138章 予定
フタバが帰宅しようとしていると、ココアが近づいていった。
「ラーメンを食べることはできませんか?」
「今日は完売となっています。ラーメンを食べたいのであれば、明日以降に並んでください」
「いつから並べばいいですか?」
「一〇時までに並んでいただけたら、食べられる確率は高いと思います。十一時以降になったら、かなり厳しくなりますね」
ラーメンを食べるために、一〇時から行列を作っているとは。店主のラーメンは、三ツ星レス
トランに匹敵する評価を受けている。
シオリが別の角度から、質問をぶつけていた。
「予約することはできないんですか?」
予約できるのであれば、長蛇の列に並ぶ必要はなくなる。待ち時間を短縮できるのは、非常に大きい。
「当店は予約を受け付けていませんし、予約を取り入れる予定もありません。列に並んだ人に対して、ラーメンを提供していきます」
予約システムを導入すると、莫大な手間がかかることになる。人数の問題が解決されない限り、予約制を取り入れることはなさそうだ。
「アカネさんとやってくるときは、特別にラーメンを提供することになっています。命を救って
くれた恩人に対しては、特例を設けています」
1000万ゴールドがあったからこそ、フタバの家族は、健全な生活を送ることができた。お金がなければ、路頭にさまよっていた。
「フタバさん、ラーメンはいつなら食べられますか?」
「これから作れば、6時ごろには準備できると思います」
フタバの目が、娘を思いやる母親になっていた。かわいい子供のためなら、労力は惜しくない
ようだ。
アカネは四人の夕方のスケジュールを確認する。全員の都合が空いているならば、ラーメン店に足を運ぼうかなと考えている。
「ユメカさん、シオリさん、ココアさん、ミナさん、夕方の予定はどうなっているのかな」
ココアが最初に答える。
「私はだいじょうぶです」
第一関門をクリアした。残りの三人がOKなら、ラーメンを食べることができる。
次に答えたのは、シオリだった。
「子育てがあるので、夕方には家にいなくてはなりません。六時に足を運ぶのは、かなり厳しいです」
二人目の時点で、NGとなってしまった。ラーメンを食べるのは、次回以降に持ち越しになる。
三番目に答えたのは、ユメカだった。
「私はいけますよ」
ラーメンに興味を持っている女性には悪いけど、今日は足を運ぶつもりはない。家の都合によって、不公平感を出したくなかった。
ミナが最後に答える。
「子供の面倒を見るために、夕方までに戻る必要があります。六時にラーメンを食べることはできません」
ミナが時間を取れないことに、心から安堵していた。ラーメンを食べないといった場合、シオリだけに、集中砲火を浴びる展開を避けられる。
四人の話を聞いていると、全員が家庭を持っていることになる。「セカンドライフの街」においては、一〇代で子供を持つのは、当たり前になっているのかもしれない。
アカネは5人を代表して、ラーメンを食べられないことを伝える。フタバはそれを聞くと、しょんぼりとした顔になる。その様子を見ていると、とてもいたたまれない気分になった。