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第18話 ごめんね※小春Side※

       

「五郎くんって、テニス初心者なんだって」

男子第一試合。

同じ学園の男子部員たちが応援するのに囲まれながら、私と梨々はひっそりと隅のほうでその試合を見ていた。


「ねー!本当にすごいよね!始めてまだ2か月しか経ってないとは思えないよ!ほら!今のボレーだって!!!」


隣の梨々が感心したように驚く。


今、3セット目でゲームカウントは2-1でこっちがリードしている。

セットカウントは4-4。デュースアゲインを繰り返している、

このセットを取れるか取られるかで、その後のゲームに大きな影響を与える。

ここでこっちが守りきれば、ゲームカウントは3-1になり、一気にそのままゲームセットに持ち込める可能性が高くなる。

でももしここでとられてしまえば、ゲームカウント2-2で並んでしまい、振り出しに戻ることになる。

向こうに取られた1セットは、こちらがサービス側の時だったから、今取られて並んでしまえば、その次のセットでこちらがサービスのときにまた取られてしまうことも考えられる。


そうなるとゲームカウントは2-3となり、一気に不利になってしまう。


だから、どうかここで逃げ切ってほしい。


「すごいっ!瑠千亜くんナイスコース!!!」

梨々が立ち上がって叫んだ。

相手後衛からのセカンドサービスを、瑠千亜がネットスレスレのツイストレシーブで返した。

そのレシーブは相手前衛を抜き、後衛も届かなかったため、こちらのアドバンテージとなった。



「お願い......ここで決めて....!」


梨々もテニス経験者なため、どこで取られたらどちらが不利になるとか、そういったゲーム運びのことはわかっているから、ここで取らなきゃピンチであるということを悟っていた。


相手後衛からの、五郎へのサービス。

状況をわかっている同じチームのみんなから感じる緊張感とプレッシャー。

レシーブを構える五郎が唾を飲み込む。


シンとしたコートに、相手の打ったファーストサービスの音が響く。


さっきのセカンドサービスとは比べ物にならない速さのその球は、ギリギリセンターラインの手前に落ちた。

副審がコート中央まで走り出す。

インのサイン。



バックハンドですかさず相手コートにサービスを返す五郎。


そのレシーブは咄嗟に出たバックハンドの球ということで、少し回転がかかっていた。

それに気づいた相手後衛が前衛に指示する。

五郎のレシーブは逆クロス方向へ少し高めに上がっていたが、相手前衛が下がってスマッシュの構えをした。



回転のかかった球は前衛が処理したほうが良い。

だから下がったのだろうが......



「チップ!!!」


主審が相手前衛を指差して叫ぶ。


五郎の球は、スマッシュしようとした相手前衛のラケットの先端に微かに触れたらしい。



「うおっしゃぁ!!!!!ラッキー!!!!」



その主審の合図に、五郎と瑠千亜、そして彼らのチームメイトの喜びの声が聞こえる。


これでやっと4セット目終了。

ゲームカウント3-1。

相手を引き離すことができた。



ホッと安心の一息をつく。

梨々も隣で安心した表情を浮かべていた。



コートチェンジの合間に、一分間のミーティングがある。

両チームの応援の歌がひびきあう。



「最後の五郎くん、かっこよかったね!」


梨々が耳打ちをしてくる。

相手のミスとはいえ、咄嗟に返したレシーブコースが絶妙によかったからこそ導けたミスだ。



「そうね。あれもきっと、優くん仕込みよ。」


敢えて梨々の想い人の名前を出してみる。


梨々がわかりやすく顔を赤らめ、嬉しそうな顔をする。


「優くんも、五郎くんもすごいなぁ」


「五郎も凄いけど、あんた今優くんさすがーって思ったでしょ?」

ニヤニヤとからかうように言ってみる、

「えっ!そんな!....いや、そうなんだけどね?」


「いやーん、梨々ちゃん可愛い~照れちゃって~」


「っもうっ!小春のいじわる~!」


「フフッごめんごめん」


梨々のわかりやすさは異常だと思う。

これは間違いなく本人も気づいているわ。



まあ、本人が気づいたところでどうこうなる問題じゃないけどね。


でもね、梨々。


あなたには、ずっと優くんを見ていてほしいの。


いや、優くんを好きでい続けても、いづれ傷ついちゃうわね。

だって、優くんの好きな人は...........



だから、私はあなたの友達として、早く優くんの気持ちを知ってほしいわ。

一時的には梨々が傷つくかもしれないけど、そうしたらすかさずあなたを助けて、慰めてくれる人がすぐ側にいるのだから。


きっと彼はあなたを幸せにしてくれるわ。

誰よりも、あなたを想っているんだもの........

でも、そんな男の人は、私が知ってる限り2人いるの。

梨々を誰よりも想っていて、梨々が傷ついたらすぐに助けてくれそうな人.....


でもね、そのうちの一人は、どうか私へちょうだい。



"彼"は、あなたのような純粋な子には合わないわ。

私のような、恋愛に一癖もふた癖もある女じゃないと。



きっと、あなたを傷つけることになる。



だからね、私がやらなきゃいけないことは1つだけ。


梨々が、優くんの気持ちを知る前に、"彼"を振り向かせること。



だって、梨々が優くんの気持ちを知って傷ついたとき、二人の男が動くだろうけど、きっともう一人は優しいからなかなか動き出せないと思うの。


でも、"彼"はきっとすぐに動いてしまう。

そうすれば、私の入る隙がなくなってしまうのよ。



だから、あなたが傷つく前に、"彼"をこっちに向けさせる必要があるわ。


ごめんね、梨々。


「梨々、この試合が終わったら優くんを褒めてあげなよ。優くんの特訓のおかげで五郎が活躍してた、ってね。」


そう、あなたは純粋に、ただ優くんに恋してればいいわ。



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