蘭と日葵
「そのタクト……オレも今度、読んでいいかな?」
顔を真っ赤にして、北神 ほのかが所持している小説を指差すミハイル。
おいおい、お前さん。勘違いしてねーか? BL本じゃねーぞ。
「古賀くんもBLに興味あるの?」
ログインすんな腐女子。
「ビーエルってなんだ? ほのか」
あれ、ミハイルも既に下の名前で呼ぶ仲なの?
「BLとは尊き、恋愛作品の総称のことだよ♪」
「ラブストーリーか……おもしろそうだな☆」
やめろぉぉぉ! 北神、ミハイルの姉さんに謝れよ!
「ほうほう、DO先生には、BLのセンスがあるみたいですねぇ」
メモすんな、ロリババア。
「うわぁ、タクオ……今度からトイレ一緒に入るのやめてくれ」
引きつった顔するなよ、一緒に連れションしろよ、千鳥。
寂しいだろが!
「あーしも、BLっての興味あるかな~」
ええ!? ギャルの花鶴まで!
「この北神 ほのかにお任せください!
俺の作品はBLじゃねー。
「お、俺は遠慮しとくわ……」
強制ログアウト、ユーザーネーム『リキ・チドリ』
「ふーん、帰りに貸してちょ。ほのかちゃん」
もうやめて……。
教室中で「ホモォォォ」で盛り上がる女性陣と、ドン引きする男性陣。
ちな、これに関してはリア充と非リア充で別れたのではなく、性別で隔たれた。
例外として、ミハイルだけは、俺と一緒にいる。
盛り上がる女性陣。
「ねえねえ。新宮くん、どう絡めてるの?」
「書き専なの?」
「百合は? 百合もやらないの?」
最後のやつは両刀使いかよ!
それに屈する男性陣。
「やべーよ、新宮ってホモだったのか」
「もうひとりで、トイレに行けないよな」
「ハァハァ、新宮くん……」
モノホンがいるじゃねーか。
クラスは俺の小説でガヤガヤしていると、突然、雷のような怒鳴り声が鳴り響いた。
「なーにをやっとるかぁーーー!」
気がつけば、ひとりの痴女が教壇に立っていた。
その名も宗像 蘭。
「ハッ! 蘭ちゃん!?」
それを見た瞬間、白金の目が怪しく光る。
対して宗像先生は顔をしかめた。
「
静まり返る教室。
白金と宗像先生の間に、出来ていた人波が、左右へと分断され、彼女たちは互いに歩みよる。
「なにをしにきた? 日葵?」
「ここであったが百年目! らーんちゃん!」
何を思ったのか、白金は宗像先生目掛けて、全速力で突っ走した。
先生は両腕を組んで微動だにしない。
「死ねやぁぁぁ、デカパイ!」
身長差を無くすためか、先生の足元で思い切りジャンプする。
顔面まで飛び上がり、頭突きをお見舞いする白金。
「甘いわ! クソちっぱいが!」
白金の頭突きが当たる寸前で、宗像先生の左腕が動く。
ワンチョップ。それだけだ。
「グヘッ!」
脳天を突かれた白金は、空中から一気に床へと叩きつけられる。
「らんちゃんのバ、カ……」
そう言うと、白金は泡を吹いて気絶した。
ホラー映画みたいな白目でね。
いい歳したアラサー女史同士で、なにやってんねん。
「貴様ら! さっさと席につけ! レポートを返却するぞ!」
宗像先生、足元、足もと! 白金を踏みつけとるがな。
ピンヒールで背中をグリグリ刺しているけど、穴とか、あかないのかな?
「「「ヒィッ!」」」
俺たちはすぐに席を整えて、着席した。
「いいか、一ツ橋高校に関係のない不審者。こんなクソチビの相手はしてやるなよ。会ったら速攻ブッ飛ばせ」
あんたそれでも教師か。
「「「はーい……」」」
そのあとは静かに、(恐怖で)みんな添削済みのレポートを受け取った。
俺は安定のオールA。
ミハイルといえば、顔色が真っ青。
こいつは、勉強を真面目にしてないのか?
「じゃあ、お前ら寄り道せずに帰れよ。ラブホにいったカップルはレポートを増やすぞ! 絶対にだ!」
それ毎回言うんですか? セクハラでしょ。
「宗像先生。さよなら~」
俺はそそくさと、リュックサックを背負いその場を去る……はずだった。
リュックのひもを掴んで離さない女が一人。
宗像先生がするどい眼光で微笑んでいる。
「古賀を置いて帰るなよ、新宮……」
振り返れば、涙目のミハイル。
「は、はいっす……」
「あと、このバカが本校に不法侵入したことも『4人』で話そうじゃないか!」
ええ……。
「タクト☆ なんか、わかんないけど、オレは付き合うぞ!」
マジで……。もう一緒に帰ろうぜ。