花祭り その2
ポン
ポンポン
辺境都市ガタコンベの空に、花火があがっています。
花火といっても、朝ですので煙と音しかしないやつです。
これ、春の花祭りの開始を告げる花火です。
いよいよ、花祭りがはじまりました。
夏の星祭り
秋の収穫祭
この2つと並ぶ三大お祭りの1つです。
まぁ、三大とか言ってますけど、ブラコンベ辺境都市連合だけの行事なんですけどね。
会場である辺境都市ガタコンベには、コンビニおもてなし本店があります。
んで、ガタコンベの商店街組合に加盟しているみなさんも、会場になっている中央広場付近に屋台を出店しています。
当然、コンビニおもてなしも屋台を出しています。
屋台の担当は、僕とパラナミオ、それにスアが受け持つことになっています。
スアは超絶人見知りのため、僕の後方に置いてある木箱の中に隠れていてですね、スライムのようなアナザーボディを4体駆使してお手伝いしてくれます。
あと、せっかくのお祭ですので、各地にありますコンビニおもてなしの各支店から日替わりで助っ人に来てもらうことにしています。
初日の今日は、辺境都市ブラコンベにありますコンビニおもてなし2号店から、元シャルンエッセンスのメイド2人がやって来ています。
黒を基調にしたメイド服の上に、コンビニおもてなしの制服を着ている2人。
元々コンビニおもてなしには上着しか制服がありませんでしたので、普通と言えば普通なのですが……なんでしょう、秋葉原かどこかのメイド喫茶のような感じがしないでもないといいますか……
「「タクラ店長様、今日はよろしくお願いいたしますの!」」
双子の二人はぴったりと息のあった感じで僕に挨拶をしてくれました。
「こちらこそ、今日はよろしくね」
僕も、そんな2人に笑顔で返事を返しました。
僕は、屋台の中央で焼き物を調理することにしているのですが、設置してある魔石コンロの上では串焼きがならんでいまして、良い匂いをさせています。
コンビニおもてなしが誇る食材「タテガミライオン」の肉を贅沢に使用した串焼きですからね、匂いも味も格別です。
コンビニおもてなしの屋台では、他にも
スアの薬品
ペリクド工房のガラス製品
ヤルメキススイーツ
弁当とパン・サンドイッチ
お店でも定番の人気商品をずらっと並べています。
ちなみに、ルア工房のルアが納品してくれている農具や武具、調理器具なんかはルアが切り盛りしている屋台で取り扱っています。
地元開催ですので、ルアも屋台を出しているんです。
あと、コンビニおもてなしの屋台には、もう1つ……
この世界で大人気になっている絵本シリーズ「魔法少女戦隊キュアキュア5」のグッズも並んでいます。
これらの商品は、魔法使い集落にあります、コンビニおもてなし3号店の2階部分に設置されているキュアキュア5の世界をモチーフにした室内遊園地「キュアキュア5ランド」の売店で販売している商品です。
原作を書いている魔法使いのテレコさんが中心になって運営しているキュアキュア5ランドですけど、定期魔道船が就航していることもあって連日多くのお客さんで賑わっているんです。
今は「抱っこして! キュアキュア5」っていう最新シリーズがはじまっているところだったはずでして、子供達だけでなく、大きなお兄さん達にも大人気になっているんですよね……まぁ、このあたりの気質は異世界共通ってことなんですかね。
そんなわけで……
テレコの執筆のアシスタント兼キュアキュア5ランドの従業員をしている魔法使いさんが1人、屋台の手伝いに来てくれています。
「今日はよろしくお願いしますのん」
抱っこして!キュアキュア5のキャラの1人になりきっている魔法使いさんが満面の笑顔で挨拶してくれました。
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」
僕も笑顔で挨拶を返したのですが……パラナミオが目を輝かせながら魔法使いさんを見つめていました。
パラナミオってば、このキュアキュア5シリーズの絵本の大ファンなんですよね。
「わぁ……すごく可愛いのですぅ……」
「じゃあ、パラナミオちゃんも、この帽子を被って接客してみますか?」
「え!? い、いいのですか!?」
「はい、もちろんですよ!」
と、まぁ、そんなやり取りがありまして……
コンビニおもてなしの屋台の中には、蛍光色のトンガリ帽子を被った店員さんが2人、接客にあたることになりました。
でもまぁ、パラナミオもすっごく嬉しそうなので問題なしってことにしておきます。
◇◇
ほどなくして、多くのお客さんが中央広場になだれ込んできました。
先ほど、辺境都市ナカンコンベからの定期魔道船が到着していましたので、それに乗船してやってきたお客さん達がやってきた感じですね。
辺境都市ナカンコンベは、ブラコンベ辺境都市連合に所属しているブラコンベ・ガタコンベ・ララコンベ・ルシクコンベの4辺境都市の総人口よりも多くの人々が暮らしている大辺境都市なんです。
なので、そこからやってくるお客さんの数も、桁違いなんですよね。
「さぁ、忙しくなるぞぉ」
「はい! パラナミオ頑張ります!」
「「私達も頑張ります!」」
「キュアキュア5の名にかけておまかせですの!」
屋台の中のみんなも、笑顔で返事を返してくれました。
お客さんの中には、パラナミオサイダーやスアビールを手になさっている方が少なくありません。
これは、定期魔道船の発着場から、中央広場にやってくる街道の途中にコンビニおもてなし本店があるからなんですよね。
まず、コンビニおもてなしに寄って、そこで食べ物や飲み物を購入してから会場にやってくる方が少なくないってことです、はい。
……しかし……これだけお客さんがいるのに……なんでタクラ酒を手にしている人がいないんでしょうねぇ……美味しいのに……
そんなことを考えながら串焼きを焼いていると、いつの間にか、僕の前に人だかりが出来ていました。
「それ、美味そうだな、1本もらえるかい?」
「こっちにも2本くれ」
「ママぁ、私も食べたい!」
皆さんから、そんな声があがりはじめました。
「はい、ありがとうございます。すぐに焼きたてをお渡ししますね」
僕は、笑顔で返答しながら、焼きたての串焼きを袋につめていきました。
串焼きは、タテガミライオンの肉以外にも、ティーケー海岸のアルリズドグ商会から購入した魚介類を使った串焼きも販売しています。
山間にある辺境都市ガタコンベで、海の魚介類は珍しいんですよね。
「うぉ!? こ、これ魚か?」
「こっちは、貝の串焼き!?」
「す、すごいな、こんな山の中の辺境都市で海産物の串焼きを売ってるなんて……」
お客さん達も、目を丸くしています。
普通に海岸からガタコンベまで荷馬車で輸送していたら、2,3ヶ月かかってもおかしくありません。
魔法袋があればあれですけど、それを持っていない商隊だと、腐らないように輸送するのは困難を極めるはずです。
ですが、コンビニおもてなしの場合、スアが転移魔法を使ってティーケー海岸と常時つながっている転移ドアを設置してくれていますので、いつでも一瞬にして輸送することが出来るんです。
「えぇ、どれも今朝ティーケー海岸でとれたばかりの活きの良い魚介類を使っていますよ」
僕は笑顔で、焼き上がったばかりの、エビランの串焼きを持ち上げて見せました。
塩焼きですけど、いい色に焼き上がっています。
「そ、それ1本!」
「こっちには2本ちょうだい!」
「ママぁ、あれも食べたい!」
「ニャ! とっても美味しそうなのニャ!」
「そうね、私もそう思うわ!」
大人に混じって小さな子供さんも、屋台の前に集まっていました。
んで、まぁ子供達にはサービスしてもいいかな、と思った僕は、焼き上がったばかりの串焼きを子供達に手渡していきました。
「さ、開店直後なんで小さな子供達にはサービスだ」
「ニャ! ありがとうニャ!」
「まぁ、すごく嬉しいわ!」
「シロも嬉しい!」
「妾も嬉しいのじゃ!」
子供達は、笑顔で串焼き受け取っていきました。
最初に串焼きを受け取った4人は、姉妹なのかな? なんだかすごく仲良しな感じでした。
その4人の後ろ姿を見つめていると、木箱の中から顔を出したスアが僕の腕を引っ張ってきました。
「……子供、可愛いね」
「うん、そうだね」
「……あのね……私、思うの……パラナミオやリョータ達も、そろそろ弟か妹がほしいんじゃないかな、って……」
そう言って、頬を赤らめているスア。
「う、うん……そうだね……」
そう応えた僕なんですけど……そうですね、今夜はいつもより頑張らないといけないかもしれませんね。