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彼がそう答えると、いきなりハルバートの目つきが変わった。
「何……?」
ハルバートは部下が持ってきた酒の瓶を片手で受け取ると、そこで興味津々な表情で聞き返した。
「へーそうかい。で、その山とは何だよ? ここ何年かは何も起きないからよ、俺達は毎日くそみたいに退屈なんだよ。わかるか俺達のやり場のない怒りが? ギレイタスの野郎が倒れてからはここの内情もすっかり変わっちまったぜ。看守達には見回りの仕事があるのによう、俺達の仕事は減る一方だ。一度そのことについて坊っちゃんと話し合いたいところだが、なんかデカイ野郎が坊っちゃんの傍に引っ付いてるからよう、なかなか話せねえんだよな。本当あれには困るぜ。坊っちゃんも趣味が悪くなったな」
ハルバートは愚痴をこぼすと酒を煽ってほろ酔いした。そんな彼の愚痴なんかおかまいなしに、ジャントゥーユは再び伝えた。
「今朝方だ……囚人が一名、牢屋から脱走した……」
彼がその事を伝えると、ハルバートは口に含んだ酒を思わず前に吹き出した。
「なっ、なんだと!? それは本当か……!?」
その話に驚くと、急に椅子から立ち上がった。女はその拍子に床に倒れた。
「邪魔だ退け! お前はもう自分の部屋にでも行ってろ!」
女は肌蹴たシーツを片方の手で押さえると、もう片方の手で自分の髪をパサリと払って立ち上がった。そして、女は言われるままに自分の部屋へと奥に消えて行った。ハルバートは椅子から立ち上がると一言尋ねた。
「その話は本当だろうな? 嘘だったら承知しねーぞ! 俺はな、ぬか喜びするのが大嫌いなんだよ!」
「ああ、本当のことだ……」
ジャントゥーユが正直に答えると、ハルバートの表情が一瞬怪しくにやけた。彼はにやけた顔を隠せない様子だった。久しぶりの大事態にハルバートは手元が奮えると持っていた酒の瓶を小刻みに震わせた。久しぶりの出番にハルバートは思わず、顔がにやけた。上手くいけば彼らにとって名誉挽回のチャンスだった。彼は持っている酒の瓶を床に落とすと、慌てて誰かを突然呼びつけた。
「おい、リーゼルバーグ! リーゼルバーグ! 今すぐ来い!」
ハルバートが大きな声で誰かの名前を呼ぶと、部屋の奥から1人の年老いた男が現れた。彼は口元に髭を生やし、金髪の長髪に後ろをポニーテールにして一本に結んでいた。荒くれ者の竜騎兵の部下達とは打って変わり、彼だけはきちんとした服装をしていた。見た限り、彼は気品が何処か漂っていた感じだった。彼は白銀の竜の鎧を身に纏いながら堂々とした足どりで床の上を歩いた。周りは彼が現れると直ぐに道をあけたのだった。そして、彼の前に立つと一言返事をした。
「私を呼んだかハルバート?」
リーゼルバーグは凛とした口調で彼にそう尋ねた。