3
「私はその言葉を母上の愛だと感じている。母上が亡くなかったあとこの庭に一人で訪れた時に、私はふとたまに思うことがあるんだ。私は母上が望むような子になれたのかと…――。今ではその言葉が私の支えだ。でも、お前に会ってから私の中で何かが変わった。前は一人でも平気だったが、今ではお前がいなければ、私は生きていけそうにもない。だから約束してくれピノ……」
彼はピノの前で跪くと、小さな肩に両手をのせて顔をジッと見つめた。
「どこにも行かないって私と約束してくれ。もう一人は沢山なんだ。両親を亡くして、お前もなくしたら、私はもう生きてはいけない。だから頼む…――!」
ローゼフが寂しそうな表情でそのことを話すと、ピノは何も言わずに彼の頭を優しく撫でた。
「うん、どこにも行かない。ボクはローゼフのそばにずっといるよ。だからもう、悲しまなくてもいいよ?」
「ピノ…――」
彼は人形の持つ純粋なやさしさに心を打たれると、瞳から涙が溢れた。
「泣かないでローゼフ……」
「すまん……」
「悲しいの?」
「いや、違う。嬉しいんだ……。お前の優しさは、まるで私の凍った心を溶かすようだ。お前に会えて本当によかった……。ピノ、愛してる。もう離さない…――」
彼はピノを自分の腕の中に閉じ込めると、狂おしいくらいに強くぎゅっと抱き締めた。
「ローゼフ、そんなに抱き締めたらボク壊れちゃうよぉ……」
「いいさ壊れても……! お前が私の心をかき乱すんだ……! 愛してる…――!」
「ローゼフ、ボクもマスターに愛されて凄くね……」
ピノがいいかけた言葉をローゼフは不意に唇で塞いだ。柔らかい唇が自分の唇に触れると、ピノは頬を赤く染めて彼のキスを受け入れた。それは2人にとって初めてのキスだった。口づけをかわすと、彼の優しさが全身に伝わった。そして、ローゼフの深い愛を感じたピノは嬉しくて涙が自然に溢れた。彼との口づけは、それは永遠の愛を感じてしまう程の深い愛に満ちていた――。
言葉にならない想いが駆け巡ると、2人はその場でキツく抱き締めあった。そして、暫くすると2人は仲良く手を繋いで屋敷に帰って来た。ピノはローゼフから貰った蒼い薔薇を花瓶に一輪挿すと、それを彼と一緒に寄り添いながら眺めたのだった。