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 椅子の上に拘束されてから数時間が経った。拷問部屋では、オーチスとケイバーの言い争いは止まる気配はなかった。静観していたチェスターは、2人の言い争う会話を黙って聞いていたが、ケイバーの話しに思わず体を震わせながら凍りついた。彼はカッとなるとオーチスの胸元を掴んで言い放った。

「クソジジイ、てめぇなんかこの俺が今すぐ処刑してやる!」

 そう言って短剣を振りかざすと、そこにクロビス達が部屋から戻ってきた。

「待て、そこまでだ!」

 2人が戻ってくるとケイバーは舌打ちをして短剣を懐におさめた。

「ちっ、良いところだったのによ……! フン、命拾いしたな!」

 ケイバーはそう言うと一歩後ろに引き下がった。オーチスは一瞬、命拾いしたと安堵の表情を浮かべた。

「お前さっき倒れたが大丈夫か?」

 彼が尋ねるとクロビスは鼻で笑った。

「ああ、このとおり大丈夫だ。それこそ倒れたおかげで頭の中がスッキリするくらいにな」

 そう言って一言返事をすると、ケイバーはそうかと言って笑った。クロビスはオーチスの目の前に黙って立つと冷酷な表情で見下した。

「……オーチス、貴様の精神攻撃はなかなかだったぞ? そのおかげで夢の中でアレの幻覚を久しぶりに見るくらいにな。愚かな貴様には囚人を逃がした罪と、我々を騙した償いをしてもらうぞ。もちろん覚悟は出来ているだろうな?」

 ただならぬその言葉にオーチスは自分の唇を噛み締めた。

「ケイバーとギュータス、お前達2人は今からダモクレスの岬の捜索にあたれ! この吹雪の中だ。囚人1人の足どりではそう遠くまで行けまいさ!」

「おいおい、マジかよクロビス……!? 外は吹雪なんだぜ? 探す前に俺達が凍死しちまうよ。それに視界だって悪いのに見つかるわけがねーよ。どうせこの吹雪なんだ、逃げても途中で凍死してるかも知れねーだろ?」

「何……?」

 彼のその言葉にクロビスは目を細めた。

「俺、寒いの苦手なんだよなぁ……」

 ケイバーは愚痴をこぼしながら、そう言って彼に反論しのだった。

「フン、だから何だ? 下僕の分際で私に意見をたてるな! それともなんだ。貴様は逃げた囚人をみすみす見逃すとでも言う気か?」

 クロビスはそう言って言い返すと、手に持っている鞭を床で鳴らして威圧したのだった。

「後で親父に報告するのはこの私なんだぞ! 囚人1人を脱獄させたなど親父にこの失態をどう報告すれば言いのか考えてみろ! それとも貴様はこの私に死ねとでも言う気か!?」

 彼は物凄い剣幕で怒り狂った。その怒り狂う姿に、さすがのケイバーも仕方なく諦めた。

「下僕は私の手となり足となり黙って従っていればいいんだ!」

 3人はクロビスの怒り狂う様に沈黙した。

「でもようクロビス。この吹雪のなかじゃ、俺達だけでダモクレスの岬まで捜索しに行くのはリスクが高すぎるぜ」

 ギュータスがそのことを言うと、クロビスは呆れた顔で一言答えた。

 
「まったく呆れるな。バカはやっぱりバカなのか? 誰が貴様らだけを行かすと命じた。お前達だけじゃ役に立たないからな。竜騎兵の連中共をダモクレスの岬に捜索にあたるように手配するさ」

 クロビスはギュータスにそう答えると、再び鞭を床の上で鳴らした。

「フン、上空からの捜索にワイバーンを使うまでだ。ワイバーンは寒さに強い生き物だ。その点、使えないお前達よりかは使える。さあ、無駄口がすんだら捜索にあたれ!」

 彼がそう話すと、ケイバーはその手があったかと頷いた。

「なるほど~ワイバーンか、そりゃあいい考えだ……! 上空からの捜索が一番手っ取り早いな! それに地上からの捜索じゃ、探すのに苦労するからな。そうと決まれば竜騎兵達の連中を捜索に当たらそうぜ?」

 ケイバーがそう言い返すとクロビスは鼻で笑った。

「ああ、竜騎兵達には後で私が命令を出すさ。だが、貴様達は何が何でも外の捜索にあたれ! 1人だけ楽をしようなどと、甘い考えはしない方が身の為だぞ? したら貴様を水責めの刑にしてやる――!」

 クロビスがそう言い放つと、ケイバーは落胆した表情で肩を落とした。

「ちっ、バレたか……。やっぱり俺らも外に行くしかねーってか?」

「ああ、そうだ!」

「くそ~! ジジイが余計なことをしたせいで俺らまで外に行くハメになっただろ!?」

「それもみんな全部、お前のせいだ!」

 ケイバーは思わず不満を口走ると、オーチスが座っている椅子を再び足でガンと蹴った。

「フン、行儀が悪い上に私を不愉快にさせたお前達2人は、この凍てつく寒さの中でじっくりと反省するがいい!」

 クロビスは両手に鞭を持つと、ただならぬオーラで威圧した。ケイバーが愚痴と不満を漏らす半面、ギュータスはニヤニヤしながら笑っていた。彼が見下した目つきで2人の前に仁王立ちするとケイバーはそこで反論した。

「何だよそれ? 行儀が悪いならジャントゥーユも同じじゃねーか! あいつも俺達と一緒に外で捜索にあたらすべきだ!」

 ケイバーがそのことを指摘すると、クロビスは革手袋を外して彼の顔をいきなり叩いた。

「飼い犬の癖に飼い主に向かって口答えとは、それこそ行儀が悪いぞ?」

 クロビスは革手袋で叩くなり、見下した目つきで話を続けた。

「ジャントゥーユはお前らよりもまだ行儀がいいほうだ。私の命令に不服を感じるなら、今直ぐ貴様をこのタルタロスの牢獄から追い出してやる……!」

 彼のその言葉にケイバーは、急に黙りこんで服従してみせた。

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