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その日、ピノは朝から楽しそうだった。彼から初めて貰った靴を自分のクローゼットから取り出すとそれを履いて喜んでいた。今日は朝からローゼフとお庭で散歩する約束をしていたピノは、彼が起きる前からすでに支度を終えていた。ピノはローゼフから初めて貰った服を着て靴を履くと、彼が起きて来るのが待ちきれないのか、パーカスの服の袖を掴むとしきりに尋ねた。
「ねーねーパーカス!」
「おや、朝からどうしましたか?」
「ローゼフはいつ起きるの?」
「そうですね……。ローゼフ様は朝早く起きるのが苦手な方なので、あともう少ししたら起きるかも――」
「えー! まだ起きてないの!? 昨日の夜、ボクと約束したのに……! 朝起きたら一緒にお庭に咲いている薔薇の蕾を見ようって、約束してくれたんだよ?」
「ほう、左様ですか。それならあとでも大丈夫ではないでしょうか?」
「咲き始めの薔薇じゃなきゃダメなの! もういいよ!」
ピノはパーカスの前でへそを曲げると、自分の部屋から飛び出した。そして、彼の部屋に向かったのだった。部屋に入るとカーテンがまだ締め切られていた。ピノはカーテンを掴むと、そのまま強引に開いた。
「ローゼフ起きてー! 朝だよ~! 一緒に薔薇の蕾みに行こう!」
「う~ん……。ピノ、朝から騒ぐな……。私はまだ寝ていたいのだ…――」
彼は寝言のように返事をすると再び眠りについた。ピノはベッドに右足をかけてよじ登ると、ローゼフの掛け布団の上に乗っかった。
「起きて起きて起きて~! 起きてよローゼフ! 一緒にお庭に行こう!」
掛け布団の上でピノがハシャイで暴れると、彼は寝ぼけた顔で話しかけた。
「わかったよ……。本当にお前はオテンバだな、朝から元気で羨ましいよ――」
彼がベッドから起き上がると、ピノは甘えて飛び付いた。
「ローゼフ約束覚えてる?」
「ああ、昨日の約束だろ?」
「うん! 一緒にお庭に出よう!」
ピノは彼にそう言って話しかけると、横になってローゼフの膝の上に頭をのせた。
「本当にお前は甘えん坊だな……。だが、そこが可愛いな。おはようピノ…――」
「おはようローゼフ!」
ローゼフは寝起きの挨拶をすると、ピノの小さな頭を優しく撫でて微笑んだ。
「おや、その着ている洋服は私が最初にお前に贈った服だな?」
「そうだよ! ローゼフがボクにくれた服だよ、この前ボクと約束してくれたでしょ? いつか一緒にお庭に出て散歩しようねって、ボクすごく楽しみにしてたんだ! それでね、初めて出る時はこの服で出ようって決めてたの。さあ、はやく一緒にお庭に出て散歩しようローゼフ!」
ピノはそう話すと無邪気に微笑んだ。彼の純粋な無垢な心に、ローゼフは思わず圧倒された。彼にとってはその場の口約束だった会話だが、ピノにとってはそれは心から待ちわびるほどのことだった。人形の持つ汚れなき純粋な心は、彼にとっては眩しさを感じるほどだった。ローゼフは先にお外に出ていなさいと言うと彼は支度を始めた。