第2話 好き
しかし、隼と彼女が付き合い始めてから約1年後。
中学2年生の冬、一度だけ隼が俺の部屋に泊まりに来た。
俺は今訳あってこのマンションに一人で暮らしているのだが、隼が家族と大喧嘩をし半ば家出のような形で俺の部屋に転がり込んできたのだ。
普段は誰にでも優しく穏やかで決して誰かの文句を言うことのない隼も、この時ばかりは珍しく多少イライラしていた。
しかもその日は土砂降りの雨の日で、傘も刺さず荷物も持たず、ただその身一つで約5キロの距離を走ってきたという。
涙と雨に濡れ、息を切らしてうつむく隼を見たら、これまで抑えてきたものが抑えられなくなった。
とりあえず部屋に上げ、シャワーを浴びさせた。
俺が用意した未使用の下着と部屋着は隼にとってはワンサイズ大きかった。
余裕のある部屋着を着て髪を乾かしている隼を、俺は恍惚とした目で見つめていたと思う。
隼が俺の目線に気づいてその大きな瞳に微かな動揺の光を宿したとき、俺の理性はもう切れていた。
何年間も決して踏み外さないようにしてきたレールを、こんなにもアッサリと飛び出してしまうのだと自分でも驚いた。
気づいたら俺は隼におかしな質問をしていたのだった。