12
「俺を醜いと呼ぶな!」
腹の辺りにナイフを突きつけられた瞬間、ギュータスは一瞬驚いた。
ジャントゥーユは冗談でナイフを彼に突きつけたわけでもなく、本気でナイフをギュータスに向かって突きつけたのだった。
「下からナイフを上に向けてあげたらどうなる?」
ジャントゥーユは薄気味悪い笑いを浮かべながら彼にそう話すと、ニタニタしながら其処で笑った。
「まず、引き裂かれた腹の中から腸が出てくる……それから内臓にすい臓だ……床にお前の胃袋をぶちまけてやろうか……?」
醜い顔に狂気じみた笑いを浮かべると、そのことをギュータスに言った。
「俺は……お前が床にぶちまけた内臓を……焼いて食う……」
ジャントゥーユはイカれた感じでそう話すと、ギュータスは「冗談だろ?」と言って一歩彼から身を退いた。一歩身を退いて側から離れると思わず言い返した。
「――俺もイカれてるがお前の方がよっぽど頭がイカれてるぜ! そのイカれた頭は父親似か? さすが何人も人を殺してきただけにあるな!」
ギュータスがそう言うと、ジャントゥーユは壊れた人形のように首を傾げた。
「俺、イカれてる……? そうか……俺はイカれてるのか……」
ジャントゥーユは壊れたように首を傾げると、ブツブツと何かを独り言を呟いていた。そして、目の前の鉄格子に向かって自分の頭を何回もうちつけてはそのことを呟いたのだった。
ジャントゥーユが壁に自分の頭を打ちつけていると、ギュータスは呆れて暫く黙って傍で見ていた。そして我に返ると、ジャントゥーユは自分の頭を壁に打ちつけることを止めた。
「気が済んだかよ?」
彼が呆れた顔で尋ねると、ジャントゥーユは額から血を少し流しながら頷いて返事をした。
「ああ……!」
ギュータスは牢屋の外でさっき何をやっていたかを尋ねた。するとジャントゥーユは、牢屋の前にある鉄格子の傍に黙って近づいた。半分壊れている鉄格子の前に佇むとギュータスを手招きで呼んだ。ジャントゥーユに呼ばれるとギュータスは、鉄格子の前まで歩いて移動した。そして、彼は壊れた箇所を指差して話したのだった。
「ギュータス、これをみろ……!」
ジャントゥーユがそう言うと、指を指した方向をギュータスは不思議そうに目を向けた。
「なんだよ?」
ジャントゥーユは壊れている鉄格子の前に立つとギュータスに話した。
「囚人……ここから逃げた……」
彼は壊れている鉄格子を前に指をさすと、そのことを話した。ギュータスは、壊れている鉄格子の目の前に立つと自分の目で確認したのだった。
「確かにここの鉄格子は壊れているな、囚人の野郎ここから脱走したのか!」
ギュータスはそう呟くと鉄格子を触って確かめた。
「そう言えばオーチスの野郎が今朝クロビスに報告してたな。脱走した囚人の牢屋は鉄格子が腐っていて、そこを無理矢理壊して脱走したってな。けっ、今考えれば俺達も上手くアイツに騙されたわけだ。まさかあいつが囚人の脱獄に担してたとはな!」
ギュータスはそう言うと鼻で笑ったのだった。
「鉄格子を触ってみたが、ここの箇所だけ腐ってやがる。オーチスの野郎もよくこんな所を見つけて脱獄に利用したよな?」
彼はそう話すと、壊れている鉄格子の付近を目を凝らしてくまなく見た。壊れている鉄格子の箇所は他の部分とは明らかに違い、何故かその部分だけが異様に腐っていた。ギュータスはそこで不意に疑問に感じたのだった。
ギュータスが疑問に思ってもおかしくない状況だった。タルタロスの鉄格子は普通の牢屋にある鉄格子とは違いかなり頑丈に出来ていた。普通の体格の男が無理矢理、力で鉄格子を壊そうとしても簡単には壊れない作りになっていたのだった。それこそ怪力自慢の男じゃなきゃ、このタルタロスの鉄格子は壊せない程とてつもなく頑丈だったのだ。ましてやタルタロスの牢獄にある鉄格子は、長年の間さびて腐った報告はなく。今でも鉄格子は無気味なほど頑丈だった。何故ここまで頑丈かと説明するとそれはまさに囚人が牢屋から簡単に脱獄させない為の対策であり。その為、この頑丈な鉄格子がタルタロスの牢獄内のあちらこちらに設置されていた。そんな頑丈で出来ている鉄格子が一体何故、一部だけ腐ったのかとギュータスは疑問でならなかった。
「なんか不気味なんだよな。なんでここだけ…――」
ギュータスはそう呟くと壊れている箇所を再び調べた。
「まさかアイツここだけ何か細工をしたのか?」
ギュータスは素手で触って何度も確かめたが、細工は何ひとつもみつからなかったのだった。
「ケッ、本当にここだけ腐ってただけかよ」
彼はそう話すと調べることをやめたのだった。
「鉄格子が溶けてたら、オーチスが囚人の脱獄に加担した証拠に繋がるんだがな。細工した跡もねーし。ただ鉄格子が自然に腐ってただけか……」
ギュータスはそう理論づけると、ジャントゥーユにそのことを話した。
「まっ、恐らくアイツは黒にちげえねぇ。チェスターの言うとおり、アイツは端から黒だとおもう。きっと日頃の鬱憤がたまって、とうとうキレちまったのかもな?」
ギュータスは笑いながらそう話すと、証拠となる紙を探しに再び牢屋の中へと入って行った。するとジャントゥーユがいきなり彼の手をガシッと掴んだ。