ねーちゃんは古賀 ヴィクトリア
「タクトは席内は初めて?」
「いや、何回か買い物に来たことがある」
ミハイルの住む、席内市とは福岡市に隣接する町だ。
福岡県の北東部あたりか。
個人的にはお年寄りが多い印象だ。
「じゃあ席内の『ダンリブ』はいったことあるか?」
ダンリブとは大型のショッピングモールのことである。
「だって駅の目の前だろ? あそこぐらいしか、遊べないだろ」
俺がツッコむとミハイルはブーッと頬を膨らます。
「そんなことないぞ! ダンリブ以外にも醤油の工場とか、大きな図書館とか、
「へぇ……」
これはいわゆる福岡市外民の妬みである。
俺の住んでいる
福岡市と福岡県では都会ぽさが段違いなのだ。
「他にもオレが知らないだけで、もっともっと、いっぱいあるんだからな!」
郷土愛が強いんだね、知らなかった。
「わかった、落ち着け。とりあえず、お前ん家に行くんだろ?」
「そ、そうだったな☆」
機嫌を取り戻して、鼻歌まじりで行進するミハイル。
駅から左手に向かい、商店街の門構えが見えてきた。
『席内商店街』
何件かシャッターを下ろしている。
真島と同じく、時代の波か……。
悲しいものだな。
商店街を歩いているとミハイルは「この店はうまい」とか「あの店はプラモデル屋」とか丁寧に説明してくれた。
『真島への恩返し』か?
「ついたぞ!」
「こ、これがミハイルの家か……」
俺はバリバリのヤンキーママが立っているスナックかと思っていたが。
『パティスリー
色とりどりの花々が、店の前を囲んでいる。
一つ一つがよく手入れされていた。
入口の前には、イスが置いてあって、大きなクマさんのぬいぐるみが座っている。(リボン付き)
可愛すぎだろ! この店!
ヤンキーが営む店じゃねぇ!
「入れよ、タクト☆」
目を輝かせながら、手招きするミハイル。
「あ、ああ……」
ギャップに驚かされた俺は戸惑っていた。
チャランと美しい鈴の音が鳴る。
うちの店もこんな可愛らしい音に、変えてくんねーかな……。
腐向けのイケボボイスには毎回、悩まされるからな。
配達員なんかドン引きだよ。
店内に入ると、ケーキや洋菓子のあま~い香りが漂う。
ショーケースのなかのケーキは、フルーツがふんだんに使われており、宝石のようにキラキラと輝いて見える。
他にもチョコレート、クッキー、マドレーヌ、などのお菓子が店中に並べられている。
所々にクマさんのぬいぐるみが置いてある。
ミハイルの趣味か?
「いらっしゃい!」
ハキハキとした声で言われた。
カウンターの前に立っていたのは、コックコートを着た長身の女性。
ミハイルと同じく金髪でポニーテール。
そしてエメラルドグリーンのハーフ美人。
ただ違うところといったら、胸がパンパンに膨れ上がっているところだ。
ここにも巨乳がいたのか……キモッ!
「なんだ、ミーシャか」
「うん、ただいま☆ ねーちゃん!」
この人がミハイルのお姉さんか。
「おかえり。ん? そこのあんちゃんは?」
鋭い眼つきで威嚇するお姉さま。
まるで、狩りをする獅子のようだ。
あれ、この感覚。なんだか誰か似ているような……。
宗像先生か!
「あ、あの。俺、
一応、姿勢を正して頭をさげる。
「ほう……お前が『噂のタクト』か?」
顔を上げると、妖しく笑うお姉さまのお顔。
「よし、今日は店じまいだ! 酒を買ってこい、ミーシャ!」
「やったぁ~ パーティだな☆ ねーちゃん!」
「ああ、
なにそれ? おたくのおねーちゃん、アル中なの?
ミハイルはお姉さまから財布を預かると、「タクトは待っとけよ、ダンリブ行ってくる☆」と言って鼻歌交じりで店を出て行った。
「さあ……タクトくんとやらの話を聞こうか?」
なんだろう、背後から『ゴゴゴゴゴ』というスタンドが見えるの俺だけですか?
「あたいの名はヴィクトリアだよ、ピチピチの二十代だぞ」
「ははは、俺は17歳です」
「へぇ、ミーシャの2個上か~ ちょうどいいね~」
なにがいいの? 怖いよ、ミーシャのお姉ちゃん。
「今夜の酒の肴はお前だよ、坊主」
俺の顔目掛けて、ビシッと指を指し、睨みつける。
こ、こえ~
「俺ですか?」
「ああ…だって。あたいの可愛いミーシャを、初めてお泊りさせやがった男なんだからなぁ……」
口からなんか漏れているよ、凍える吹雪じゃないですか?
「今日は泊まっていけ、坊主」
これを拒否れば殺される。
「は、はい。お姉さま!」
「だーれがお姉さまだ? ヴィッキーちゃんと呼べ!」
ちゃん付けできる年じゃねぇだろ。
「は、はい。ヴィッキー……ちゃん、さん」
「ああん?」
やっぱりヤンキーだよ、こんなパティシエ存在したらあかん!