はわわわわぁ その3
謎の巨木の家の扉をノックしたら、中からすごい音がしてきたのですが……
その音を聞いた青犬狼(ブルードッグウルフ)が、すごい勢いで扉に駆け寄って行きまして、そしてその中へと駆け込んでいきました。
で、僕達もそのあとに続いて行こうとしたのですが、
「……待って」
スアが僕達を止めました。
「……ここにも結界が、ある」
そう言うと、スアはブツブツと呟きながら手にした水晶樹の杖で開け放たれている入り口のところをちょんとつつきました。
すると、
パリーン
先ほど、スアが結界を破壊したときと同じ音が響きまして、同時にドアの周囲に緑の光りが散乱していきました。
その光りは、しばらく宙を舞っていたのですが、すぐに見えなくなってしまいました。
「……もう大丈夫」
スアが家の中へと入っていきました。
僕も、そのあとに続きます。
「お邪魔しま~す」
「お邪魔します!」
「お邪魔します!」
僕に続いてパラナミオやリョータ達が挨拶をしながら家の中に入って行きます。
そんな僕達の前方に、
「きゅう~……」
部屋の片隅で、壁の本棚から落下してきた本に埋もれている1人の女の子の姿がありました。
先に家の中に駆け込んだ青犬狼(ブルードッグウルフ)が、その女の子をひっぱりだそうとしています。
「わぁ、大変なのです!」
すぐさま、そこにパラナミオが駆け寄りました。
リョータ達もそのあとに続きまして、その女の子を助け出そうとしています。
僕とスアもその輪に加わりまして、ほどなくしてその女の子を本の山の下から助け出すことに成功した次第です、はい。
◇◇
青犬狼に案内されて、僕はその女の子をベッドへと運んでいったのですが……
「……しかし、すごい部屋だね、ここは」
周囲を見回しながら、思わず声を漏らしてしまいました。
この巨木の家ですが、スアが以前使っていた巨木の家よりもかなり小さめです。
結構高い壁は全面が本棚になっていて、ぎっしりと本が詰まっています。
なんか、どこかで見たことがあるような背表紙だなぁ……と、思っていたら……そのほとんどの書籍が魔女魔法出版の本でして、しかも、そのほとんど全てがスアが書いた魔法書だったんです。
んで、室内にはいたるところに実験器具らしいものが置かれていまして、スアの研究室を彷彿とさせます。
「……ってことは、この女の子は魔法使いなのか?」
「……うん、そうみたいね」
女の子の様子を見ていたスアが、僕の言葉に頷きました。
その魔法使いの女の子の側に、青犬狼が寄り添っていましてすごく心配そうな表情をしています。
そんな青犬狼に、スアがにっこり微笑みました。
「……大丈夫。すぐ目を覚ます、よ」
スアにそう言われて、青犬狼は途端に嬉しそうな表情になりました。
スアってば、最近はかなり改善されてきたとはいえ超絶な対人恐怖症なんですよね。
でも、魔獣相手だと全然苦にしないんです。
そのおかげで、この世界の各地で絶滅思想になっていた魔獣達を自分が管理している小さな異世界「スアの使い魔の森」の中で保護することが出来ているわけです。
スアと青犬狼が笑顔を交わしあっていると……ここで、魔法使いの女の子がパチッと目を覚ましました。
「あぁ、大丈夫かい?」
って、僕が声をかけたのですが……その魔法使いの女の子は、周囲を見回すなり
「はわわわわぁ!? ウルちゃんは渡さないのですぅ」
そう言いながら、青犬狼を抱きしめていったのです。
「あ、いや……別にその青犬狼さん……あぁ、ウルちゃんって言うんですね、そのウルちゃんを連れて行こうとか思っていませんから。それに、本当に連れて行こうと思っていたら、あなたが気絶している間に連れていっていますから」
「へぁ!?……い、言われてみれば確かにそうなのです……」
僕の言葉でようやく我に返ったその魔法使いの女の子。
「……あ、あの……わ、私はB級魔法使いのポイッタと申しますです。訳あって、お友達のウルとあちこちを転々としているのです」
「訳あって?って、何かあるのかい?」
「はい……あの、このウルちゃんを連れて行こうとしている悪い人がいるのです……なので、私はこうして結界を張って……って、あるぅえぇ!? あ、あなた達どうやって結界を抜けて来たのですかぁ!?」
ここで目を丸くしたポイッタさん。
かけている大きな丸眼鏡がずり落ちています。
「……あぁ、それなら、私が解除した、よ」
「ふぉぉぉぉ!? あ、あの結界魔法を解除したのですかぁ!? けけけ結構自信作だったのですけどぉ」
「……うん、悪くなかった、よ」
「はわわわわぁ……そ、そう言ってもらえたら嬉しいのですぅ」
なんか……まるで師匠と弟子か、姉と妹の会話を見ているようで、僕は思わずほっこりしていたのですが……その時です。
「おらおらおらぁ! ちびっこ魔法使い! 今日こそ青犬狼を渡してもらうぞ! 闇ルートで売っぱらって闇の嬌声の下部組織「闇の嬌声の足の爪」の活動資金にならせてやるんだからありがたくおもいな!」
そんな声を張り上げながら、巨木の家の中に一人の女性が入ってきたのですが……
「……お前……ジルルじゃないか」
そう、その女性に僕は見覚えがありました。
かつて、コンビニおもてなし4号店の店員ツメバをだまくらかして借金を背負わせようとしたり、魔導船の遺跡を、当時は闇の嬌声の一員だったメイデンを使って戦闘魔導船に改造して暴れ回ろうとしていた、あのジルルに間違いありません。
「お前……確か親分のポルテントチーネと一緒に王都で幽閉されてたはずじゃあ」
「あ? そんなのあれよ、闇の嬌声の情報提供と引き換えに恩赦を受けたに決まってるじゃない。二度と悪さをしませんって誓約書にサインさせられてな……まぁ、あんな紙切れ一枚でこのアタシを縛り付けられるわけがねぇだろうによぉ……って、お前、なんでアタシの名前を知って……」
最初は自慢げに話していたジルルですが、僕の顔を見るなり固まってしまいました。
みるみるその顔が青ざめています。
「お、おま……こ、コンビニおもてなしの……た、タクラか……ま、まさか……伝説級の魔法使いのスアまで……」
ジルルがそう言っている間に、スアが僕の横にテテテと歩み寄ってきました。
そんなスアの姿を見たジルルは、さらに顔を真っ青にしていきます。
まぁ……しょうがありませんよねぇ……スアの魔法の前に手も足も出ないまま捕縛されまくったわけですから、ジルルってば……
「ち、ちくしょう! アタシは1人じゃないんだからね! 屋敷魔人リーク! やっておしまい!」
バキバキバキ!
ジルルの声を合図に、巨木の家の近くの木々が押し倒されていきまして、その向こうから巨大なお城が迫ってきました。
そのお城の窓という窓からは砲台が突き出していまして、いるかのような形をしているしゃちほこが両手に爆弾のようなものを持っています。
「……あぁ、そういえば屋敷魔人って、色んな建物に変化することが出来るんだっけ」
前に遭遇したときも、こんな城の姿だったはずです、この屋敷魔人のリークさんって。
……でも、
「……しつこいの、嫌い」
そう言いながら、スアが屋敷魔人リークの前に歩み出ました。
その姿を確認したのか、屋敷魔人リークはピタッと停止しました。
天守閣部分の上に鎮座しているいるか型のしゃちほこも動きを停止し、ガタガタ震えはじめています。
それに連動するかのように、屋敷魔人リークが変化しているお城もガタガタ震えていたのですが、
「……邪魔」
スアがそう言って水晶樹の杖を一振りすると、
ドゴーン
壮大な爆発音とともに、屋敷魔人リークはしゃちほこごと空高く舞い上がっていき……そして地面に落下したのですが、地面に叩きつけられたあとはピクリともしなくなっていたのです。
「そ……そんな……なけなしのお金を全部はたいて、パワーアップさせたのに……のに……」
その光景を前にして、ジルルは茫然自失といった感じです。
そこを、僕とパラナミオが縛り上げていったのは言うまでもありません。