第13話 火照
中学2年生の3月。
俺と隼が通う私立旭堂中学校は、毎年男子ソフトテニス部は大型遠征を行う。
行き先は年によって変わるが、今年は学校のある東京からかなり離れた京都へ向かった。
春休み中に4泊5日しながら練習やプロの講習を受けるこの遠征は、総勢100人近くいる部員全員が参加できるわけではない。
全部で18人しか行くことのできない、超難関な合宿だ。
団体メンバー8人は確定で、あと10人5ペアはその年度1年間を通した実績で決められる。
俺と隼は一年生の最初の大会からずっと団体メンバーで、しかも一年生の新人戦以降、ずっと優勝が続いているから、当然の様に参加できる。
厳しい練習と試合、そして食事管理に睡眠や休養管理。
全部1流のトレーナーが一人一人に合わせて助言をしてくれる。
しかし、そんな俺らでも、最終日だけは試合も練習も休みになる。
つまり、遠出した先でのちょっとした旅行気分を味わうことができるのだ。
俺と隼は、この4日間ホテルの同じ部屋で寝泊まりした。
二人きりの空間で寝るのは、初めてしたあの夜以来だ。
ただ俺たちは仮にもこの超強豪校の1番手だ。次の日に試合や練習が残っているのにあんな雰囲気になることなど決してない。
むしろ、1日の疲れと次の日への調整のため、就寝時間前には眠ってしまうのが常だった。
しかし今日は4日目だ。
つまり明日はフリー。
誰もが4日目の練習終了後には異常な解放感と次の日への期待感に包まれるのであった。
二人ともそれを分かっていて、何となく部屋に帰った途端、微かに甘い雰囲気を感じた。
「…優、先にシャワー浴びる?」
先に口を開いたのは隼だった。
「ああ。夕食後に風呂の時間があるが、その前にこの汗を流したい。」
「今日は特に激しかったからね。先に浴びていいよ。待ってる間寝ないように、俺は梨々と電話でもしてようかな」
隼は彼女と久しぶりに話せることが嬉しいらしく、口元がニヤけているのを隠せないでいた。
「そうか…」
俺が先程感じたあの雰囲気は気のせいだったのか…
そう思いながら、ユニットバスの個室に入った。
シャワーを浴びながらも、隼の話し声が聞こえる。
雨宮と話すとき、隼はいつも以上に優しくなる。
そんな甘いような蕩けたような声を聞くと、俺はなぜだが無性に欲情した。
シャワーに当たる体が徐々に熱くなってくる。
隼としたあの日のことを、鮮明に思い出す。
実はあの日から、何度も何度もあの日を思い出してはそれを種に自らの欲を処理してきた。
しかし今は、この扉のすぐ向こうにその相手がいる。
その状況に、俺の体の火照りはなかなか収まらなかった。