

「そのオミナさんって人……大丈夫だったのかい?」
「えぇ、朝方までお互いに一歩もひかないまま飲み比べを続けていたのですが、その頃にはもうすっかり意気投合なさっておられまして……つい先ほど、上機嫌なままお帰りになられたところですわ」

 そう言うと、魔王ビナスさんはにっこり笑顔を浮かべました。

「え?……ひょ、ひょっとしてビナスさん、今日は徹夜ですか?」
「いえ、先ほど10分ほど仮眠をとっておりますので、問題ございませんわ」

 そう言って、にっこり微笑む魔王ビナスさん。
 確か、魔王ビナスさんってば自分の周囲の時間を操作することが出来るそうでして、10分しか寝ていないように見えても、ご本人的には10時間寝ていた、なんてことが出来るそうなんです。

「それに、宿の方の片付けはイエロさんとセーテンさんがしてくださいましたので……そうそう、ルア様も飲み会に参加なさっておいでだったのですが、夜半すぎに旦那様のオデン6世様がお見えになられまして強制的に連れ帰られてしまいまして……」
「あぁ……独身時代のように朝まで飲み明かしは無理になってるのか……」

 そうなんですよね。
 ルアがオデン6世さんと結婚する前は、イエロとセーテンの3人で一緒に朝まで飲み明かしまくっていたんですよ。なんか、それも懐かしいなぁ……と思ってはいるものの、今はその飲み会にイエロの一番弟子の鬼人グリアーナや、新しく狩猟部門に加わっている鳥人族のコルミナ・豹人族のチハヤス・ゴーレム族のドナーラや、研修を受けている最中の面々も加わって、連日飲み会が開催されていますので、賑やかさでは今の方がすごかったりするんですけど、昔はまだ酒場もなくて、ビアガーデンよろしく河原で飲んでもらっていたのがなんか懐かしい感じです。

「そういえば、ステージの方もすごかったようですわね」
「あぁ、そうなんですよ。昨夜の打ち上げでも話題になっていたんですけどね……」

 花祭りの最終日に開催されたステージイベント。
 これがもうすごかったんです。

 優勝はある意味順当に、オザリーナ温泉郷で踊り子酒場を商っているシャラさん達だったんですけど、リョータ達が頑張った教会の学校の面々による合唱が2位に入ったんです。
 辺境都市ナカンコンベからも大挙して参加者があったなかでの2位ですからすごいと思うんです。

 ちなみに……

 子供達の歌声に合わせて、会場に居合わせた4人の吟遊詩人さんが熱唱していったのがすごく話題になったんです。
 コンビニおもてなし7号店で働いてくださっているブロンディさんは、元々王都でも有名な吟遊詩人さんでしたので当然と言えば当然なのですが……一緒になって歌っていた小柄で大きなリュックを背負った女性と、2人組の女性の吟遊詩人のコンビさんもすごく素敵な歌声を披露してくださったもんですから、

「あの方々はいったい……」
「こんな辺境でブロンディの歌が聴けるなんて」
「なんとも、素晴らしいハーモニーじゃ……」

 そんな感じで、観客の皆さんも感動しまくっておられた次第なんです。
 ただ、吟遊詩人の皆さんは、子供達の歌声を決して邪魔することなく、歌声を意図的に抑えてくださっていたそうでして、そのおかげで、子供達の歌がよりいっそう際だっていたんです。

「……しかし……クローコさんがブロンディさんとデートでやってきているとは思わなかったんですけどね」
「まぁ、あのお2人も仲がおよろしいですから」

 僕の言葉に、再びキモノ袖を手で覆いながら優雅に笑う魔王ビナスさん。

 クローコさんは
『ありえないし! こんなチャラいの、ありえないし!』
 って言い続けていますけど、なんのかんので一緒に出かけているみたいなんですよね。
 さてさて、この2人もどうなりますやら……

「それよりもタクラ店長様、そろそろ急いだ方が……」
「あ、あぁそうだね」

 こうして、昨日までの出来事を回想しながら思いをはせるのも楽しいのですが、すでに今日がはじまっているわけです。
 今、すべきことに全力で取り組まないといけません。

「さぁ、今日も頑張りますか」
「はい、そうですわね」

 魔王ビナスさんと頷きあった僕は、中華鍋を振るっていきました。

 お祭りも終了して、いつものコンビニおもてなしの営業が再開です、はい。

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