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3話

レオナルドは、勢いよくメリッサの店から飛び出た。店の前で深呼吸してから少し緊張した面持ちで、少しわかりずらい路地の奥にあるトニーの店へ向かった。

キィー。古い木の扉を開けると、蝶番が軋む音が静かな店内に響く。そのわずかな音を聞いてか聞かずか、奥から初老の男性が出てくる。

「おう、待っとったぞ。話はルイスから聞いている、準備出来とるからもってけ。」

初老の男性は、紙袋に入ったものを机に置いた。それは鈍くゴトッ。っと音を立てた。レオナルドは、俺に任された仕事はこれか……。と、神妙な面持ちで袋の中身を改める。中には、細かい細工のされた木箱が入っていた。それだけ見るとレオナルドは、中身も見ていないのに袋を閉じた。

「確かに受け取った。いつもすまんな、ついでに買い物も頼まれてんだけど、いいか?」

レオナルドは、ルイスから頼まれていたエスプレッソ用の豆と、来客用の紅茶を2種類頼んだ。そして、忘れるとこだったとキャンディーも注文した。するとトニーは、不思議に思ったのか

「キャンディー?ルイスがそんなもん頼んだのか、何のキャンディーだ。」

「さぁ、キャンディーとしか聞いてない。てっきりそのキャンディーが隠語で、受け取って来いと思ったんだが……。トニーの爺さんが知らないなら普通のキャンディーなんだろう。適当に見繕っておいてくれ、間違っていても文句は言わせねえから。」

レオナルドは、買い物を済ませると袋を抱えてトニーの店を後にした。ふと、思い出したかのように電話を掛けた。

プルルルル……。ガチャ。

「俺だ。終わった、これから帰るから準備しとけよ……。」

レオナルドはそれだけ言うと、相手の返事も待たず電話を切った。そして少し足早に、レンが待機している車に戻った。

レオナルドが車に近づく前に、レンが気付いて後部座席の扉を開けた。

「おかえりなさいっす。いいにおいっすねぇ~、メリッサ姉さんのとこ行くなら、俺も行きたかったっす!アップルパイ食べたかったな……。」

レンがあからさまにがっかりしたので、レオナルドはアップルパイ買ってあるけど黙っているかと、少し意地悪な思惑の含み笑いを漏らした。それに気づかれないように話をそらす。

「ハイハイ、また今度な。俺は遊びに行ったんじゃないぞ、仕事中に私用の買い物はしない主義だ。」

レオナルドは淡々と答えた。お前も知っているだろう。と言いたげな、含みのある言い方にレンは何も言えなくなる。

「知ってますよ。レオナルドさんはとても誠実な方っすからね。……ところで、姉さん俺のことなんか言ってなかったすか?」

レンは、少し怯えながらレオナルドに問いかけた。

「いや、特にお前の話はしてないが……。そもそもお前の話題は出ていない。残念だったな。」

レオナルドは笑いながら答えた。レンは少し、複雑そうな顔をしていた。

「何も……言ってなかったならいいんすけど。もしかしてバレてない?いやいや、そんな筈は……。」

レンは何かボソボソ呟いていたが、レオナルドは我関せずで車窓から外を眺めていた。しばらく車を走らせていると大きなビルディングの前で止まった。そこでレオナルドを下ろし、レンは『車を止めてくるんで先に行っててください』と、そのまま去っていった。

買い物袋を抱え、レオナルドはエントランスに入った。するとそこには、見目麗しい女性が数人ロビーで寛いでいた。

「あ、レオじゃん!」

女性の一人がレオナルドに気づいた瞬間、レオナルドはお姉様方に囲まれ、身動きが取れなくなった。

「Hi~レオ。ご無沙汰じゃない~。今度店に遊びにきてよ。」

「やだぁ~レオ荷物いっぱい持ってるぅ。あたしぃ、部屋まで持つの手伝おっか?」

「レオ、今日も相変わらず格好いいわね~。これから時間ある?デートに行きましょうよ。」

次々にお姉様方から声を掛けられたが疲れており何時ものようには対応出来ず、それに加えて彼女たちの甘ったるい香水の匂いのせいでレオナルドの顔は吐きそうなほど青ざめていた。そのうち腕をとられ、揺さぶられたり引っ張られたりしているせいで一層顔色が酷くなる。するとそこに誰かが腕を入れて割り込んで来た。

「はーい。お姉さんたち、その辺にしてあげてほしいっす~。レオナルドさんは今から、お仕事があるのでデートはできないっすよ~。でも俺は、今夜は空いてるからお姉様方の相手できるっすよ。」

『どうっすか?』と、女性陣に向かって整っている顔を近づけて、ウインクをして見せた。一瞬お姉様方の視線がレオナルドから外れる。その隙にレンはさり気なくレオナルドを女性陣から引き離す。お姉様方は、一瞬レンの顔に赤面したり、見惚れたがすぐ持ち直す。

「やだぁ~。レンが私たちの、相手してくれるの~?」

「もちろんっすよ。お姉様方のお望みのままに、お付き合い致しますよ。」

女性陣は黄色い声を上げ、すっかり標的がレンに切り替わった。レンは、今のうちにレオナルドにエレベーターホールに逃げるようアイコンタクトをし、レオナルドが女性たちから完全に逃げ切れたことを確認してからレンは女性陣に向かって言った。

「あ、やばいっす。レオナルドさんに置いてかれるっす!ごめんねー。また今度、いっぱいお話ししようね。かわいいお姉さんたち。」

レンは、少し幼さの残るかわいい顔で、満面の笑みを浮かべ女性達に、別れを告げた。女性陣は、レンの幼さの残る顔と、男らしい体格にすっかり骨抜きにされてしまっていた。

「レオナルドさん、待ってくださいっす。置いてかないで~。」

目に涙を浮かべながらレンは、レオナルドが乗り込んだエレベーターに続いて乗り込む。

「おい、お前。さっきの威勢はどうした。颯爽と現れて、俺を助けてなかなかやるな。と、思っていたが……。何だこのヘタレは、というギャップに俺は今途轍<<とてつ>>もなく襲われている。」

「そんなギャップは嬉しくないっす。それに俺は、レオナルドさんを助けてあげただけっす!ほんと、普段は部下の信頼も厚く頼りになるのに……。疲れていたり、眠たかったりすると、お姉様方すらも捌けなくなるんですから。」

軽口をたたくレンを『うるさい』とレンの頭を叩く<<はたく>>。レンが頭を叩かれて『暴力反対っす。』とレオナルドに向かって抗議していたがその叫びには一切触れることなくレオナルドは、『そうだった。』と何かを思い出したかのように呟くと、紙袋からアップルパイを取り出した。

「……ん。お前にやる、ありがたく受け取れ。」

レオナルドは、顔を背けそっけない態度でレンの顔に押し付けた。

「ちょ、めり込んでるっす。なんすかこれ……。って、これ姉さんのとこの、アップルパイじゃないっすか!俺のために買ってきてくれたんですか。さっきは『仕事中に私用の買い物はしない主義だ。』とか、険しい顔で言ってたのに……。ツンデレっすか⁉ギャップ萌えすぎて、溶けそうなんすけど。」

レンが先ほどのレオナルドをかなり誇張しながら真似をした。

「知らん溶けてろ。それに俺は、そんな格好つけて言ってない!」

ちょうど、目的の階に到着し先に降りたレオナルドの耳まで真っ赤になっていた。レンはアップルパイを大事に抱えながら少し遅れて着いていく。

「そんなに照れるならサプライズしなきゃいいのに……。可愛い人だな~。」

レンは一歩後ろを歩きながら嬉しそうに小さく声を漏らしたがどうやら声を聞かれていたようで『なんだ。』とまだ耳を赤くしながら聞いた。

「いえ、何でもないっす。我がボスはほんと部下思いの最高な方だなーと言っただけっす。」

ニコニコしながら答えた。興味なさそうに、レオナルドは『そうか。』と答えた。

「あー信じてないっすね!嘘じゃないっすから。」

レンがレオナルドに突っかかって騒いでいると、ドン。と音がして扉が勢いよく開いた。

「朝っぱらからうるさいぞ。ギャーギャー騒ぐな。」

レンはその声の主がわかると一気に顔が蒼白になっていきレオナルドの後ろに隠れた。その声もかなりの五月蠅さだったがそれを指摘したらまた五月蠅くなるのでレオナルドは指摘するのを止めた。

「やぁ、おはようドミニク。すまんな、うちの馬鹿がうるさくて。」

ドミニクと呼ばれた男は少し視線を下げた。

「おぉ。レオのとこのワン公か、朝から元気なことだな。昨日から徹夜じゃなかったのか?若いから体力が有り余ってるのか、それならこっちにも分けてほしいぐらいだ。」

ガハハハッ。と豪快に笑った。その声もかなり五月蠅い。

「お前は、相変わらず話し方が年寄り臭いぞ。」

レオナルドはいたずらっぽっく笑った。

「フム、相変わらず生意気な小僧だ。報告に来たのだろう、ルイスは奥にいるよ。おい、ワン公お前はこっちだ。元気が有り余ってるなら手伝え。」

ドミニクはそのガタイの良い腕でレオナルドに隠れていた、(いや厳密には身長差のせいで隠れ切れてはいないのだが……。)レンをヒョイっと持ち上げると肩に担いで書類の積まれた部屋へ連れ込まれそうになった。

「うわぁ。レオナルドさん助けて!ドミニクさんに犯される、殺されるー!!」

「うるさい。静かにしねぇとほんとに食っちまうぞ。」

レンはヒッ……。と息をのんだ。その顔は今にも吐きそうなほど顔面蒼白になっていた。それを見たレオナルドは

「おい、ドミニク。レンは一応徹夜明けだから手伝わせるのはいいが……あんまり無理させないでくれよ。」

「……わかっておる。それに、こいつにしか出来ない仕事を手伝ってもらうだけだ。そんなに気になるならレオも来るか?」

3人でも俺は構わないぞ。と、ドミニクは悪戯っぽく笑った。それを見たレオナルドはやれやれとため息をついてレンの肩にポンと手を乗せ諦めろと諭した。レンは『レオナルドさんの薄情者ー。』と叫んでいたが書類が山積みの部屋に連れ込まれていった。レンが連れていかれるのを手を合わせて見送った後レオナルドは自身の目的のために奥の部屋へ進んでいった。

コンコン。 少し緊張した面持ちでノックをする。中から『どうぞ』と声がしたので扉を開けて中に入る。

「なんだ、レオか。ノックなんて珍しいね。」

ルイスが書類に埋もれながら目線だけこちらに送る。レオナルドはルイスに近づきメリッサとトニーの店で受け取ったものを渡す。

「ん?あぁ。これか、ありがとう助かったよ。さすがにこれを部下に取りに行かせるのは気が引けてね。でも早急に必要だったんだ。レオがいてくれて助かったよ。」

ルイスは、レオナルドの頬にキスをした。レオナルドは、キスされたところを拭いながら『調子のいいことを言うな』とご立腹のようだった。

「おやおや。機嫌が悪いのかい?なぜだろうね。」

ルイスは、ニヤニヤしながらレオナルドが機嫌が悪いわけではないことを理解しているが、わざと焦らす。

「……っ///。だから!言ってたやつだよ……///。」

言葉尻になるにつれて、声がだんだん小さくなっていった。

「ん~?聞こえないな。もっとこっちにおいで。」

ルイスはいたずらっ子の顔をして笑う。レオナルドの腰を引き寄せ、自分の膝の上に強引に抱き寄せた。

椅子に座っているルイスの上に、跨るような形で座らされる。ルイスの手が腰を掴んでいて逃げられない。

「ちょっ……どこ触ってんだよ///……てか何この体制恥ずかしいんだけど……///。」

「これなら良く聞こえるよ。それで、どうしたんだい?自分の口で言って。」

ルイスは上目遣いでレオナルドに訴える。顔の良い男からの間近の上目遣いにはかなりの破壊力があり、レオナルドの顔は一気に熱くなっていくのが分かった。茹で上がったかのように真っ赤になりながらレオナルドは覚悟を決めたような顔をした。

「〜〜/// だっから!!言ってたご褒美くれよ……。もう限界だから早く///」

レオナルドは耳まで赤らめた顔に目を潤ませてルイスに精一杯にお願いする。

「……っ。レオ〜その顔は反則じゃないかなぁ?可愛いレオの頼みだから快く聞いてあげるよ。さぁバスルームへ行こうか歩ける?」

「……あ、歩けないから抱っこして連れて行け……///。」

レオナルドはルイスの肩に顔を埋めながら言った。その声はとても熱っぽくそして興奮していて顔を見なくても赤面しているのがわかる。

「ハイハイ。レオの仰せのままに。」

ルイスはクスッと笑いながらそのままレオナルドを抱えてバスルームまで連れていった。

バスルームに着くとレオナルドはルイスに降ろすように指示して自分で服を脱ぎ始めた。しかしそれをルイスがレオナルドの手を掴み止める。

「……何すんだよ。」

レオナルドは少し不機嫌になりながらルイスを見上げる。

「レオこそ何をしようとしているんだい?僕にお世話を頼んだんだから自分で脱いだらダメでしょ。僕が脱がしてあげるね……。」

ルイスは熱い吐息を落としながらレオのシャツに手をかける。

「ンっ……///。」

ルイス指がレオナルドの肌を掠め思わず声が漏れる。その手つきがいやらしく時々肌を掠める指先がとても熱く、火傷をしてしまったのではないかと思うほど触れられた場所に熱を落としていく。

「どうしたの?そんなに体を固くして、僕に身をゆだねていれば気持ちよくさせてあげるからゆっくり力を抜いてごらん。」

「ばかルイス……アっ///……変なとこ……ンっ///……触るな……///」

ルイスが順番に来ている服を脱がしていく。時折触れる指の熱がどこか心地よく感じてきたレオナルドはそのまま一気に力が抜けて倒れ落ちるかのようにルイスにもたれかかった。さすがのルイスも驚いてレオナルドに声をかける。

「レオ?どうしたの、いきなり抱き着くなんて大胆だね」

返事はない。ルイスがもしやと思いレオナルドの呼吸を確認する。スースーと規則正しい呼吸音が聞こえるどうやら疲れていたところにルイスを前にして心底安心したのか緊張の糸が途切れいきなり眠り落ちてしまったようだ。

ルイスはレオナルドが眠っているだけとわかると『はぁーー。』と大きいため息をついた。

「いきなり落ちるなよ、びっくりするだろ。……本当にお前といると退屈とは無縁だな。」



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