167章 20時間経過
*ボスと戦い始めてから、20時間経過
ボスはこれまでと変わることなく、軽快な動きを見せていた。
ボスの弱点である急所を狙っているものの、ことごとく回避されている。それゆえ、なかなかダメージを与えられていない。
ボスは口の中から、触手のようなものを吐き出す。湿った場所に入り続けていたからか、納豆のようにねばねばである。糸を引いているのは、なんなのだろうか。
水魔法を使用することで、ねばねばを洗い流そうとする。回避はできなかっとしても、ねばねばの物体に触れるのだけは嫌だった。
水魔法を受けた触手は、水を得た魚のように、ねばねばの勢いが増すこととなった。アカネの水魔法は、完全に裏目に出てしまった。
タイミングを見計らって、ワープの魔法を使用する。タイミングが良かったのか、触手に当たらずにすんだ。
一息をついていると、触手がブーメランみたいな動きを見せる。予想外の動きに対応することができず、触手に右腕をつかまれてしまった。
「女の身体に入り込むのだ」
ねばねばした物体は、身体の中に侵食していく。アカネは耐えきれずに、大きな悲鳴を上げる。
「いやああああああ」
苦しんでいる女性に対して、ボスは薄ら笑いを浮かべていた。笑い方からすると、性根は腐っていると思われる。
「女の身体の繊維を壊せ、奪え、吸い尽くせ」
大きいストレスを抱えたものの、身体は無事を保っている。所持しているスキルが、ボスの毒を完全に無効化している。
「骨を溶かせ、肺を奪え、身体を壊してしまえ、脈を止めろ」
体内に物を入れたことによって、エネルギーを得ている感覚があった。ボスの触手は完全に逆効果に終わった。
身体の浸食については、30分ほどで終了する。身体は何事もなかったかのように、元気そのものだった。
「そんなばかな。俺の毒を受けたら、身体はひとたまりもないはずだ」
「毒を無効化する身体だから、毒物は受け付けないよ」
「お前はいったい何者なんだ」
「一人の女の子だよ。それ以上でも、それ以下でもない」
「毒が利かないのであれば、他の方法でやっつけてやる」
ボスの右手をドリルに変化させると、猛スピードでこちらに近づいてきた。
「視界を奪えば、何も見えなくなる。お前の目を壊してやる」
視界を奪うことで、戦いを有利に進めようということか。
ボスのドリルは、目に当たることはなかった。
「くそ、もう一回だ」
二回目も目に命中しなかった。
「三回目ならどうだ」
三回目についても、目からかけ離れていた。
「的が小さすぎて、うまくいかないようだ」
ボスは右手のドリルを、のこぎりに変化させる。のこぎりならば、ドリルよりは命中させやす
いと考えたようだ。
のこぎりについても、アカネにあたることはなかった。
「くそ、どうしてだ」
ボスの力が強すぎるゆえに、道具をうまく使いこなせていない。力の強すぎる者にとって、道具は扱いにくいのかもしれない。