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1話 世界一の殺し屋

 眠らない町東京、そこで巷で噂の一人の殺し屋がいた、その名はシゲルヒメ。彼女は依頼を受けたターゲットを必ず仕留めるつわものの殺し屋である。だがあくまで殺し屋は彼女の裏の姿である…


 とあるホテルの部屋にて殺し屋の元に一人の男性がノックをしてやってきた。

「どうぞ」

 殺し屋がそう言うと四十代の男が部屋に入ってきてその男と殺し屋はテーブルを挟んで座り取引についての話し合いが始まった。

「どうも坂田と申します。あなたの実力はかなりの腕前と聞きますから期待していますよ、シゲルヒメさん」

「いやそれほどでもないですよ」

「それで本題の方ですがターゲットの人物はこちらになっております」

男は胸元から写真を取り出して提示したがシゲルヒメは戸惑いの表情を見せたのだ。

 その写真には現実には存在しない二次元の女が写っているので困惑していると男は慌てて写真を入れ替えた。

「失礼、間違えて私のワイフの写真を出してしまいました」

 シゲルヒメはそのことを聞いた時この依頼者の男は相当頭が壊れているのではと思った。

「どうです、先ほど少し見えてしまいましたが私のワイフは美しいでしょう。結婚して十年ほど経ちますが美貌は今でも変わりませんよ」

「はあ」

(そりゃ二次元いるワイフなら十年経っても顔は変わらないだろう

 そして本題に入りシゲルヒメは動機について問うと男をこう答えた。

「先日、たまたま知り合いの男と再会した時に結婚したことを伝えると妻の顔が見たいと言ってきたので先ほど誤って見せてしまったあの写真を差し出したら鼻で笑われ馬鹿にされたのですよ、私は真剣に言っていたのですがあんな対応されてしまったらこちらもこのまま黙っているわけにはいけません。それで思ったのですよ、やつを復讐しようと」

(こんなことで殺意を向けられているターゲットの男もかわいそうだな)

「それで報酬は?」

「二千万で引き受けてもらえないでしょうか」

 シゲルヒメはこんな動機で殺されるターゲットの男もあわれだと思ったが依頼を受けたターゲットを殺すのが仕事なので引き受けることにしたのだ。

「それでは頼みましたよ、シゲルヒメさん」



とあるホテルの部屋にてシゲルヒメは先日あの男に依頼された駿河という男を暗殺するためここから会社の中にいるターゲットをスナイパーで遠距離射撃をすることにした。

射撃する準備はもう整っておりあとはタイミングを待つだけだった。

 シゲルヒメはライフル銃を構えていた、射撃というのはメンタルの強さが結果を左右するといわれる、気象条件や周囲の状態に左右され正確な射撃ができない者もいる。だがシゲルヒメは特殊な訓練を受けていたため正確に射撃できるのだ。さらに呼吸法により心を落ち着かせより集中力を研ぎ澄ませた。

 そして射撃するチャンスのタイミングが来たのでライフル銃の引き金を引こうとする。

(今だ)

 だがその時、扉を急にノックされたため撃てず中断になりせっかくのタイミングを逃したため不機嫌になりながら扉を開けて見ると一人の男が立っておりこう言ってきた。

「あの、出前の者ですが塩ラーメンを届けに参りました」

 シゲルヒメはターゲットを仕留めることだけに集中していたため出前を頼んだことをすっかり忘れていた。

 それで出前の男は部屋にあったライフル銃を見てこう言った。

「あの、窓の外に銃みたいな物が向けられているのですがここでやられているのですか」

「見ればわかるだろうが、ライフル銃でこれから暗殺だよ。それより今忙しいから早く出てってほしいのだが」

「左様ですか、それじゃ失礼します」

 シゲルヒメはむしゃくしゃした思いをしながら出前の男に帰りを促すとノコノコと帰っていった。

 そして出前の男は帰り際にこんなことを思っていた。

(変わった人もいるものだな、ホテルで暗殺ごっこなんて。いい大人が何をしているのだか)

(でももしかしたら本当の殺し屋だったりして…けれども自分から今からライフル銃で暗殺しますって言うまぬけな殺し屋はいないだろう)

 そんなことを出前の男に思われている殺し屋のシゲルヒメは引き続きターゲットを仕留める絶好のタイミングを伺っていた。

 そしてまた射撃するタイミングが来てライフル銃の引き金を引こうとする。

(今度こそ)

そして銃弾はターゲット目掛けて飛んでいったがしくじったことをしてしまった。

「しまった、サイレンサー付けるのを忘れた」

そのため周囲には銃声が響き渡ったが工事音などの雑音に紛れ込んだため運よく誰にも気付かれずに済んだ。

だが飛んで行った銃弾はその時突然吹いた突風により大きく逸れたのでターゲットを仕留めることができなかったがまたすぐに射撃するチャンスがきた。

「今度こそ」

ライフル銃の引き金を引こうとしたその時、スマホのアラームが鳴った。

「ソシャゲのイベント時間か」

シゲルヒメは射撃を中断しスマホのソシャゲを開き没頭し始めたのだ。

その後は駿河という男の射撃をまた試し見るがタイミングが訪れず仕留めることはできなかった。

そしてそのあと駿河という男を遠距離で射撃することはもう無理だと思い作戦を変更し近距離で暗殺をすることに決めたのであった。

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