花祭り その3
辺境都市ガタコンベを会場にして開催されている春の花祭りですが、順調に日程をこなしています。
例年だと、平日はややお客さんが控えめで週末のイベントに向かって徐々に増えていく感じだったのですけど、今年は初日からクライマックス状態といいますか、連日すごい数のお客さんがやってきているのです。
一番の原因は、やっぱり定期魔道船が就航していることでしょうね。
この定期魔道船が近隣の辺境都市を毎日6回回っているわけです。
その中には、この一帯で一番人口が多い辺境都市ナカンコンベも含まれているのですけど、このナカンコンベからやってくるお客さんの数が半端ないのです。
定期魔道船のチケットは予約販売分が8割と、当日販売分が2割の割合で販売されているのですけど、花祭り期間の予約販売分はすでに完売。当日販売分も連日、販売開始から5分も経たずに完売している状態なのです。
ちなみに、ブラコンベ辺境都市連合に加盟している都市間は、定期駅馬車も運行されています。
定期魔道船が就航して以降は、かなりお客さんが減っていたのですが……このお祭り期間は大賑わいしているんです。
花祭りは、宿屋に泊まって数日間満喫しようってお客さんが多いんです。
ですが、ガタコンベで営業している宿屋だけでは数が知れています。
そのため、近隣にある辺境都市、ブラコンベとララコンベに宿泊して、そこから祭り会場であるガタコンベへとやってくるお客さんも少なくありません。
そんなお客さんの足になっているのが、この定期駅馬車なわけです、はい。
特に、温泉があるララコンベの人気がすごくてですね、ここの温泉宿も花祭り期間中はすでに満員御礼状態なんだとか。そのおかげで、ララコンベの山1つ隣にあるオザリーナ温泉郷にまでお客さんが殺到していまして、ちょっとしたフィーバー状態になっているんです。
「この花祭りにはじめて出店を出した時は、もっとこう……田舎の神社のお祭りみたいな感じだったのが、なんか一気に都会の花火祭り並の人で賑わいはじめたって感じかな」
タテガミライオンのお肉の串焼きを炭火コンロで焼いている僕は、思わずそんなことを口にしていました。
コンビニおもてなしの屋台には、今朝も多くのお客さんが来店くださっています。
人気なのは、やはり食べ物系ですね。
僕が今焼いているタテガミライオンの串焼きは連日すごい数売れていますし、弁当やパン、サンドイッチも大人気です。
スアの薬にもすごい人気になっているのですが、
「この魔法薬を仕入れさせてもらいたいのだが……」
っていう、商会や商店の方からの申し出も少なくありません。
ただ、今のコンビニおもてなしの魔法薬の多くはドンタコスゥコ商会に卸売りしているんです。
自由競争……って考え方も確かにあるんですけど……ドンタコスゥコとは、この世界にやって来て以来一番長く付き合いがありますしね。
「卸売りに関しては、おもてなし商会の方で行っていますので、そちらでお話をお伺いしますね」
そう言って、辺境都市ナカンコンベにありますおもてなし商会ナカンコンベ店のファラさんを紹介させてもらう形をとらせてもらっている次第です。
事前にファラさんとも相談して
『ドンタコスゥコ商会への卸売りを第一にして、残った魔法薬を卸売りする』
って方針になっていますので、後はファラさんが上手く話をまとめてくれるはずです。
あと、子供達や女性の方々に人気なのが、ヤルメキススイーツですね。
元々コンビニおもてなしの中でも大人気になっているヤルメキススイーツですが、今回のお祭にあわせて新商品をいくつか投入しています。
・柏餅
・ちまき
・草餅
ヤルメキスの親友の、ケロリンが得意にしている和系のスイーツです。
言わずとしれた、僕の世界のこどもの日のメニューなわけですけど、こちらの世界にはそんな風習はありません。ですので、純粋に新作スイーツとして販売している次第です。
ちなみに、ちまきには中華ちまきも準備してあります。
これは、ヤルメキスの元で修行しているアルカちゃんが頑張ってくれているんです。
そして、もう1品。
ロールケーキの上にカットした果物や生クリームをデコレーションして、鯉のぼり風にアレンジしていた「鯉のぼりロール」
これは、オトの街で食堂を開いているラミアのラテスさんが担当してくれています。
ラテスさんが、友人のヨーコさんと共同で作成しているテマリコッタロールですが、コンビニおもてなしでも大人気商品になっているんです。
ロールケーキそのものはヤルメキスも作っていたんですけど、ラテスさんとヨーコさんが作成しているロールケーキは、フルーツ・抹茶風・竹炭・チョコ・蜂蜜かけといった感じで、バリエーションがとにかく豊富なんですよね。
ヤルメキスも、それを研究してあれこれ新商品開発に活かしてくれていますし、いい意味での相乗効果が出来上がっている感じです。
んで、そのラテスさんとヨーコさんが作成してくれている鯉のぼりロールも、よく売れています。
見た目の奇抜さに負けず劣らず、デコレーションで使用されている果物が美味しいものですから、
「このロールケーキ美味しい!」
「見た目もなんか面白い!」
と、子供達を中心に大人気なんです。
ちなみに、このロールケーキで使用されているフルーツの多くがテトテ集落で営業している果樹園で収穫された物なんです。
なので、鯉のぼりロールの宣伝用に作成したポスターには、
『この鯉のぼりロールには、テトテ集落で収穫された果物が使用されています』
って、紹介文と一緒に、
『テトテ集落の果樹園では果物狩りも行っています』
との一文を添えているのですが……その影響でしょうか、定期魔道船を使ってテトテ集落を訪れるお客さんもすごく増えているそうなんです。
テトテ集落の代表のネンドロさんが
「果樹園を経営しはじめて過去最高のお客様が連日押し寄せてきておりますにゃあ。みんな大喜びしておりますにゃあ。これも、タクラ店長様が紹介してくださっているおかげですにゃあ」
と、わざわざお礼を言いに来てくださったほどなんです。
「いえいえ、これもネンドロさんをはじめとしたテトテ集落の皆さんが頑張ってこられた成果ですよ」
僕は、笑顔でネンドロさんにお応えしました。
僕がはじめてテトテ集落を訪れた時は、僕が元いた世界で言うところの限界集落状態だったんです。
それが今では、果樹園が順調に営業され、魔法使い集落から多くの魔法使いさんが嫁入りし、と、このままいくとそのうち辺境小都市に昇格出来るんじゃないかな、ってくらいの賑わいを見せているんですよね。
そんなネンドロさんと一緒に、僕はタテガミライオンの串焼きを食べながら小休憩していました。
……すると
「ターちゃん、今日も来たニャ!」
そう言って、笑顔で屋台に駆け込んで来たのは、今回のお祭がはじまってから毎日のように屋台に来てくれているおチビちゃん4人組でした。
僕の事を、ターちゃんと呼んでいるこの女の子は、ベルって言ったかな。
この子を中心に、みんな笑顔でやってきます。
みんなの目当ては、タテガミライオンの串焼きです。
「さーちゃんが作ってくれる串焼きも美味しいけど、ここの串焼きも美味しいニャ」
笑顔でそう言ってくれるベルちゃん。
「そう言ってもらえると嬉しいな。じゃあ今日は1本ずつおまけしてあげよう」
「ニャ! 嬉しいニャ!」
「ベル、私も嬉しいわ」
「シロも!」
「妾も嬉しいのじゃ!」
4人は飛び上がらんばかりに大喜びしてくれています。
そんな姿を見ていると、なんだかこっちまで嬉しくなってきてしまいます。
その後、タテガミライオンの串焼きを手にした4人は、パラナミオと楽しそうにお話していました。
年齢的にちかいのもあってかパラナミオとベルちゃん達。
嬉しそうに話をしている5人の姿を見ていると、ホント、こっちまでほっこりしてしまいます。
さぁ、充電出来たところで、今日の残り時間も目一杯頑張らないといけませんね。