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第40話 ギルティーラブ※小春Side※

ある6月の放課後。

梅雨が開けて本格的な夏に近づくこの季節は、夕方になっても湿度が高い。

鬱々とした空気に混ざる微かな葉の匂い。

その匂いはどこか夏を感じさせ、これから迎える開放的な季節の訪れを待ち遠しくさせるには十分だった。


私は今、学校一のモテ男、隼くんと並んで校門を出た。

校内に残る生徒はそこまで多くはないが、校内近くの駐輪場やバス停に留まる生徒たちの目線を集めたのは確かに感じることができた。

勿論、その中には嫉妬を隠さない目線もあったわけだけど。


ただ、正直私には関係ないわ。

私たちは今、かなり狭い人間関係の中で高度かつ綿密な駆け引きを行っている。

蚊帳の外の人間には申し訳ないけど遠巻きに見ててもらうしかないわね。

まあ実際、私たちの関係に本気で割って入ってこようとするような勇気のある人はこの学園にはいないようだけど。



そして隣にいる彼………

隼くんは、私達に向けられた視線は勿論、隣で私が考えていることになど微塵も気づいていないようだった。


「昨日は突然メールなんか送っちゃってごめんね!」

「ううん、全然大丈夫だよ!正直、俺も昨日は驚いたことばっかりだったから……一人で悶々としてる時にちょうど共有できたからよかったよ」



2分ほど校門から歩いたところで声をかけてみた。

隼くんはやっぱり、一人で悩んでいたのね

「きっと隼くんのことだから、難しく考えちゃったんじゃないかなーと思って。違う?」

「すごいよ清和さん、よくわかったね!」

いやいや、こんなにわかりやすい人こそなかなかいないでしょう。

見抜けた私がすごいと言わんばかりに整った目をキラキラと輝かせて顔を見られると、流石の私でも少しドキッとしちゃうじゃない。



「隼くんは常にみんなの事を考えてるでしょ?でも今は敢えて周りのことを考えないでいたほうがいいと思うわ」

「あなたが思ってる以上にみんな恋愛に関しては自己中心的なのよ」

「あなたは本当に友達思いで優しくて素敵な人よ。」



悩みまくって頭がこんがらがってる隼くんを受け入れるような言葉をかける。

だけどこれはお世辞ではなくて、心から私が思っていること。

梨々の気持ちを知りながら優について梨々本人に話したり、私の気持ちを知りながら体の関係を辞めない五郎くんも。

梨々の気持ちを知りながら、隼くんと梨々が結ばれるのを避けるために梨々に期待させる行動を取る優くんも。

そして自分の叶わない想いを認めたくなくて、親友を素直に応援せずに隼くんを利用して、親友の梨々と隼くんとの間を進展させようとしている私も。


自分勝手に突き進む私達に比べれば、隼くんは本当に他人のことばかり考えているように見えるわ。



私たちのような汚くて真っ黒な感情を微塵も持ってない人。

それは梨々の持つ白さと似ている。

だからこそ、梨々と隼くんが一番お似合いだと思うのよ。




「清和さんは自分にもすごく厳しいから、きっと世界をストイックに見てる人なんだろうなって思ってて……」

「うんうんそれで?」

「だから、そんなストイックな視点で褒められたら、
きっとそれは誇っていいんだろうなって。お世辞とか甘さとかを抜きにして褒められてる感じがするから…みんな褒められたときの嬉しさが倍で、すごく自信になるんだろうなって思ってるよ」



私の褒め殺しに照れて顔を赤くしながら丁寧に言葉を紡いでくれる隼くんを見ると、本当に母性本能がくすぐられる。

それに……紡いだ言葉の節々から、素直で温かく嘘のない真っ直ぐな彼の人柄が溢れ出ている。

だけど自分の汚さを自覚している私には、その全てが切なく聞こえる。

自分にもこんなに心がきれいな時期はあったのだろうか?と、つい自分が哀しくなる。

梨々や隼くんのきれいすぎる心に触れると、時々辛い気持ちになるのよ。





それにしても彼は自分に自信が無いのに、本当に他人のことはよく見ているのね。

基本男に褒められてもサラリと流している私でも、
思わず心の中でニヤけそうになることを言ってくれるじゃない。

これは無意識にモテまくるわけだ。



「他人の言葉に簡単に靡かないからね~。なんとかして刺さる言葉を届けたい!って思わせちゃうような、そんな魅力」



もし恋愛経験の少ない人がこの会話を聞いたら、きっと私が隼くんに心を持って行かれてると思ってしまうかもね。



まあ、それも3%くらい間違いではない…かな?


五郎と出会う順番や環境が違えば、もしかしたら私は優くんとライバルにでもなっていたのかも?
いや、ないかな?笑 そこはわからないわ。




私の言葉にまたもや照れている隼くん。

可愛いからついいじめたくなっちゃうわね。

あんなにモテモテで女の子からキャーキャー言われているのに、ここまで褒められ慣れてないような反応をする子も珍しいわね。






「次にいつ本気の恋愛ができるかはわからない。

できないかもしれない。

だけど人生は一度きりで、しかも途中で巻きもどすこともできない。

それなら後悔なく……極端な話、明日もしこの世にいなくなっても後悔がなかったと言えるような生き方をしたくない?

今日までの当たり前が、明日からはそうじゃなくなってる可能性だってあるのよ」



これは私のモットーみたいなものよ。
恋愛に限らず、全てのことに言えてると思うの。


明日死んでもいいように、一日一日を後悔なく過ごす。

だから私は、他人に遠慮している暇なんてないの。



これはきっと、余計なお世話ってやつね。

私のモットーを私が貫くのは勝手だけど、隼くんにそれを強制して、彼の変わりたい欲を刺激するなんて。

隼くんが自分を変えたがっているのは前々から勘付いてはいたわ。

あんなに完璧に見える彼でも、悩んでいることは沢山あるはず。







だけど、私がただ彼を変えてあげたいっていう理由だけでここまですると思う?









まさかね。

これも全部、隼くんに自信をつけさせて梨々に向けた行動をさせるためよ。



そして自信を付けた隼くんが梨々にアピールできるようになったとき、私も全力で梨々に対して隼くんの良いところを教えるの。

そして梨々の気持ちを何とか隼くんの方に向けさせた後は、五郎を諦めさせるのよ。


五郎にとって今の私は都合の良い女。


だけど、本命が手に入らなくなって、結局近くにいる都合のイイ女に落ち着くなんて話はよく聞くじゃない。


私は最終的に五郎の気持ちを私に向けさせることができればそれでいいわ。

もし今の都合のイイ女扱いのまま明日死んだとしても、少なくともそれの脱却に向けて計画的に行動したという事実があるだけで後悔はしないで済むもの。


だから私は、自分のためなら親友だって友達だって巻き込んでいくわ。




そしてその一歩……








「隼くん。夏休みにある花火大会、梨々を誘ってよ」

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