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第38話 恋愛経験0※隼Side※

梨々や優、そして五郎のことについて考えていたらいつの間にか寝落ちしてしまっていたようだ。


微かに聞こえる小鳥のさえずりで目を覚まし、ふと携帯を開くと6:35と時間が記されていた。


(このまま起きよう)


そう思ってゆっくりと起き上がる。

ベッドから降りた途端、心地よい筋肉痛がふくらはぎに走る。


全国大会にむけての練習は日々厳しさを増していた。

だけど練習中は、余計なことは何も考えなくてよかった。

練習をしていないと、こんなふうに四六時中梨々のことを考えてしまう。

なんだか不健全すぎるな………






朝のシャワーを浴びようと脱衣場で服を脱ぎ、下着を見た。

(……やっぱり……)


僅かに感じていた不快感の理由が目の前に現れた。


…………今日も自分で洗濯しよう。



ほんとに不健全すぎる…………













「それってめちゃくちゃ健全じゃん!」

昼休み。

いつものように俺と優、瑠千亜、五郎の4人で昼食を取っていた。


「声がでかいぞ瑠千亜。というかあり得ないなお前ら。普通公衆の面前でそんな話をするか?」

「そうやって意識しちゃう優クンはやはり中学生だな~。特に変なことでもやましいことでもなかろうが。健康で一般的な中学生の話だ」

「抜かせ五郎。お前が言うと余計に汚く感じるっつーの。それに『やはり』とか言わんでも俺らは中学生だろ。」

「なぬ…っ!?汚いだと!?それはさすがに聞き逃せんぞ優!俺と瑠千亜が汚いというのなら、貴様だって汚いのだ!そして隼もな!」

「ええっ俺!?」

「隼を巻き込むな。」



五郎の暴走に優が突っ込むお馴染みの光景。

瑠千亜から始めたであろう会話がきっかけらしいが、
正直俺は昨日から例のことが頭から離れなくて話半分に聞いていた。



「えーと、なんの話?」

「いやお前聞いてなかったんかいっ!」

「ごめんごめん、途中までは聞いてたよ?洗濯をどうするかって話だよね?俺も最近は自分でしてるよ」


「いやそこむしろ終着点だから!!それに至るまでの話に関して今とやかく言い合ってたんだぞ!?聞いてねーじゃねーか!!」

「ごめんって瑠千亜。それで不健全がなんだって?」

「なんでテメーはその絶妙なとこだけ細切れに覚えてんだよっ!」




俺がほぼ話を聞いていなかったことがみんなにバレてしまった………



「それにしても隼も自分で洗濯をするとはな。やはりこいつもやることやってるのだろう。」

「その言い方はよせ五郎。気持ち悪い」

「ふん。隼が絡むと気持ち悪いくらい突っかかってくるのはお前の方であるぞ優」

「え、ちょっとまってほんとに何の話?」

「いやだからー、自分のパンツが汚れてるのを家族に見られたくなくて自分で洗濯してんじゃねーの?って話!」

「瑠千亜お前…ついに言いやがったな」

「そりゃ言うだろ!隼は何もわかってねーしな!」


「あーそういうことか!そっか、あれは健全なことなのか………よかったよかった」


「え!?隼お前今なんて………」

瑠千亜と五郎が驚いたようにこっちを見た。

けど俺も驚きと安心が混ざったような感覚だ。

なんかやけにリアルタイムな話だなと思った。

俺の身に今朝起きたことを、みんなも経験してるんだと知って少し安心した。


「ふん。童子だと思っていたが隼も1人前の男になっているのだな」

「どこから目線だよそれ。つーかビビったわ。隼もまさかねえ…」

「俺は自分だけ病気とかなのかと思ってたよ。最近地味に焦ってたけど違ったならよかった、みんなのおかげで安心した」

「え!?え?いやいやいや……」

「フハハハ!!病気か、いや病気なー。確かに隼のその異様なまでの鈍感さと穢れ無き精神はある意味病気なのかもしれんが」

「意味わからん理屈で隼を病人扱いするな五郎。間違いなくお前のほうがいろんな病気だ。」

「それは言えてる。ってか隼お前すげーな、まじで天然記念物じゃん」


「褒められてるの?それ」

「褒めてる褒めてる!な?優?」

「俺に話を振るな。とりあえずこの話は終わりだ」



優が少し怒ったように話題を強制終了させ、みんな少しの間、すっかり忘れていた食事という行為に戻った。





しかし沈黙が続くとまた余計なことを考えてしまう。


今までと同じように普通にこうして仲良く話してる俺ら。

その中で俺と五郎は好きな人が被ってる可能性が高くて、優と瑠千亜にも好きな人がいて。


そういえば瑠千亜が前に、俺のことと梨々のことは応援できないって言ってたけど……

あれはどういう意味なんだろう。


今までのみんなとの何気ない会話が、俺のモヤモヤした気持ちに少しずつ繋がっていく。

……いや、無理やり繋げようとしている。


だけど、どう繋げようと、結局分からないことだらけだ。

ここまで恋愛を一切してこなかった俺には、何もわからなかった。

結局昨日の夜に部屋で考えたことにも答えは出ていない。

俺はこれからどうするべきなのか。

みんなを俯瞰して見る事ができたら、できるだけ全員が幸せになれる行動ができるのなら、俺は何をするべきなんだろうか。

とりあえず、優と梨々がお互いに気持ちを向けていないことはほぼ間違いない。

2人の気持ちはどっちも大切なものだから、どっちを優先するとか応援するとか、そんなことは考えられない。


けど今まで俺は、身勝手なまでに梨々を応援し、協力ばかりしてきた。

それを見ていた優は、一体どんな気持ちだったのかな……



そういえば……


大会の日、焼肉屋に行く前に優と話したことを思い出した。

同性同士の恋愛についてどう思うか。


やっぱりあれは、優が当事者ってことだったんだね。

俺に聞いてくれたってことは、俺が自分から優の恋愛について聞いてもいいのだろうか。

それともやっぱり、余計なことはしないほうがいいのかな………


堂々巡りの思考の沼にハマる自分を止めるために、思い切り目をつぶった。



「なんだ隼?目でも痛いか?」


そんな俺の様子を見て、優が優しく声をかけてくれた。




優が俺以外に仲良くしている男子って、ここにいるメンバー以外にいたっけ?

もちろん小学校が違うから、俺の全く知らない人なのかもしれないけど………


「ううん、大丈夫だよ。ちょっと寝不足で眠かっただけ」


ホントは違うけど、でも寝不足気味なのは本当だし…

ここ数日の考え事ばかりな俺を見て、鋭い優なら何か変だと気づいてそうだ。


だけどここで俺が優に変な心配をかけてしまえば本末転倒。

優にも梨々にも、幸せになってほしいと思っているのに余計なことで悩ませたり心配したりしたくない。

そのためにも、やっぱり俺がこうして無駄に悩むことも辞めなきゃいけないな………



「寝不足、な」

「なんかヤーラシ」

「え!?なんで!?」

「なんでだろうねえ」

「お前らふざけるなよいい加減に。隼はお前らみたいな猿とは違う。」

「えーなにそれひっど!男子中学生なんてみんな猿じゃん!」

「というか人類ホモサピエンスなんだし全員猿みたいな…」
「隼は黙ってろ!!お前だけ方向性ちげーから!」

「ええ…」

「黙らせるならはじめから隼に変な話を振るな。」

「ったく保護者かよテメーは。過保護野郎め!」
「子離れできてない親は厄介だなつくづく」


また瑠千亜と五郎が軽口を叩き合い、それに対して優が突っ込み、二人がそれに更に言い返す。

こんな繰り返しは毎日のことで聞いてる方としては面白い。

けど、やっぱり優の気持ちは見えてこない……


でも、俺が詮索することでもないのかもしれない。


よくある俺だけがついていけない会話をちゃんと聞いて、そこから自分で気づけるくらいにはなりたいな。

鈍感な俺にそんなことができるかは分からないけど…

察する力というものも大事なのだろう。
そういうことを、この三人を見ていてつくづく考えさせられる。

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