第18話 わざと
「………んっ………」
連続でイかされ気を失っていた隼が目を覚ました。
自分の身に何が起こったか分からないように顔をしかめ、俺と目を合わせた。
「……優……俺…」
「イきまくって失神してたぞ。めちゃくちゃエロいなお前」
「ええ………」
隼は自分が意識を飛ばしていた時の記憶は本当に無いようで、俺の言葉に驚いている。
「でも確かに、後半はもう何も考えられなかったかも。イッてるのかイッてないのかすらよくわかんなかった」
「俺も分からなかった。ずっとお前のが締め付けてきてたからな」
「優がずっと激しく動くから……」
「お前が求めてくるような態度を取るからだろ。腰を止めるなとでも言わんばかりの声と穴だったぞ」
「なにそれ恥ずかしい……」
隼は顔を赤らめ両手で目を覆った。
あれだけ乱れても時々見せる初心な反応は、こいつのアンバランスを強調しているようで、ベッドの上での魅力を増す要素になっていた。
「……けど、優はまだイッてないんだよね?」
「まあな。だからお前にはもう少し頑張ってもらわなければならない」
俺はそう言うなり、若干落ち着き始めていた自分のモノを隼の前に差し出した。
「……隼、またこれを復活させてくれないか?」
隼は何も言わず、なんの抵抗も無いような顔で俺のモノを咥えた。
「なんだ隼。もうフェラチオすらも無抵抗になったのか」
俺は隼を見下ろすように言う。
「だって優にも気持ちよくなって欲しいから」
さもあらんように答えて懸命に俺のをしゃぶるこいつの様子を見る時の俺の気持ちは、
俺のモノの反応にダイレクトに現れていた。
「すっごい…かたい………」
隼が一瞬口を離して呟く。
俺はその隙に、再び隼の足を持ち上げ、自分のモノを隼の中に挿れる。
「……あっ!!」
入った途端、隼は妖艶な声を出す。
「隼、痛くないか?」
先程何度も摩擦した為、痛みを発していないか聞いた。
「痛くないよ……動いて大丈夫」
隼は俺の動きを期待するかのような目を向けて答えた。
俺のモノが入った途端、どうやらこいつの頭の中は快楽にしか向かなくなるようだということに気づいてきた。
「ああああ!!」
俺は自分の思うがままに腰を動かす。
さっきは隼の反応見たさにひたすら動いていたが、今は自分の気持ち良い所を連続的に狙うように動いている。
「……っっ隼……」
俺の切羽詰まった声に反応したのか、隼の中が一瞬キュッと締まった。
「うっ……!隼、お前締め付けんな……」
「えっ?締め付けてないよっ………あっ!きもちい」
「俺もだよ隼。………気持良すぎる……」
隼の中が締まれば締まる程、俺への刺激も強まり自然と腰が早く動く。
その動作に二人はゾクゾクと天国への階段を登っていく様な気分になる。
「あっあっ!優!だめ!はげし………」
「お前の中が、気持ち良すぎるから……」
「だめっ!そこだめ!」
「気持ち良いか?隼」
「うんっっ……あっ!気持ちいい!ああっ」
俺の腰がどんどん速く隼へ打ち付けられる。
その度に隼は感じ、俺も余裕がなくなる。
(イクかもしれんな………)
そう思って下半身に意識を集中させる。
俺のが我慢の限界であることを感じたのか、隼の声と締りがより一層強くなる。
あと少し………
その時…
コンコン
部屋のドアをノックする音が響いた。
突然の音に、俺は即座に動きを止め、隼は自分の口を抑えた。
「……何だ?」
俺は隼にしか聞こえないように小さな声で言う。
コンコン!
再びノックが聞こえる。
「はーい」
俺はベッドの上から返事をする。
「お前らもうとっくに夕食の時間が過ぎてるぞ。何をしている」
「五郎っ!」
ドアの外から聞こえる声に隼は驚いたように声を発する。
五郎は俺と隼のチームメイトかつクラスメイトで、俺の幼馴染の男でもある。
「ああすまない。すぐに行くから先に行っててくれ」
俺はまだベッドの上から動かず、ドアへ向かって言う。
「早くするんだぞ。全く……」
五郎はそう言いながら、ドアの前から離れ、廊下を歩く足音が聞こえた。
「………聞こえてたかな…?」
隼は焦ったように俺に尋ねる。
「ベッドからドアまでは割と距離があるし、壁もそこまで薄くはないだろう。」
「そうかな…」
「まあ仮に聞こえていたとしても、五郎は何も言うまい。気にするな」
五郎は幼馴染だから、俺の隼に対する気持ちを昔から知っている。
「そっか……とりあえず早く行かないとね」
隼は起き上がり、脱ぎ捨てられた下着とズボンを履く。
俺も自分の服を着る。
あと少しだったのに………
ふとそう思いながら、ノックが聞こえた途端驚きのあまり縮んでしまった自分のモノを見て溜息をつく。
隼は先程俺が口つけてしまった自分のペットボトルの水を一口飲み、鏡で自分の姿を確認し、ドアへと向かう。
隼は2年生の中でもリーダー的な立場だ。
恐らく来年、部のキャプテンになるだろう。
その自覚はこいつも常にある。
そんな自分が決められている夕食の時間に遅れるということにかなり焦っているようだ。
最早完全に意識が切り替えられている。
「隼、悪かったな俺のせいで」
俺は隼にそう声かけながら二人で部屋を出てエレベーターに向かう。
「優のせいじゃないよ!?俺も時間を忘れてああなっちゃってたから……」
さっきまでの自分を思い出したのか、隼は少し恥ずかしそうに笑う。
エレベーターに乗り込み二人きりの空間になった時、俺は思わず隼のトレーナーから覗くキスマークに目が行った。
ギリギリ見えないが…気づかれれば厄介だな
そんなことを思いつつも、自分が付けたその痕に少し興奮したのは言うまでもない。
隼はこの痕のことなど忘れたかのように普通にしている。
普段はこいつのリーダーとしての心構えはとても頼もしいが、こういう時は少し寂しいものだな……
そう思いながら夕食会場に付くと、既に皆夕飯を食べていた。
「すみません遅くなりました!」
隼は先輩たちの方を見て、全体に謝るように言った。
「疲れて寝てたのか?まあ明日は試合ないしそんな気にすんな」
「俺らなんか大会当日にやらかしたことあったよな?」
「あーあの時は監督にめっちゃ怒られたよな」
「とりあえずゆっくり食べろよ。」
先輩方の優しい反応のお陰で隼はホッとしたような顔をして頭を下げた。
俺らは同じ2年生のいる卓へと向かった。
「全く。二人きりで何をしていたのか…先輩方はああ言ってくれていたかもしれぬが、俺は糾弾するぞ隼に優!」
「すまなかったと言ってるだろう。五郎は本当に面倒な男だ」
「面倒とは何事だ!貴様自分らの罪を棚に上げおって!」
「罪って言うほどでもないだろ大袈裟な」
「それは貴様のセリフか!?」
「ほんとごめんね五郎…俺も時間を見てなかったから…」
「隼は反省の色が見えるからまだよかろう。しかし問題は優、貴様だ!」
「つーかどーでもいいけどうるせー!!五郎、お前こそ声でかくて迷惑なんだよ!」
「なんだと!?瑠千亜!お前もそこに直れ!」
「やーだね。つかせっかくの夕飯なんだぞ?ゆっくり食わせろや!」
五郎と隼、そして瑠千亜との普段の会話が続く。
この合宿に参加できている2年生は俺達4人だけだ。
なので4人で一緒にいると、つい普段のこうした会話やノリが出てしまう。
「まーアレだな。確かにおまえらが二人きりで遅れるとかチョーー怪しいのは確かだな!」
瑠千亜が俺と隼の顔を見比べて言う。
「怪しいとは何だ。」
「だってお前ら普段はこんなミス絶対しねーじゃん。何かあったな?」
「何もない。俺らとて人間だ。稀にミスをすることくらいあるだろう」
実は瑠千亜も俺の気持ちをずっと知っている。
しかしこの2人は、俺が隼に想いを告げたことも、体の関係を持っていることも知らない。
ふと隼の方を見る。
隼は俺に向かって、あの魔的な微笑をした。
そしてその目線は、艷やかに俺の鎖骨へと移った。
その目線に、俺は思わずドキっとする。
柔らかに弧を描き微笑む唇は、いつも以上に肉感的で柔らかく見えた。
思わず見惚れる俺に構わず、隼は素っ気なく再び正面を向く。
そのうなじもまた、言葉に表せない妙な色気を含んでいる。
そして二人に向かって、「本当に何でもないよ」などと言う。
……一体こいつはどんなつもりなのだろう…
無意識なのか?
それともわざと?
俺に向けるあの悩殺的な視線は……
そしてその直後にかましてくる気まぐれな反応は……
隼も実は、さっきの行為が半端に終わったため消化不良なのか?
それで俺の気を引くような仕草をするのか?
思わずそう考えてしまった。
「水持ってくるわ。お前らいる?」
食事も終わる頃、瑠千亜がそう問いかける。
「ああ、よろしく。隼もいるか?」
「俺は大丈夫!ありがと」
「じゃーしゃーねえ優様の分も持ってくるか」
「様づけするな気持ち悪い」
「気持ち悪ってなんだよ!普段からエラソーにしてるくせに!」
「俺は先に部屋に戻ってるぞ瑠千亜。眠い」
「自由すぎだろお前!!いやまあいいけど」
「ルームキーはこれだな?では、ご機嫌よう」
「お嬢かよテメーはったくそのまま永眠しろ」
「俺の水を頼んだぞ瑠千亜」
「だーーわかってるっつの!うるせーなオメーらはほんとに!」
瑠千亜はそういいながら水を取りに行く。
また俺と隼はテーブル上で二人きりになった。
「ねえ優、俺たちのこれ、みんなにバレてないね」
隼は二人きりになった途端、俺の鎖骨に指を当てて少しはしゃいだように言う。
「ああ。バレたいのか?」
「バレたい訳じゃないけど、見つかったらどうなるのかなってのは気になる」
無邪気な笑顔を貼り付けたまま、隼は俺の鎖骨に置いていた指を太ももに持ってきて、そこで手を広げて2回ほど軽くトントンと叩いた。
「さっきはドキドキしたね。……五郎が鋭かったけど、優が上手く交してくれてよかった」
隼は俺の腿に触れながらそう言う。
その顔を見ると、ついさっきまでの無邪気さは全く消えた、魅惑的な笑みに変わっていた。
こいつはわざとやってるな………
俺の脳内がそう確信した。
俺は自分の腿に置かれた隼の手に目線を移した。
瑠千亜が水を持って戻ってくる。
「ああ、すまないな」
俺はそう言いながら瑠千亜からコップを受け取る。
隼は瑠千亜が近づいてきた途端に俺から手を離し、いつものような優しい顔に戻った。
こいつの裏と表、天使と悪魔、子供と大人…
二人きりの時ならず、こうして人が周りにいる状況でその2面性を覗かせることは、こいつが自らそのリスキーな状況を楽しんでいるようにしか見えなかった。
隼は俺とするようになってから変わったのだろうか……
それとも俺が今まで気づかなかっただけで、こいつの無意識的な戯れは元からあったものなのか……
本人に聞いてもきっと分からないと言われて終わるようなこんな問を、自分の中でグルグルと考えていた。
食事を終えて部屋に帰る。
俺と隼、瑠千亜、そして先輩3人の計6人でエレベーターに乗る。
狭いエレベーターの中で、隼と俺の体は密着する。
先輩方は明日のオフをどう過ごすかで盛り上がっており、大きな声で談笑している。
瑠千亜もそれに混ざり、エレベーターの中はワイワイとした雰囲気が支配する。
そんな中、隼は俺の手にちょんと自分の手を触れさせ、俺の目をじっと見つめる。
「………優、早くさっきの続き、したいね」
指をスリスリと動かしたまま、俺の耳元へそう呟き悪魔の笑みを浮かべる。
やはりこいつは元からこんなではない。
俺との行為を通して、自分の魔性に気づき、無意識的にもそれを発動している。
そして自分の性的な衝動を、止めることも隠すこともしない。
一度出てしまった大胆で奔放なそんな欲は、惜しむこと無く俺へと降り注ぐのであった。